第20話 再会の兄弟
数分待っただろうか。アリシアは先程のフィーナの言葉を思い出していた。
『書状は兄さんの名前、そのものだからです』
意味がわからい。ヴィレンくんの名前が書状? どういう意味なのだろうか。
アリシアは頭を捻るが、疑問は増えるばかりだ。
「騎士王様から入国の許可がでた! 入れ!」
だからこそ、本当に入国できるとは思えなかったのに――。
リントヴルムの町並みは、3年前となんら変わらなかった。
国産品である、赤レンガで作られてある白と赤を基調とした家々。昔と変わらず、差別なく人間に混じって生活しているリザードマン。町の中央に堂々と立つ王城。
町の、どこか懐かしい匂いも変わらない。街行く人の視線がこちらに集っているのに気づいた。よそ者を見るかのようのな(実際その通りなのだが)冷たい目。しかしそれは仕方のないことである。俺達は黒の王国から来た。つまりは敵国の戦士が町中にいるのだから。
「うっす、ヴィレン!」
巨大な城門を潜り、俺達を出迎えた騎士の集団の先頭――つまりは指揮官らしき巨漢の奴がそう言った。白地に赤いラインが刻まれている、揃いの鎧を身につけた10人程の騎士の集団。紅焔騎士団だ。
騎士の中には、老けた老人から、10代後半だろうと思われる若い騎士に紛れ、同じ鎧を纏ったリザードマンの姿がちらほらと垣間見える。
遠い昔のことだ。世界は魔界と人間界に隔たれていた時代。初代魔王が死んだ時、世界のバランスが崩れ、いくつかの魔族が人間と共に歩む道を選択したのだという。
その中の1つが、中位魔族であるリザードマン種である。
「でっかくなったなぁ、おい!」
先程声を上げた指揮官らしい男が俺の肩をバシバシ叩いてくる。
身長は俺よりも20cm以上高く、2周り以上大きい体躯は、野生の熊を想像させる。
整った眉の下から覗く、力強い瞳。まだ若々しい風貌から、歳は俺よりいくつか上だろう。
腰には高そうな大剣を下げ、見るからに強者の匂いがプンプン漂っている。
――初対面だっつーのに、馴れ馴れしい奴だな。
と心の中で思う。
「・・・・・・って、あれ。もしかして、俺のこと覚えてない系?」
俺の反応を見て、男がそんなことを口にした。どうやら、男は俺のことを誰かと勘違いしているようだ。
いや、しかし。目の前の男は確かにさっき、『よっす、ヴィレン!』と言っていたことを俺は思い出す。
記憶を掘り返してみても、こんなにガタイのいい男は記憶にない。
「・・・・・・悪い。誰だっけ?」
「まぢかよおい!? まぢかよっ!!」
男は俺に名前を忘れられたことが相当ショックだったらく、ガーン、と効果音が出そうなくらいのけ反った。
「フィ、フィーナは俺のこと覚えてるよな! な!?」
「え!?」
男は、今度はフィーナに向かって話しかけた。男の様子から、かなりの必死さが伝わってくる。
フィーナは顎に手を当て少し考え。
「え、ええと。あの、もしかして……」
男が祈るような表情でフィーナを見つめる。俺達はフィーナの言葉を待った。
「私の・・・・・・」
「――私の?」
フィーナの言葉を男が復唱する。
そして、フィーナは額に汗を浮かべ、
「――知り合いの方ですか?」
笑顔でそう言った。
「ガァーンっ!」
俺とフィーナに忘れられたことが、かなりショックだったのだろう。
男は先程よりも激しく後ろにのけ反るリアクションをした。
「ウハハハハ! だから言ったろ、ライ? お前は3年前とは似ても似つかねぇってよ」
