第29話 死神の微笑み
余裕の表情を浮かべながら、ゆっくり一歩ずつ近づいてくる金髪の男。無防備にも程がある。剣すら抜いていないとは、完全に舐めてやがる。
だが、先程からいくら弾を打っても1発も当たらない。全て避け切るのだ。
距離は詰まっていく一方で――。
我慢の限界が来たのか、ライガが走り出す。勢いある気合とともに、左手に装備してある盾をカルラへと思い切り突き出した。
「隕石の衝撃おお!!!」
ズンッという鈍い音、次の瞬間衝撃波がカルラを襲う。衝撃波は地面を抉りながら修練場の壁に衝突し、修練場全体を大きく揺らす。アレに巻き込まれれば、魔力を全力で防御に回したとしても無事ではいられまい。
だが――。
当たらなければ意味はない。どんな技を使ったのか知らないが、ライガを通り越し、フウガのすぐそこまで来ているカルラが笑いかけてきた。
狙いは自分だと察する。カルラの右手が魔剣の柄を握り、そのままゆっくりと引き抜いた。純白の鞘から放たれしは刃色は、魔剣らしい黒紫。だがそれよりもフウガが気になったのは、剣の長さが鞘の長さの半分ほどしかないという点だ。魔剣の能力に関係しているのだろうか。
まぁ、いずれにしてもこうなってしまっては仕方あるまい。
「接近戦はあまり好きじゃないんだがな!!」
フウガは走り出した。目の前の勇者に向かって。
銃剣と魔剣が交差し合い、盛大な火花が散る。
なんという体さばきに剣さばきだろうか。師匠と同等、あるいはそれ以上。とにかく、――強い。
喉元に迫り来る魔剣をすれすれのところでかわし、後退しながら数弾牽制する、が。至近距離にも関わらず、全ての弾丸を交わしたカルラの魔剣がフウガの胸元へと吸い込まれるように――。
「させるかよ!!」
大声と共に、戻ってきたライガの大剣がカルラに振るわれる。
いいタイミングだ。これならカルラの魔剣よりもライガの大剣の方が先に当たる。
その時、フウガは見た。カルラの笑みを。何かが起こる。そう確信した。
結論から言うと、フウガの直感は正解だった。ライガの大剣がカルラに接触する直後。洗練された見事な体さばきで、その大剣を避け切ってみせたのだ。
「うそん」
間の抜けたライガの声。それに続くように勢いをつけすぎ止まらなくなった大剣がフウガへと迫り。今日1番の盛大な火花が舞った。
「兄ちゃんを殺す気かぁあ!? このお馬鹿!!」
ライガの大剣を己の銃剣で受け止め、その威力に数メートル吹き飛ぼされたフウガが今日1番の大声で叫んだ。
「ごめんって、フウ兄」
「加減っつうものができないのかお前は!?」
「それだけはフウ兄に言われたくなかったなぁ……」
アハハハと楽しそうに笑う声。
「やっぱ、楽しいな」
「今に笑えなくしてやんぜ」
「そりゃあ楽しみだ」
ライガの発言に、カルラは笑って返す。
瞬時に銃の照準をカルラに合わせ――。
「追炎の弾丸"サーチ・ヴェスプ"!!」
銃口から十数発の魔弾が放たれ、それは炎を纏う蜂のようにカルラを襲う。
「やっちまえフウ兄!!……って、それ死んじゃわない!?」
「不死の勇者って言うくらいだ。死にはしねぇだろ」
至近距離での範囲攻撃。普通の奴なら致命傷だ。普通の奴ならな。
四方八方からから迫りくる魔弾を、カルラは切り刻んだ。ほぼ全ての魔弾が切り刻まれ、数発当たった魔弾も魔力の防御によりダメージはほとんど与えられなかった。
「そりゃ死にゃあしねぇが、普通に痛いんだぜ?」
瞬時にカルラはライガへと魔剣を投げつけた。魔弾を撃ち落とした驚きと、突然のカルラの行動にライガの対処が遅れるが、彼はギリギリのところを盾で防ぐ。弾かれた魔剣は空高く舞い上がり――。
気づくと、すぐそこにカルラの姿があり――。
「かはっ……!」
腹を殴られた、と気づいたのは3メートル程後ろに吹き飛ばされてからだ。100キロ近くあるライガの重量を吹き飛ばす程の威力。しかも反応できず、無防備のところにだ。しばらく立つことはできないだろう。
「化物かよ……!」
フウガからでた感想がそれだ。今度こそライガの助太刀は望めない。
落ちてきた魔剣を掴みながら、カルラが距離を詰めてくる。
「這炎の弾丸"ヒドラ"!」
フウガの放った銃弾が大きな蛇へと変化し、地面を焦がしながらカルラへと迫る。だが、それすらもカルラは断ち切った。魔剣の能力なのか、神器の能力なのか。いや、きっとこれは――カルラ・カーター自身の実力なのだろう。
再び接近戦に持ち込まれ、状況は不利になっていく。
「1つ、いいか?」
「ん?」
戦いの最中だということは十分に承知していた。しかし、それでもフウガは聞いておきたかった。
「正直なところ、俺達2人がかりでなら余程なことがない限り苦戦するとは思っていなかった」
「そうだな」
「でも、俺達はアンタに・・・・・・勝てそうにない。どうしてだ?」
勝てないなど、戦いの最中に言っていい言葉でない。負けを認めたことになるからだ。しかし、これは模擬戦。そして今、現時点での実力では、俺は目の前の男に勝つことができないだろう。
「強いて言うなら、まだ成長過程にあることと、実戦経験の差、かな」
フウガの意を飲んでくれたのか、カルラは少し悩んだ後にそう言った。
「実戦経験、か」
なるほどな、と思う。木剣での模擬戦や稽古は毎日のようにこなしてはいるが、言われてみるとこういった実戦形式の模擬戦はあまりやっていなかった。魔族や冒険者との戦闘もたまにするが、強者と呼ぶには程遠い。
これからはそれも取り入れた訓練をしたほうがいいか、などと考えを巡らせていると。
「あー、それと」
そう言ってカルラが笑った。マズいなと思った時には、既に銃剣が高く弾かれていて。
ゆっくりと、スローモーションのように、カルラの魔剣がフウガへと迫り――。
視界の端にヴィレンとリヴィアが見え、何か必死に叫んでいるように見えた。
「1回"死"を経験しとくのも悪くはないと思うぜ?」
そのままの勢いで魔剣はフウガの胸を貫通した――。




