第23話 予想外の展開
「とりあえず、自己紹介の続きといこうか」
ザインが溜息をつき、俺を一瞥してからマーリンを横目でちらりと見た。
「ボクの名前はマーリン。しがない魔法使いさ。よろしく」
マーリンが軽くお辞儀し、手短に自己紹介を終わらせる。そして、彼はカルラに笑いかけた。
「久しぶりだね、カルラくん。思ったより元気そうで何よりだよ」
「お互い様だよ。つうか、あんたはあの頃と変わんなすぎて喜んでいいのかわかんねぇなぁ」
「ふふふ、これでも最近髭が生えるようになって困ってるんだよ?」
などと世間話を始めかけたが、ザインがわざとらしく咳払いし、話を戻す。
「ほれ、お前の番だ」
ザインはソファの横に立て掛けた太刀に向かって呼びかけた。
すると、太刀が勢い良く炎に包まれ、みるみるうちに少年の姿へと変わっていく。
ザインよりも少し明るい赤の髪。上半身は裸で、腹と両腕に晒しを巻いているだけ。まるで、剥き出しの"刃"のような少年。
ザインが適合した神器に宿る神――『戦神』アレス。
アレスは擬人化し終わるや否や、テーブルに足を叩き付け、俺の顔を覗き込んできた。
「よぉガキんちょ! 見ねぇ間に、随分強くなったなぁおい。 久方ぶりに、俺ッ様の刃がビリビリ震えたぜ?」
目と鼻の先にあるアレスの顔には笑みが浮かんでおり、純粋に俺の成長に関心しているようにも見える。
分かりやすく顔に"楽しかった、もう一度やろう"と書いてある。――全く持って、戦神らしい。
「――んだがッ!」
アレスはそこで言葉を一旦区切り、俺の隣に座るリヴィアを横目に見た。
「まだまだ、ザインには遠く及ばねぇけどなぁ?」
「ふん。図に乗るなよ戦神。レンが最初から私の能力を使ってさえいれば、100%そこの男に負けはしない」
人一倍負けず嫌いのリヴィアは、アレスの挑発に安安と乗っかった。
「あ? 聞き間違えかぁ? それじゃあまるでよぉ、この俺ッ様がお前に劣ってるみてぇじゃねぇか?」
「当たり前だ。お前如きではお話にならん」
「んだと、ゴラァ!? ちょっと可愛いからって調子に乗んなよ!?」
「それにだ。お前、私に勝ったこと、一度もなかったろう?」
「――んな昔のこたぁ覚えてねぇっつーの!?」
突如戦神と破壊神の言い争いが始まり、ザインはそれを見て面倒くさそうに溜息をつき、
「あー、もういいよな」
その一言で、アレスの身体から炎が生まれた。
「なっ! 待てザイン! まだ話は終わっちゃ――」
そんなありきたりな台詞を残し、炎はアトスを完全に包み込み、その姿が元の太刀の形に変わる。
「わりぃな。こいつの名前はアレス。んでもって、俺の名はザインだ。ザイン・ドラグレク。あと、うちの馬鹿弟子が世話んなってるようだな」
右手で掴んだ太刀を下ろしながら、最後にザインが自己紹介をした。
「・・・・・・馬鹿弟子?」
ザインが自己紹介の最後に付け加えた言葉に、アリシアが眉根にシワを寄せた。
「なんだお前、まだ言ってなかったのか?」
「俺が出てくとき、恥ずかしいから他言すんなっつったのはあんただろ?」
「だっけか?」
ザイン――師匠は楽しそうに笑う。どうやら覚えていない様子だ。
「ったく」
「わりぃわりぃ。ま、そういうことだ」
「兄ちゃんが陽炎と豪傑で、師匠が騎士王様かよ?」
一段と楽しそうにカルラが笑う。
「ザインでいいぜ? ――あんたに様なんかつけられちゃあ痒くて仕方がねぇ」
「・・・・・・・」
先程から師匠のカルラへの意外な尊敬に少し疑問が浮かぶが、これ以上話を脱線させるわけにはいかなかった。
「師匠。とりあえず話を戻すが、俺達がわざわざ赤の王国に来たのは他でもない。
知っての通り、この前白の王国が"不殺の誓い"を破って、黒の民を殺めた件についてだ」
「――」
それを聞き、師匠が真剣な表情になり、何かを考えるように黙り込んだ。
周囲の面子も、固唾を呑んで見守っている。
「黒の王国は掟の通り、白の王国を潰すって方針になった――が、ダンジョンを攻略しなきゃならない今、白の王国を潰すのは悪手だ」