また笑い声が響いた。町の中央通りから、今度は先程よりも多い20人程の騎士を引き連れた男が、俺達の方に向かってきていた。
スッと整った美しい顔立ち。両耳にはピアスを開け、黒髪を背中で束ねている。
ただ一点。他の騎士と違い、この騎士は腰には剣ではなく、火縄銃のようなものを下げて――。
「ライ……?」
そう。確かに銃を腰に下げた男は言ったのだ。俺はライと呼ばれる名前に、1人心当たりがあった。
それに、まるで騎士には似つかわしくない"火縄銃"。これを使う騎士も、いや、こんな"もの"を使う男も1人しか知らないのだ。
火縄銃を腰に下げた男は、巨体の男の隣に並んだ。
「久しぶりじゃねぇかヴィレン。今日は兄貴に挨拶にでも来たのか?・・・・・・って聞くのは野暮ってもんか」
「お前・・・・・・もしかして、フウガか!?」
「兄ちゃんて呼べって言ってんだろ?」
銃を腰に下げた男――フウガはニヤリと笑った。
「じゃ、じゃあ、お前ライガか!?」
「嘘!? ライガ兄さん!?」
「ったく、兄貴の顔ぐれぇ覚えとけってーの」
フィーナが驚いた様子で口に手を当てる。巨体の男――ライガはやれやれといった様子で肩を下げた。
「いや、俺はともかく。お前は無理があんだろ」
「だったらフウ兄だって、ピアス開けてんじゃんかよ!」
2人は言い争いを始めた。俺とフィーナは、ぽかんと口を開けることしかできなかった。
だってそうだろう。たった3年で、これ程までに変わってしまったのだから。
フウガはともかく、ライガは俺とあまり体格が変わらなかった。
まぁ、よく見ればどことなく、3年前の俺の記憶にある2人に、顔の特徴が似ている気もするが・・・・・・。
思春期こえぇぇぇ……。
そんな2人を差し置き、フウガの腰に下げてある火縄銃から、紅の光が溢れだし、またたく間に火縄銃が幼い幼女へと姿を変える。
「よっす! レン坊にフィーちゃん! それにリヴィリヴィ!」
「リヴィリ……」
少女は指を2本たてて挨拶をした。
オレンジ色の無邪気な瞳。肩まで伸ばした黄色い髪。少女の無垢な笑みは、まるで陽光のように暖かい。
「お前は変わんねぇな、『ラー』」
こいつは3年前から何も成長していない。まぁ、それも当たり前か。
幼女の名はラー。リヴィアと同じく、フウガと適合した神器に宿る『神』である。
「ラーさんお久しぶりです! アテナさんは一緒じゃないんですか?」
フィーナは軽く辺りを見回しながらそう言う。
「あ、そう言えばそうだな」
「あー、えっとだな……」
フウガとの話し合いが一段落したのか、ライガが会話に参加してきた。
「――あの女のことだ。どうせ、私が怖くて部屋の隅で体育座りでもしているんだろう?」
「リヴィリヴィなんでわかったの!?」
リヴィアの言葉にラーが目を丸くしながら驚いた。
「あれ、それ内緒って約束じゃなかったか?」
フウガがラーの頭に手を乗せた。
「あっ! いっけね、すっかー忘れてた。やっぱ、今の無しで」
アポロンは手のひらで軽くおでこを叩き、舌を出した。可愛い。
「レンレンってフィーナちゃんと2人兄妹じゃなかったっけ?」
カルラの発言に、隣でアリシアもコクコクと頷く。
「あ、あぁ。そういえば言ってなかったな。こいつらは俺の兄弟子で、まぁ・・・・・・兄弟、みたいなもんだな」
「そういや自己紹介がまだだった!」
フウガが俺の肩に腕を回しながら続ける。
「俺は、紅焔騎士団団長『陽炎』の勇者、フウガ・ドラグレク!」
「同じく、紅焔騎士団副団長『豪傑』の勇者、ライガ・ドラグレクだ!」
「そしてアタシが『太陽神』ラーなのだー!!!」




