第33話 森の都
森に覆われている緑の王国の中でも、そのまた木の葉や蔦やらで緻密に隠されている場所が王都セレネラである。またの名を"忍の里"とも言う。
緑の大国の住民は、森の中に隠されたいくつかの集落に分かれて生活をしている。その総人口はおよそ120万。その数々の集落の中でも人口が多いのはやはりここ、セレネラだ。セレネラの人口は約8万人で、他の王都と比べてしまうと人口が少ないが、忍の里とも呼ばれるだけあり、そのほとんどが忍とエルフの戦闘員で構成されているのだそうだ。
そうだ、と言うのはこれが人に又聞きした話だからである。
あまり戦闘を好まない忍やエルフは他国に遊びに行かないし、逆に遊びに行った者は暗殺が得意な忍と、森の中では目を瞑ってさえ動き回れるエルフに返り討ちにされる。
『森』と『海』には近づくなと言うのが我が家の言い伝えだ。
蔦をどかし草を掻き分け、クナイの飛んできた方向に道なき道を進むことおよそ30分弱――。
「やっとついたな」
ひときわ深い森の奥地に、それは存在した。
「ここが……」
俺が想像していた王都とはだいぶ――いや、全く違った。
右を見ても、左を見ても、緑、緑、緑。見渡す限りの大自然。そこに、建物と呼べるようなものは存在していなかった。
これのどこが王都なのだろうか。いや、それよりもまず3000人もの人々は一体どこにいるのだろうか。
そんな疑問を胸に抱きつつ周囲を見渡していると、キラッと大木の幹から光が反射していることに気づいた。注意して見てみると、その煌めいているところには丸い何かが埋まっていて・・・・・・・多分、アレはガラスだ。他の大木にも四角やら三角やらのガラスが幾つかあった。
その1つのガラスから視線を感じ、見てみると。一瞬だけだが、そこには確かに小さな子供の姿があった。
もしかしなくともアレが、あの大木の中が、森の民の居住区になっているのだろう。住心地などは分からないが、少なくとも雨風を凌ぐことはできるだろうし、なにより敵の眼を欺ける。さっきの俺のように、な。
他の場所もよく注意して観察してみると、様々なものが見えてきた。
大木間を繋ぐ、木の枝を細かく編んで作られた吊橋。視界左に流れる澄んだ美しい川の中には、魚を捕獲するための網がたゆたっている。そして、おそらくつい30分前まで子供たちが遊んでいただろう、木のツルでできたボール。
そのほとんどが自然物を使用しているため、眼にはつきづらいが、森のあちらこちらに人の生活の後が見て取れた。
先程見た時には何の変哲もなかった森が、今の俺には巨大な森の都に見えていた。
「すっごいね。これが忍の里かぁ……」
うわぁと目を輝かせるアリシアとフィーナ。目の前に広がる風景に、思わず俺も息を呑んでしまう。
師匠とカルラはどこか懐かしそうに眺めていて。リヴィアとアレスに至っては興味なさ気な様子だ。きっと、こいつらには"ただの森"にしか見えていないのだろうな。
そんな感慨を抱く俺達の前に、スッと"影"が降りたった。
「――」
強い。多分、幹部クラスの実力はあるだろうか。
上は腕袖の長い紫に、下は黒のストッキングを着用している。それに、気配を隠し音を殺した移動法。間違いない。これが噂に聞く"忍"。しかも緑の王国最大戦力である"影"の1人とみて間違いないだろう。
お目にかかるのはこれが初めてだが、上着の内側から覗く、白い包帯に巻かれた巨大な胸部――いや狂部。間違いない。忍だ。
長く美しい赤紫色の髪を頭の後ろで纏め上げた忍は、丁寧に頭を下げる。
「旅の皆様方。ようこそ忍の里へおいでくださいました」
殺気はなかった。てっきり俺は、いきなり攻撃をされるのかと警戒し、いつでも動けるようにと臨戦態勢をとっていたのだが。先刻攻撃をしてきた連中は別動隊か何かか?
だがまぁ、少なくとも彼女に闘いの意思はないようだ。
そして、忍は続ける。
「長旅でお疲れとは存じておりますが、我らが棟梁――緑の王がお待ちにございます。どうぞこちらへ――」




