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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第3章 終焉の十日間
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第172話 ラスト・ピリオド

 人は日々戦い続けている。

 等しく全ての人が、必ず何かと戦わなくてはならない。

 生きるために戦う者。明日を望むために戦う者。己の価値を見出すために戦う者。自らの在り方を賭して戦う者。

 人が戦う理由は様々で、細かく覗けば一人一人異なるものと戦っている。

 今日という日を乗り越え、自らを肯定するために。

 だから俺は剣を取る。

 俺の戦う理由は、大切な人たちをもう二度と失いたくないから。

 大切な人たちが生きる明日を掴みとるために、俺は戦うんだ―――。



「破壊神リヴィアの器《永久(とこしえ)勇者(ブレイブ)》ヴィレン・ドラグレク」


「七大天使統括《正義》のミカエル」


 俺とミカエルの体感時間が限りなく引き伸ばされる。時の流れは穏やかに。そして緩やかに。音もなく経過して行く。

 永遠と感じる時間の中。無限に続くかと思われた停滞の隙間。しかしそれは突然に終わりがやってくる。そういうふうに出来ている。

 俺とミカエル、二人の呼吸が重なった。

 瞬間、時が溶ける―――。


「おおッ!!」

「フッ!!」


 溶解した時の流れは、停滞していた時間を取り戻すかのごとく急速に加速していく。

 視線の先で火花が重なる。少し遅れて剣の悲鳴が鳴く。

 一撃一撃が重い。一閃一閃が速い。

 ウリエルには及ばぬにせよ、しかと迫る剣速。ウリエルと違う点は、ミカエルが戦い慣れしていることにある。

 確信があった。俺はこいつに勝てないと。だから俺は、全てを捨てる覚悟を決めた。


五番目の終焉(クインス・ピリオド)神々を屠殺せし終撃(ラスト・リディア)》ッ!!」


 超近距離からの必殺の一撃。直撃すればミカエルとて無事ではすまない威力がある。


「《聖鎌》アスタロト」


 対するミカエルの手元。彼が扱う剣が、鎌へと姿を変えた。

 先ほどカルラとの戦闘で、剣が弓へと変形した瞬間を俺はすでに目撃している。


「ヘヴンス・エッジ!!」


 彼我との距離は僅か2メートル。至近距離で俺の剣とミカエルの鎌は接触した。高エネルギー同士の衝突に、空間がピリつき衝撃力場が発生する。

 踏ん張りも虚しく、足が宙に浮き、粉煙と仲良く吹き飛ばされた。


「く……ッ!!」


 剣を地に突き立てどうにか体勢を立て直す。

 結果は互角。俺の持ちうる最強の一撃ラスト・リディアが軽く相殺された。

 さすがは七大天使長といったところか。ここまで斬り結べたこと事態が奇跡とも思える。まぁ手加減されていた感は否めないが……。

 だが、ここまでは計算通りだ。

 さきの衝突によりミカエルとの距離はかなり開いた。今ならいける。

 脳裏にフィーナの顔が浮かび、一瞬躊躇した。けれどそれも一瞬だけ。


「汝、器の主足る我が欲し求め願い給う」


 詠文はもう知っている。リヴィアから聞いている。


「黙示録の(つるぎ)。漆喰の刃。世界に終焉を告げ終わりを(もたら)せし我が主神よ!」


「―――させるとお思いですか!」


 直後、粉煙が吹き飛び二本の矢が的確に頭部と心臓を狙っている。加えて粉煙の煙幕で発見が遅れ、反応が鈍る。直撃すれば即死あるいは致命傷。詠唱に集中するため俺は動くことができない。

 だから俺は、それを想定し事前に対策を済ませておいた。


『………ゥゥゥ』


 突き立てた黒剣の真下から影が出現する。《七番目の終焉(セプテム・ピリオド) 冥界を守護せし終影(ガルデバラン)》冥界の番人たる破壊神の十眷属を召喚させる技だ。

 影の眷属がミカエルの矢を叩き落とした。


「まさか読んでいた……!?」


 目を見開き、特攻を仕掛けるべくミカエルが急接近する。

 眷属達が束となりミカエルの猛攻から俺を守るべく奮闘した。もちろん彼らに意思はない。けれどその犠牲から生まれる数秒を無駄にすることは躊躇われた。

 悪ぃ、ありがとう。

 心の中で感謝の念を送り、


「今こそ器を器足りえんとする時成り。汝の器足るこの我に、汝が"終焉の理"を。代償をここに。真名をここに―――」


 脳裏に蘇る大事な者達の顔。巡る思い出。

 走馬灯かよ、と一人で笑う。あながち間違いでもない。なにせここが最後のターニングポイントだ。これより先は後戻りができなくなる。

 構わない。もう決めたんだ。


「《聖槍》ロンゴミニアドッ!!」


『―――ッァァァ』


 一人また一人と、ミカエルの槍により屠られていく眷属達。もうすぐそこまでミカエルが迫っている。

 大きく息を吸い、吐き出す息と一緒に、俺は彼女の真名を口にした。


「《終焉の破壊者(ラスト・ピリオド)》リヴィア・エス・ディヲン」


 彼女の名を紡いだ時、悲しげな顔で笑うリヴィアが見えた気がした。

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