第27話 不死の勇者
「――なっ!」
「うげぇっ! いったそ……」
その光景にフウガの目が大きく見開かれ、ライガの口元が歪んだ。俺は眼前の光景に唖然とするしかなかった。
「カルラ・・・・・・!」
銃弾が放たれた瞬間、何の気配も発さずに現れたカルラが、迫り来る猛虎から俺を庇ったのだ。
一瞬ライガの力が弱まり、俺は剣を滑らせるようにしてライガの大剣から逃れ、後方に下がる。
カルラも右腕を左手で抑えながら、俺の隣まで後退した。
横目でカルラの傷の具合を確認し、その酷さに俺は絶句するしかなかった。カルラの右腕は猛虎に食い千切られ、肘から下がついていなかったのだ。
もし、不死身であるカルラが庇ってくれなかったらと思うと、再び背中に寒気が走る。
「悪い、助かった」
「・・・・・・」
俺は剣を握り直し、カルラに軽く礼を言ったのだが、カルラは何の反応も示さない。
「カルラ……?」
不自然に思い、俺は再度カルラに話しかけた。
「予想以上にばか痛くて泣くの我慢してるからちょっとだけ待って」
カルラは早口にそう告げ、再びの沈黙。
それもそのはず。いくら再生するといっても、痛みを感じないわけではないのだ。
数秒後、カルラの右腕が不気味な音を出しながら再生していく。それを初めて見るフウガとライガの顔には、やはり気色悪そうな表情が浮かんでいた。
「いよし!」
再生し終わった腕を曲げ伸ばしし、感覚を確かめるように指を開いたり閉じたりと繰り返しながら、カルラが言った。
「悪ぃけどレンレン、こっから先は俺も混ぜてもらうぜ?」
「見てるんじゃなかったのか?」
「いや〜、観戦してるつもりだったけど、こんな熱い闘い見せられちゃあ魔族の血が騒いでしょうがねぇったらねぇって。それに、勇者による途中参加は認められてるらしいし?」
カルラが視線をライガへと向ける。
「ま、まぁ俺も途中参加してるし? 全然OKだけど?」
ライガは必死に笑顔を作っていたが、その口元は引きつっていて。
「んじゃあ、決まりだな」
一人で話を進めていくカルラ。その腰に下がっている剣を見据え、フウガが物珍しそうに眉を動かした。
「んで。そいつが噂の『魔剣』かい?」
「お、こいつを知ってんのかよ」
「能力は知らないが、不死の勇者の持つ捌徹は有名だからな」
かつて神々がまだ神器としてこの地へ封印される以前の話だ。世界がまだ人間界と魔界に隔たれていた時代。伝説の鍛冶師が1世代で造り上げた8本の刀剣――通称、捌徹。使い手によっては、神器すら上回る程の能力を引き出せるという。
そして、カルラが持つのはその捌徹の1本――。
「――魔剣レイヴ」
ライガが静かにそう言い放つ。
「でもよぉ、俺は少し興ざめだな。神器にすら届き得る伝説の刀剣つーから、何気に期待してたんだけどなー」
「バーカ! 見た目で判断すんなって言ってんだろライ。俺の感だが、多分あれは相当やばいぞ」
そのようなやり取りをしながら、ライガとフウガは陣形を作り直す。全く持って油断も隙もありゃしねぇ。
俺も剣を持ち直し、模擬戦を再開しようとその時だ。
「――レンレン疲れったしょ?」
カルラがそのようなことを言った。
「いや別に」
「そっか、疲れたか〜! んじゃ、ちと後ろのほうで休憩しててくれよ」
人の話も聞かずに勝手に話を進めるカルラに、俺は再度言い直す。
「だから疲れてねぇって」
「・・・・・・はぁ〜……」
それを聞き、カルラは大げさにため息をついた。
「なんだよ?」
カルラは唇を尖らし、明後日の方向に視線を送った。
「レンレンさっき死にかけったしょ? はっきりいって足手まといはなぁ……」
「うッ……」
なんと刺さる言葉だろう。言い訳の、反論のしようがない。
「ってのは冗談で、俺も久々に身体を動かそうと思ってさ」
そう言い、カルラはニヤっと笑う。その時の表情は、今まで俺に見せたことがないような類の笑顔だった。強いて言うのであれば、いつものふざけた感じがしない、そんな笑顔だ。
「だからレンレンには悪いんだけど、ちと休んでて欲しんだわ」
そんな笑顔を見て、俺は少し悩んだ挙句――
「わかったよ」
多少不満が残るが、今回はカルラに譲ってやることにした。
「さんきゅ、レンレン」
カルラとハイタッチしてから俺は観客席の方へと向かう。
「お? 今度はあんたが1人でやんのか?」
「手加減してくれてもいいんだぜ?」
そんなふざけたことを言うカルラから、今まで彼が俺に見せたことのない魔力が滲み出る。
「――なわけ」
ライガは息を呑み、フウガは銃を構えた。
「んじゃ、第2ラウンドといきますか」




