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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
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第24話 開始の合図

「よし!準備はいいかー?」


 声の主は、身の丈程もあるほど巨大な盾を持ったライガだ。


「こっちは準備okだ」


 フウガが神器化したラーを肩に乗せ、それに応じる。


「あぁ、いつでもいいぜ」


 俺は腕を伸ばしながら、目の前に立つフウガを見据えた。



 先程の話し合いは、あれからすぐに終了した。使者として同行するのが、当代の"騎士王"ザイン・ドラグレク、もとい師匠に決まった後、軽く今後の予定などを話し合った。

 騎士王が赤の王国を離れることが公に広まるのは流石に不味いので、出発するのは明日の早朝ひっそりと、ということに決定し、それまでの時間は各自自由行動となった。


 俺は久々に赤の王国に帰ってきたので、少し町をぶらっとする予定だったのだが、フウガとライガにしつこく模擬戦を挑まれ、今に至る。


 現在俺は、リントブルムの中にある、とある修練場内にいる。ドーム型の形をした、少し年季の入った建物だ。

 地面は砂利が敷き詰めてあり、上を見上げれば蒼く澄み渡った空が俺の視界に入る。

 この修練場にいるのは、俺とリヴィアに、フウガとライガ。そして、1人観客席にいるカルラだけだ。


 この修練場はかつて、主に騎士達が使用していたらしいが、30年前に新しい修練場が設立されたため、今は使われていない。

 ザインが王になる前は、ここを使う騎士もいたようだが、ザインが王となり、ここの使用を禁じたのだ。

 老朽化の為、何かあってからでは遅いので、新しい訓練場を使うように、と。だが、それは表向きの理由だ。真の目的は、フウガとライガ。そして俺を、なるべくひと目にバレないように稽古をつける為。

 もし、ザインが直接稽古をつけている者がいると知れれば、他の騎士達もザインに教えを乞うようになるかもしれない。

 だがザインは「んな面倒くせぇことしてらんねーよ」と言っていた。当時の俺は「こいつ性格わるっ」と思っていたが、今では違う。

 ザインが魔人である俺とフィーナを、赤の王国で匿っていることをあまり良く思わない者達がいた。

 もし、俺が直接ザインに鍛錬をつけてもらっていることが知れれば、その者たちだけではなく、騎士達の間にも不満が貯まるかもしれない。

 あんな自由でふざけた王様でも、実力は全ての騎士が認めているのだ。


 だからこそ、ザインはここを封鎖し、俺達だけの秘密の修練場を作りあげた。


――ま、あれも本心ぽいけどな。

 

「んじゃ、簡単にルール説明すると、お互い死なない程度に切磋琢磨し合いましょう。以上! わかんねぇこととかあるか?」


 俺とフウガが準備を整え終わるのを確認した後、ライガがシンプルなルールを説明した。

 

「ない」


「大丈夫だ」


 フウガとリヴィアが、納得した様子で軽く頷く。


「え・・・・・・お前、今ので分かったのか……?」


「今の説明で分からないことがあったのか?」


 リヴィアは眉根にシワを寄せ、首を(かし)げた。


「まず、わからねぇことがわからないんだが……」


「深く考えるなレン。なに、簡単なことさ。より長く地面に立っていたほうが勝者で、そうでないほうが敗者だ」


 なんと分かりやすい説明だろうか。流石はリヴィアさんだ。


「ごちゃごちゃ言ってねーで、早く始めようぜ?」


 フウガが待ちきれないとばかりに俺を急かす。


「ま。わかんねぇことがあったら、試合中に質問してくれや」


 ライガも俺達の試合が楽しみな様子だ。


「んじゃ、始めんぞー?」


 ライガが俺に視線を送る。きっと、早くリヴィアを神器化させろと言いたいのだろう。


「楽しむのは構わないが、負けは許さんからな?」


 リヴィアがそれを察したように、斜め下から俺の顔を覗きこんできた。

 その口元に微かな笑みが浮かんでおり、彼女の表情からは、俺に対する絶対的な信頼が見て取れた。すぐにリヴィアは黒い靄に飲まれ、その姿を漆黒の剣へと変える。

 俺の中にあるのは、彼女の信頼に応えたい。ただただ、それだけだった。


「あぁ。分かってる」


 剣を掴み、俺は小さく呟いた。


――負けられねぇな、この戦いは。


「おーい! レンレンが負けたらフィーナちゃんは嫁に貰うからなー!!」


 観客席の手すりから身を乗り出すように、カルラが大声で叫んでいるのが見えた。


「・・・・・・」


 これでまた1つ、負けられない理由が増えてしまった。


 剣を上から左斜め下に振り下ろし、気持ちを落ち着かせる。たかが、模擬戦。されど模擬戦。負けるわけにはいかない。


「よし!」


 ライガが腕を頭上に掲げ、大きく息を吸い込んだ。


 フウガの神器は、所有者の魔力によって弾を作り出す。故に、実弾から魔弾になんでもありで、弾を詰める必要はない。

 が、相手を殺さない程度、というルールに基づくならば、フウガの使う銃弾は空弾か何かだろう。

  