「・・・・・・」
「掟を破ったのは幻想の勇者と白の王本人。だが、今この状況下で他国の奴を殺るのは自殺行為だ。
あいつらはそんなに馬鹿じゃねぇ。俺は、何か裏があると思ってる」
「それは俺も同意見だ。あいつは馬鹿だが・・・・・・良い奴だ。今、白の王国で何かが起こってるっつーのは間違いねぇだろう」
師匠は窓の外、白の王国のある方角に視線を向けた。
「あぁ。だからこそ、俺達には真実を確かめる必要があるんだ。その為には師匠、あんたの力が必要だ」
「前置きは分かった。本題を話せヴィレン」
「まず俺達は、他の3国から使者を集い、白の王国に入る口実を作ろうと思ってる」
「お前らの顔ぶれを見るからに、戦闘になった場合も考慮してるって訳か」
師匠が俺達の顔を順番に眺めながら言った。
「話が早くて助かる。なるべく戦力になりそうな奴。できることなら、フウガかライガあたりを使者として連れていきたいんだが」
そう。ここで勇者を連れて行くことが重要だった。他の国に行った際、赤の王国は勇者を出さなかったとなれば、他の国も勇者を出さなくても良い、となってしまう可能性が少なからずあるからだ。
師匠は瞼を閉じ、そしてゆっくりと開く。
「よし、分かった。――フウガ!」
「あいよ。任されたぜ親父!」
師匠に名前を呼ばれ、フウガは胸の鎧を拳で叩いた。
どうやら師匠は、フウガを使者に選んだらしい。勇者のフウガならば、戦力にも期待ができて適任だ。
ひとまず最初の国から勇者を確保できたことに、俺は大きく安堵した。
「おう。後は任せた」
「あぁ、任せてくれ親父! 必ず黒幕を見つけだして――って、あれ?」
「「――え?」」
"任せた"、ではなく"後は任せた"。言葉の意味を頭で理解するまで、たっぷり数秒。
「・・・・・・今、俺が行くって流れじゃなかったか?」
フウガの言うとおり、俺達はてっきり名前を呼ばれたフウガを赤の王国の使者として同伴させるものかと思っていた。しかし――
「あ? 何馬鹿言ってんだ。こんな面白そうなこと、俺が見逃すわけねぇだろ」
どうやら師匠は、フウガに赤の王国を任せ、自分が使者になって俺達についていく魂胆らしい。
「いやいやいやいや、よく考えろよ親父! 王様が不在になんのはいくらなんでも不味いだろ?」
だが、フウガがその魂胆を真っ向から否定にかかる。
普通、騎士が王の意見に反対した瞬間、即刻打ち首になるだろう。しかし師匠にとって、フウガとライガは特別な存在だ。
師匠は昔、捨て子だったフウガとライガを引き取り、幼い頃から自ら剣術を教え、愛弟子として育てあげた。そんな師匠にとって、ライガとフウガは己の息子のような存在なのだ。
逆にフウガとライガにとっても、師匠は王であり、師匠であり、そして父親なのだ。・・・・・・まぁ、俺も一部を除き、似たようなものだが。
だからこそ、この国で王に逆らえるのは、側近のマーリンとこの2人くらいのものだろう。
「安心しろ、マーリンを置いてく。何かあったらこいつを頼れ」
「いや、そういう問題じゃないだろっ!!?」
柄にもなく、必死に師匠を引き留めようとするフウガの肩を、黙って聞いていたライガが掴んだ。
「フウ兄、諦めろって。親父は一度言い出したら聞かねぇよ……」
「まったく。当代の騎士王様は困ったお方だ」
ライガが苦笑いでそう言った。マーリンは両手を肩まで上げ、首を振る仕草を見せたが、表情はどこか楽しげに見えた。
当の本人に至っては「わかってるじゃねぇか」とばかりに満面の笑みを浮かべ、無精髭を擦った。
「つー訳で。俺で問題ねぇよな?」
「問題ないも何も。こっちとしては願ったり叶ったりだが、本当にいいのか?」
「・・・・・・いいわけないだろ……。止められるんだったら止めてる」
フウガは額に手を当てた。
「あぁ。止められるんだったらな」
「うん。止められないだろうねぇ」
ライガは腕を組んで軽く頷き、マーリンはニコやかな笑みを浮かべて首を振った。




