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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第3章 終焉の十日間
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第0話 終わりを始める出会いの物語

 墳墓の中を二人の子どもが走っている。


「「はぁ、はぁ、はぁ」」


 服は汚れ、息は荒い。それに墳墓の中は薄暗く肌寒い。唯一の光明は松明の灯火だけ。パチパチと音を鳴らす松明を頼りに、二人は墳墓の奥へと進んでいく。


「この墳墓で間違いねぇ」「絶対逃さねぇぶっ殺す」「どうせ殺すんなら女は殺す前に俺にくれよ」「女っつってもガキだぜ?」「それがいいんじゃねぇか?」「幼女のどこがいいんだか俺にはわからん。小便臭えガキはごめんだな」


 迫る追手の声に、少年の手を握る少女が力を込める。


「お兄ちゃん……」


「大丈夫。大丈夫だよ、フィーナ。お兄ちゃんが守るから!」


 根拠などなかった。けれど少女をこれ以上不安にさせまいと、少年はニカッと笑ってみせた。

 二人は更に墳墓の奥へ奥へと進んでいく。

 それからしばらく進んだところで、広い空間にたどり着いた。

 どうやら行き止まりのようだ。

 そしてどうやら、ここまでのようだ。


「ぐ、ぁっ……!!」


 背中を思い切り蹴られ、少年は何度か地面を跳ねて転がった。


「お兄ちゃんっ!?」


 少女の悲痛な叫びが広間に響いた。

 のそり、と少年達が通っきた穴から4人の男が現れる。

 4人ともが防具をつけ、左手首にはリングをつけている。冒険者だ。


「こんなとこまで逃げてくれやがって。手間ぁかけさせんなガキども」


 ボリボリと頭を掻きむしる無精髭の男が面倒くさそうに吐き捨てる。

 緑色のリングをつける三人とは別に、この男だけは青色のリングをつけている。


「いやッ、離して……!!」


「フィーナ……っ!!」


「ひひッ、大丈夫だよ。怖くない怖くない。おじさんと楽しいことしようね、イひひッ」


 樽のように太った男に捕まり、少女が泣き叫ぶ。


「フィー、ナ……大丈夫。大丈夫、お兄ちゃんが今――あぐッ!?」


 少年は気力を振り絞り立ち上がるが、その腹に手加減なしの蹴りが叩き込まれ、少年は再び地べたを転がった。

 

「ははっ、大丈夫なわけねぇだろぉ? てめぇらは死ぬんだよ殺されるんだよ。んまぁたっぷり可愛がってやるがなぁ、ケケケッ!」


 燃え上がるような痛みにピクピクと痙攣する少年を踏み締め、今度は目つきの悪い男がせせら笑う。


「魔族と言っても子どもですよ。趣味が悪いったらない」


 と、最後の一人。眼鏡をかけた男がため息をついた。そして辺りを確認する。


「にしても、この墳墓はいったい何を祀るものなんでしょうか?」


「お宝でも眠っててくれるといいんだがなぁ……」


 という発言の後、リーダーの男の言葉が止まる。


「――ん? なんだありゃ」


 暗くて見えづらいが、広間の中央付近に台座があった。

 眼鏡男が松明で照らしてみると、なにやら台座には一振りの剣が突き刺さっているようで。


「おっ、あるじゃんお宝お宝!」


 少年を足蹴にしていた目つきの悪い男の興味が台座の剣に引きつけられる。


「ズぁ、……っ」


「よっと」少年を蹴り飛ばし、目つきの悪い男が一目散に剣へと駆けていった。

 その後ろ姿を、少年は虚ろな目でぼんやりと眺めていた。


「…………」


 両親が死に、妹が泣いている。

 少年は自らの無力さを呪った。

 少年は世界の残酷さを憎んだ。

 そして少年は、大切なものはすぐにこぼれ落ちてしまうという現実を知った。

 強者が弱者を喰い物にする、こんなクソみたいな世界に理想なんてない。

 弱肉強食の仕組みを許す世界で生きていくためには、弱者であり続ける限り救いなんてあるはずがない。

 力が欲しいと少年は思った。

 力さえあれば、怯えずに生きていける。大事な者を守ることができる。

 だから俺は、力が欲しい―――。


 それは始まりの物語。少年が女神と出会う、終わりを始める物語だ―――。

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