 俺は近距離の戦闘しかできない。だが、対してフウガの使う銃は、遠、中距離を得意とする。近距離に持ち込めれば、負ける要素はない。


「それではっ! これより"特別形式"の模擬戦を始める!」


 開始の合図とともに距離を詰められるよう、俺は体勢を低くしようとして、


「――ん? 特別形式?」


 フウガが人の悪い笑みを浮かべ、銃を真っすぐ俺に向ける。その銃口が、ほんのりと紅く光っているように見えた。


「いや、ちょっ! 待っ――」


「――始めっ!!!」


 試合開始の合図が出された直後、フウガの銃が火を吹いた。銃声はライガの声を掻き消す程大きく、銃弾はその銃声さえも置き去りにする程に速い。

 俺とフウガとの距離は30メートル以上離れていたが、瞬きの一瞬でフウガの放った銃弾が目の前に迫っていた。

 俺は首を全力で右にずらす。銃弾が左目すれすれを通過していくのが微かに見えた。

 体勢を右にずらしながらも、剣を自分の胸元に全力で引き寄せる。そして迫り来る"2発目"の銃弾を剣で両断した。そこでようやく銃声が俺に届いた。

 俺は手首を最短で動かし剣を操り、3発目と4発目の銃弾もなんとか紙一重で防ぎきった。

 聞こえた銃声は1発だけだった。だが、実際に放たれた銃弾は4発。ぎりぎり眼で捉えられたが、一瞬でも反応が遅ければ危なかった。


「おいおいおいおい! 今の避けんのかよ? まぢかよおい!」


 何がおかしいのか、ライガが腹を抱えて笑いだした。


 しかしながら恐るべき技量だ。――が、問題はそこではない。


「おいフウガ! 今の実弾だったろ!? 当たったらどうすんだ、危ねぇだろ!?」

 

 そう。問題は今のが全て、『空弾』ではなく『実弾』だったということだ。


「死なないようにするってのがルールじゃなかったのか? 特別形式の模擬戦って何だよ!? 今の完全に殺す気だったろ!」


 少なくともフウガの初弾は、俺が避けていなければ確実に即死級の容赦ない攻撃だった。

 だがフウガは悪びれる様子もなく、尚も口元に笑みを浮かべていた。


「ったく、ピーピーギャーギャーうるせぇ男だな」


「誰のせいだと思ってんだ、誰のせいだと!?」


 フウガのバカにした言い方に、俺の怒りのボルテージが上昇していく。


「――第一お前。ちゃんと生きてんじゃねぇか?」


「それは俺が避けたから――」


「じゃあ、いいじゃねぇか」


「・・・・・・」


 俺は咄嗟に、何も言い返すことができなかった。フウガの瞳には、"なんでそんな当たり前のことを聞くんだ?"といった疑問の色が浮かんでいたからだ。


「ルールは死なない程度に、だ。それに腕の1本や2本なくなっても、マーリンがすぐにくっつけてくれるから安心しろって」


 そこで俺は、ようやく理解した。フウガは俺を本気で殺す気なのだ、と。

 ルールと矛盾しているかもしれない。しかしフウガは・・・・・・このバカ兄貴は。俺がこの程度じゃ死ぬはずがないと、俺を信頼して全力で殺しにきたのだ。 


「いやいや流石にマーリンでも腕をくっつけるのは無理があるぜフウ兄」


「ん、そうか? あの人ならやってのけちまいそうだけどな」


 兄弟子に信頼され、弟弟子として喜んでいいのか、悪いのか。気づくと、無意識に口元が引きつっていたことに気づく。


「だが、にしてもよぉヴィレン。今日は良い天気だなぁ」


 ふと、フウガが大空を見上げて、戦いには関係のないことを呟いた。


「――それが、どうかしたか?」


「雲1つない、快晴の蒼空。まさに戦日和。――うん! いい天気だ」


「だからそれが一体どうしたっ、て……」


 そこで俺は、あることを思い出した。その昔、ラーがぽつりと溢した一言を。

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