表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第1章 裏切りの聖王
23/178

第22話 赤黒の剣舞

「――ッ!」


 ヴィレンの剣が無精髭の男に高速で接近する。男はそれを、刀の角度を少し変える動作のみで、斜めにヴィレンの剣を受け流す。

 1秒の内に何度も火花が散り、剣が通り過ぎた後も(くう)に剣線が残る。瞬きする一瞬も躊躇(ためら)われるほどの、剣を極めし者たちの剣舞。

 驚くべきところは、お互い魔力(リア)を一切使用せず、純粋に剣の腕前だけを競い合っているという点である。

 忘れていた呼吸を再開し、口の中に溜まったつばを飲み込む。勇者(ブレイブ)であるアリシアでさえ、全ての剣舞を目で捉えることは難しかった。


 数分と続く剣戟(けんげき)は、圧倒的にヴィレンが優勢だった。初めからヴィレンが攻め続け、男は防戦一方だ。

 しかし男はヴィレンの剣を防ぎ、避け、一切自分からは攻撃していおらず、まるでこの剣舞を楽しむが如く、余裕の笑みを浮かべていた。

 だがそれはヴィレンも同じで、彼の表情は明るくまだまだ余裕があるように見える。


 しかし。永遠に続くかと思う程の美しい剣舞は、唐突に終わりを告げた。


 ヴィレンが斜め左下から剣を振り上げる。男はそれを刀で防ぐ。

 ヴィレンは剣が衝突した瞬間、体制だけを前のめりにして男に近づく。男は1歩後ろに後退して距離を取った。そして、前のめりになった体制から、ヴィレンが男の顔面目掛けて思い切り突きを放った。

