第37話 既視感の予感
「あのー、いっこいい?」
手をあげながら口を挟んできたのはカルラである。思い返すと、目の前で可愛い女の子の胸が揉まれた、こんな不祥事案件を目の当たりにして、あのカルラが黙っていたとは珍しいな。いや、おかしいのかこの場合。
「いいっすよ、カルラさん」
そんなカルラが眉根を寄せながら、
「曽祖母辺りに同じ名前でウィー・リルヘルスって人とかいない?」
その問いに、少女――ウィーは軽く首を振る。
「いないっすね」
「なら粗祖父母は?」
「残念ながら」
「じゃあ、親戚とか!」
「うちの知る限り、ウィー・リルヘルスはうちだけっすよ」
そう言うと、カルラは腕を組んで首をひねって唸る。
「なんか気になるのか、2代目?」
そのやりとりを隣で見ていた師匠が聞くと。
「んやー、この子が俺の知ってる子にめっさ似ててさ。それも同じウィー・リルヘルスって名前で。でもまぁ、人違いなのは間違いないんだけどな!」
ハハハハと軽く笑うカルラに、
「人違いじゃないっすよ。多分それ、うちっす」
と、ウィーが言う。
「・・・・・・まぢ?」
「まぢっす」
「まぢ、かよ……」
カルラの表情はどこか硬く、それでいて嬉しいような悲しいような、そして信じたくないような、そんなふうに俺には見えた。
「でも前俺が会ったウィーはこんなにちっさかったような……」
「いやいやいやいや、いつの話っすかそれ」
手で自らの腰辺りを示すカルラに、ウィーがブンブンと顔の前で手を横に振った。
「いつって、そりゃ4――」
――バキっと、木の枝が折れるような乾いた音が響く。見ると、カルラが地面にキスをしていて、どういう原理か右腕が変な方向に捻れていて・・・・・・。
「――年ぶりっすよ。それだけあればここまで大きくなっても何の不思議もないじゃないっすかー」
ウィーはニコニコと笑いながらそう言った。
「だ、大丈夫カルラくん!?」
「待って下さい、すぐに治癒魔法をかけますから!!」
驚いた表情のアリシアと、焦った表情のフィーナがカルラに駆け寄る。
「そんなことしなくても、アリシアちゃんとフィーナちゃんが俺の腕を抱きしめてくれたらこんなのすぐに治――」
「いいから黙って下さい」
カルラの痩せ我慢を真面目な顔でスルーしたフィーナは、すぐに魔法の詠唱に入った。その顔は真剣そのもの。フィーナにとってけが人はけが人であることに変わりはない。例え自然に傷が治り、死ぬことのない不死の能力を持った勇者だとしても、だ。
そして、それを横目で見ていたウィーが言う。
「で。こんなに危ないメンツを揃えて何しに来たんすか?」
と、ここでようやく本題に入れたわけだ。
俺は今までのことを簡単にウィーに説明した。
「なるほどなるほど。つまりは使者としてうちらの中から誰かを連れていきたいってことっすか!」
「話が早くて助かる。できれば勇者あたりを連れていきたいんだがな」
そう言うと、ウィーは小さな胸を張りながら
「そういうことならうちが――」
「いけません!!」
声を上げたのは弓を背負ったエルフ。もう一人のエルフ同様この子もまた、やけに露出の多い格好をしている。
「え〜、別にいいじゃないっすかー」
「だめです!」
「ザインさんもいるんすよ? うちだけ仲間はずれはないっすよー」
「他は他、内は内です。まだ青の王が勇者を出すと決まった訳じゃないんですから!」
唇を尖らせ駄々をこねるウィーと、腰に手を当てウィーを見下ろす弓エルフ。まるで聞き分けのない子を叱る母親の図である。
「それはそうっすけどー」
「棟梁は森の守護神。世界会議以外での外出は原則禁止じゃないですか。森の掟にもちゃんと示されていますからね!」
「"ラクア"は硬いんすよ。もっと柔らかく、思考を柔軟にするべきっす。その、おっきなおっぱいみたいに」
「む、胸は関係ないですよっ!!」
弓エルフ――ラクアの耳が真っ赤に染まる。
「いやいや、それが関係あるらしいんすよ」
「「え?」」
ラクアと一緒に、なぜかフィーナが反応した。
「胸が大きい人ほど心に余裕が生じ、思考が巡りやすくなるらしいっす」
「本当ですか……!」
少しだけ嬉しそうな表情のラクア。
「嘘っす」
「ウィー様!!」
ウィーは「まぁまぁ、落ち着くっすよ」と言ってから、
「どうしてもダメっすか?」
「だからダメですってば!」
断固として揺るがない様子のラクアが既視感に見えてくる。ついこの前も、こんな光景を見たような気がしないでもない。
ため息まじりに「なら、仕方ないっすねぇ」とウィーは呟き。
「――実力行使で、行かせてもらうしかないみたいっす」
直後、ウィーから漏れる魔力が風のように吹き荒れる。
「――ッ!!」
反射的にラクアは弓を構えた。忍とエルフは武器を構えはしないものの、臨戦態勢にあることが見て取れる。
いやはや。使者を決めるだけだというのに、これからいったい何が始まるのやらと思っていたのだが。
「なんて、冗談すよ」
と、呆気なくウィーが牙を収めた。対峙していたラクア達の緊張が解けていくのが分かる。
しかし。ウィーが使者になることを諦めたとは俺には到底思えなかった。だって見てみろよ。あいつのあんなに楽しそうな表情を。
「タイミングはちょっとアレっすけど、場所はここ以外ないっすし。ま、大丈夫っすかね」
独り言を呟いた後、ウィーは小さく頷いた。それからここにいるメンツを一通り見回してから告げた。
「――じゃ、今から引き継ぎを始めるっす!」
そいえばやっと、何とかっす〜って口癖のキャラ出せた




