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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第36話 忍の棟梁

 服の上からでも感じられるほどの柔らかい感触。しかもなんだこの弾力は。いくら老人の胸筋が衰え、ぶよぶよになっていたとしても、こうはならないぞこうは――。


 自分の侵されている状況を忘れ、俺は再度右手を動す。しかし。気づくとそこにあるのは老人の着ていた上着のみだった。


 身代わりの術。そんな単語が頭をよぎると同時に腕を掴まれ、勢い良く視界が逆転した。


「なッ――」


 そのまま頭から地に叩きつけられ、


「――かはッ!!」

 

 おまけに鳩尾(みぞおち)に膝までもらったようだ。腹を抱えて蹲まる。

 どうやら落下は免れたようだが、あまりの激痛に動けない。つか息が吸えない。


「すんませ〜ん、生きてたら右手上げてもらってもいいっすか?」


 上から女のものと思しき声が降ってきた。その声に答えるように、俺は気力でなんとか右手を掲げ・・・・・・待て。・・・女?


「――なんだ。まだ生きてるんすか」


 悪寒がし、俺は尚も痺れる身体を酷使し頭部を全力で後ろに下げた。直後3本のクナイが目の前に刺さる。


「!?!?」


 なぜ殺されかけたのか理解できない俺に、声の主は続ける。


「なんで避けるんすか?」


「いやいや殺す気だったろ、お前……え……?」


 見上げると、そこに老人の姿はなく、代わりに黒髪を肩の辺りで短く切り揃えた少女が、こちらを見下ろしていた。否、見下していた。


「なんすか。セクハラした女の顔をジッと見つめて。変態なんすか?」


「変態じゃねぇよとりあえず、お前は誰だよ……?」


「見て分かんないすか? 今さっき会ったばかりの変態に胸を揉みしだかれた可哀想な女の子っすよ?」


 そう言いながら、少女は己の胸を抱きかかる仕草をみせた。「胸を揉まれた」そして「っす」という語尾。そこでようやく合点がいく。


「お前、あのジジイかよ!? って、あれは事故だろ!? つかそんなには触ってねぇ……だろ……」


 しまった、と失言に気づく。


「へぇ〜、事故っすか。そんなには、触ってないっすか」


 黒髪の少女の視線を辿っていくと。フィーナ、リヴィア、アリシアの冷めた視線。その隣にいるエルフと忍2人も同じような眼でこちらを、いや、俺を見ていた。背中の方からもそんな視線を感じる。見なくてもわかる。あの弓を背負ったエルフがどんな目で俺を見ているのかなんて。


「故意ではなかったにしろ、俺が悪い。すまなかった」


「まぁ、うちにも汚点はあるっちゃあるっすからねぇ。だから右手の指5本だけで我慢しとくっすよ?」


 と、地面に刺さっていたクナイを抜きながら、手元でクルクルと回して笑う少女。


 息を呑んだ。右手を見る。次にリヴィア達を。道端に落ちている石ころを見つめるような、無感情の視線、視線、視線――。

 迷うこと無く、俺は右手を差し出した。

 まさかこんなところで利き手を失うことになるとは思わなかったが、仕方がない。アリシアやリヴィアはともなく、これから先ずっとフィーナからあんな眼で見られるよりは――。

 そんな俺の覚悟を無下にするかのように、少女は笑った。


「なんて。冗談すよ」


「・・・・・・冗談?」

 

「そうっすよ。だって、ヴィレンさんは何もしてないじゃないすか」


 少女はそう言うと、右手を俺に差し出す。


「さっきのは身代わりの術を使ってたんで、ヴィレンさんがうちの胸を揉んだように"見えた"だけっすからね」


 あの一生忘れたくないような感触は確かに・・・・・・。

 少女が俺を庇う理由が、意図が分からない。だが、俺にはその手を取るしか選択肢はなかった。

 

「――さっきの発言は訂正っす」


 耳元で、小さく、囁かれた。


「うちはヴィレンさんの本気を見たかっただけなんす。まさかあんなに怒るとは思っわなかった。だから、これであおいこっすね」


 少女が隠すようにして身体の前で左手の人差し指を向ける方向には、疑念の眼を向けてくるフィーナ達の姿があった。真相を知ってるいる忍とエルフ4人からの視線は相変わらずだが、先程の罪人を見るかのような視線よりかはまだマシだ。


「ハハハ、助かる」


 苦笑いしかでなかった。本当に、助かる。


「いえいえ、こちらこそ申し訳なかったっす」


 少女も反省しているようだった。


「何だったら、もう一回揉んでもらっても構わないっすよ」


 とてもとても、反省しているようだった。


「とても魅力的な提案だが、遠慮しとく」


「そうっすか」


 んなことしたら、今度こそ完全に終わる。色々と。


「代わりにと言っちゃアレだが、1つだけいいか?」


 少女の無言を肯定と見なし、俺は彼女に問うた。


「いったいお前は誰なんだよ? 長老の隠し子か何かか?」


「違うっすよ。さっき自己紹介したばっかじゃないっすかー」


「可哀想な女の子じゃわかんねぇよ」


「いや、それじゃなくて。1番の最初のやつっす」


「最初?」


 どうしても思い出せない俺に、少女は仕方ないとばかりの様子で。


「そうっす。うちがここの棟梁。ウィー・リルヘルスっすよ、ヴィレンさん」

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