 男は顔を少し右にずらし、最低限の行動でそれを躱した。その直後だった。


「――かはッ?!」


 ヴィレンの身体が宙に浮いた。男のカウンターの蹴りがヴィレンのどてっ腹を直撃したのだ。

 ヴィレンはくの字になって後方へと吹き飛ばされ、なんとか空中で態勢を立て直し、アリシアのいる少し手前で綺麗に着地した。


「まぁ、少しは腕を上げたんじゃねぇか?」


 無精髭の男は、刀の峰で自らの肩をトントンと叩きながらヴィレンを見下ろす。


「――おやおや。頬を少し切られたくらいで本気になるとは大人気(おとなげ)ない」


 突然玉座の間に新しい声が響き、無精髭の男の隣。何もない空間から新たな男が現れた。

 水色の髪を少し伸ばした、優しい顔つきの男性だ。背は無精髭の男と同じくらいで、白いローブを身に(まと)っていた。


「うっせぇ」


 見ると。無精髭の男の頬が少し切れ、そこから血が垂れていた。

 無精髭の男は不貞腐れるように頬の傷を親指で拭う。


「マーリン先生!」


 フィーナが嬉しそうに、ローブの男の名前を読んだ。


「ふむふむ、そこにいるのはフィーナくんじゃないか」


 どうやら2人は顔見知りのようだ。それにローブの男――マーリンという名前にアリシアは心当たりがあった。

 いや。むしろその名を知らないほうがおかしいだろう。


 大魔導師マーリン。赤の王国に仕える魔法使いで、世界で最も偉大な魔法使いとも言われている。

 彼がいつから生きているのか。どうして魔法の国である青の王国ではなく、赤の王国に仕えるのか、謎の多い人物であった。

 そして、その大魔導師マーリンを従える無精髭の男。噂の中にあった自由王という言葉。

 アリシアの中で線が一本に繋がった。つまり、目の前にいる男こそが、アリシア達が探していた人物だったのだ。


 『騎士王』ザイン・ドラグレク。アリシアの想像と遠くかけ離れていたが、先程の剣技や尋常ならざる魔力。それを実際に眼で見て肌で感じ、アリシアは確信した。


 マーリンがフィーナの方に駆けだそうとするのを、無精髭の男――ザインが刀で行く手を阻む。


「まぁ待てまて、マーリン。師弟の絆を深めんのは後だ。まずは、要件を聞こうじゃねぇか? なぁ、黒の王国の使者よ」


 そう言ってザインは刀を鞘に収めた。ヴィレンはリヴィアの神器化を解除し、目の前の男を見据える。


「立ち話もあれだ。とりあえず、場所を移すか」


 ザインがマーリンに軽く視線を送ると、マーリンがそれに応じ、軽く指を鳴らした。

 その直後、アリシアの見ていた景色が歪み、瞬きの一瞬で移り変わる。



✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽



 そこはなんの変哲もない一室だった。玉座の間に比べると少し・・・・・・いや、かなり狭いが、俺達が会話をするだけなら、適切な場所といえるだろう。

 床には赤色のカーペットが敷かれ、窓から差し込む光が少し眩しい。


「まぁ、座れや」


 ザインはそう言い、趣のあるテーブルを挟み、俺達の向かい側に設置してあるソファに腰を降ろした。

 そのソファの隣に、マーリンがスッと立つ。


 俺は目の前にあるソファを見つめた。俺達全員が座るには少し小さすぎる気がしたが、腰の鞘を抜き、何も言わずにソファに座った。その右隣にフィーナが素早く座る。アリシアもそれに続き、フィーナの隣に座った。

 残りは一席。空いているのは俺の左隣だけだ。


「んじゃ、失礼して――」


 カルラが俺の隣に座ろうとしたとき、リヴィアが何言わぬ顔で俺の隣に座った。


「分かってた。なんとなくわかってたよ?」


 カルラはしぶしぶ椅子に座るのを諦め、壁に寄りかかった。


「んで、要件は何だ? 永久の勇者さんよ」


「言わなくても分かってんだろ?」


「まぁな」


 ザインは笑みを浮かべた後、アリシアとカルラに視線をずらした。


「ところで、2人共知らねぇ顔だな。幹部かなんかか?」


 幹部というのは魔王軍幹部のことか。そう言えばまだ、カルラとアリシアの紹介が済んでいなかった。


「俺はカルラ。不死の勇者さ」


 先に名乗ったのはカルラだ。


「ほう。こりゃまた大御所がでてきやがった。不死っつうことはあんた、――2代目か」


 ザインが少し興奮し、彼の魔力(リア)が少し漏れた。空気がピリつき、少し不穏な空気が満ちる。

 ザインとカルラの視線が交錯し、皆カルラの言葉を待った。


「いや、俺はカルラ。ただのカルラさ」


 だが、カルラはそんなものは知らないとばかりに両手を上げ、軽く首を振った。その口元にはいつも通りの笑みがこびりついているが。


「――そうかい」


 そこでザインの魔力(リア)が四散した。彼は顎に手を当て、カルラを値踏みするように見つめたが、どうやら深く追求する気はないようだ。


「まぁいい。んでヴィレン。そっちの綺麗な嬢ちゃんとはどういう関係だ?」


「――ん?」


「それそれ! 実は俺も気になってたんだ!」


 俺達と一緒に飛ばされたライガが、興味津々な様子でザインの意見に賛成する。


「どうもこうもねぇよ。アリシアは俺達のパーティメンバー、それだけだ」


 皆の視線がアリシアに注がれる。何故か俺は、嫌な予感がしてならなかった。

 アリシアに心の底から願う。どうか変なことだけは言わないでくれ、と。


「お初にお目にかかります。私はアリシア・ツェペシュ、鮮血の勇者です」


 アリシアは皆の熱烈な視線を受けながらも、貴族らしい礼法で丁寧に頭を下げた。

 アリシアのごく普通の自己紹介に、俺はほっと胸を撫で下ろした。

 しかし、それもつかの間の出来事。アリシアは「それと」と付け加え、満面の笑みで、


「――ヴィレンくんの婚約者です」


 最後の最後に爆弾発言をかましてのけたのだ。


「「――は?」」


 部屋にザインとライガの怒りのこもった声と、俺の弱しい弱しい声が響いた。


「いや、待てまて! 誤解だ。アリシアの言い方に語弊が――」


 嫌な予感が的中し、頭の中が真っ白になりながらも、俺は無実を証明しようとしたが、ザインが俺の襟元を掴み、ぐいっとひきつけられる。


「――おいヴィレン。てめえよぉ、フィーナとリヴィアっつー可愛い女の子が2人いてよぉ、それでなんで他の子に手ぇ出してんだ? あぁ?」


「お前、弟弟子の分際で兄弟子より先に結婚とか許さねぇからなっ!?」


「兄さん、最低です……」


「うーわ、まぢねーわー。レンレンサイテ〜」


 俺の発言はかき消され、代わりに四方から罵声が浴びせられた。そう。爆弾発言を口にしたアリシアではなく、俺に。


 フウガが笑っているのが横目に見え、マーリンもこの光景を楽しそうにニコニコ見守っていた。リヴィアに至っては我関せずとばかりに窓の外を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