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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第3章 終焉の十日間
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第157話 水爆

 いつにも増して身体がよく動く。足が羽のように軽く、一撃一撃に重みが乗っている。


「はぁぁっ!!!」


 アリシアがカブリエルと戦えているのは全て、バロルのサポートのおかげである。

 神槍神斧ディアラは『重力』を操る神器だ。バロルはアリシアの重力を操作し、アリシアの実力を十二分に増加させている。加えてガブリエルに対し重力を倍加させることにより動きを制限していた。

 1人2役――いや。


「ふん―――ッ!!」


 そしてバロル自身もアリシアと並びガブリエルに槍斧を振るう。

 サポート役と言いながらも、その実力はやはりヴィレンたち他の勇者と互角。1人3役の働きだ。


「ははっ♪ やるねぇ!」


 距離を取ろうとするガブリエル。


氷柱槍(アイシクル・ランス)!!」


 逃げた先にフィーナの魔法が飛ぶ。


「おっと」


 ガブリエルは左手を軽く横に振った。

 すると氷槍と同じ10本の水槍が見る間に生成され発射される。衝突からの相打ち。水槍が凍てつき氷粒となって飛散した。


「ん〜、やっぱり氷魔法は相性が悪いなぁ」


 言動とは裏腹にガブリエルの顔から笑みが絶えることはない。


「他所見とは余裕だな。ガブリエル」


「―――え?」


 だが。そんなガブリエルの隙を魔王が突いた。緩急のある攻撃はガブリエルの反応を置き去りにする。

 地を蹴り回避を試みようとしたガブリエルだったが、彼の足が地面を蹴ることはなかった。いやできなかった。何故ならガブリエルの両足が宙に浮いているからだ。

 機転を利かせたバロルの策略である。ガブリエルにかけていた超重力を解き、今度は逆にガブリエルの重力をゼロにしたのだ。その影響でガブリエルは浮遊し、宙で足をばたつかせる。

 ガブリエルに逃げ場はなかった。

 バロルの槍斧がガブリエルの首を薙いだ、と同時にアリシアの双剣がガブリエルの服部を斬り割いていた。

 ガブリエルは両目を見開いた。致命傷である。


「そんな……この、僕が……!?」


 1歩2歩と交代し、それからガブリエルは……クスリと笑った。



「―――なんちゃって♪」


「そんな………傷が!?」


「治癒魔法……ではありませんね」


「………」


 ガブリエルの首や腹部に傷の痕跡は見て取れなかった。全くの無傷なのだ。それは、サリエル戦で見せたカルラの超速再生とよく似ていた。


「君たちじゃ僕を殺すことはできないよ」


 ガブリエルの身体を水が覆っていく。


「そろそろ終わりにしよっか。朝帰りはよくないからね♪」


 渦を巻きながら水はガブリエルの全身を飲み込む。それでもまだ大きく拡張し、それは1つの巨大な球体に変化した。

 直径3メートルはある水の球体だ。

 ガブリエルが何をしようとしているのか。全く意図は分からない。

 だが、アリシア達の本能が警告を促していた。アレは危険だと。アレはよくないものだと。

 直感に従い、アリシアとフィーナが動いた。


上位氷魔法(リル・アイスマジック)"氷華十盾(アンキーレ)"!!」


「血よ、盾となり守りなさい!『血守麗幻(エヴァーラーグ)』!!」


 アリシアが血液を盾へと変化させ、その前方球体との間にフィーナが10枚の氷の花弁を咲かせた。そのおよそ3秒後。



「精霊遊戯《水霊核爆連》」


 巨大な水球が小さく伸縮し、そして次の瞬間―――爆ぜた。


「「――――ぐッ!!?」」

 

 地面を抉りながら、周囲にある全てを巻き込み、そしてその全てを吹き飛ばした。

 フィーナが展開した10枚の花弁が一瞬で砕け散り、アリシアの防壁もまた衝撃に耐えれず破砕した。

 爆発の衝撃がアリシアとフィーナ、そしてバロルの3人を襲った。

 ド―――ッという重撃に肺中の空気が振動し、3人は声を上げることも叶わず周囲の瓦礫と一緒に吹き飛び、崩壊した建物に背中から打ち付けられた。

 爆発の餌食となったのは彼女らだけではない。

 ヴェルリム中で暴れ回る水精霊達も、ガブリエルの爆発と連動するかのように爆ぜていた。

 ヴェルリムで累計千回近い爆発が発生し、ウラドやアルキャラ、バルガーとシャム達も爆発に巻き込まれていた。


 爆発が止むと、ヴェルリムから一切の音が途絶えた。

 しばらくして、こぽこぽと音を立て四散した水が一箇所に集まり始め、人の姿を形取っていく。


「あ―――っは♪ あ〜楽しかった♪」


 満足そうな笑みを浮かべるガブリエルの声を、瓦礫の中でアリシアは聞いていた。

 美しい金髪は乱れ、額を真っ赤な血が伝う。身体は動かない。指を動かすのでやっとだ。途切れそうになる意識の中で、周囲の状況を把握しようと瞳を動かす。

 近くの瓦礫の中で銀髪の少女が気を失っている。離れた場所にバロルの姿もあった。


「暇つぶしくらいにはなったかな」


 ガブリエルの背中に純白の羽が生える。そのまま飛びたとうとして、思い出したようにガブリエルが言った。


「そうだ。遊んだ玩具(おもちゃ)はしっかり壊さないと♪」


 ゴポゴポと音をたて、再び水精霊(こども)達が生まれた。そのうちの1体が、真っ直ぐアリシアの元まで歩み寄る。

 水精霊は残酷なほど無邪気な笑みを浮かべていた。


「………」


 水精霊の手のひらがアリシアに近づく。終わりが近づく。死がそこにある。


 ここまでなのか。

 ―――痛い。

 これで終わりなのか。

 ―――眠い。

 終わってもいいのか。

 ―――寒い。

 やり残したことはないのか。

 ―――でも。死にたく、ない。


 アリシアの瞳に、薬指にはめられた赤い宝石が映った。

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