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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第3章 終焉の十日間
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第154話 置いてけぼりの2人

「ふふ、ふへへ………」


 左の薬指にはまった、紅い宝石のついた指輪を月にかざし、アリシアは盛大に頬を緩ませていた。


「なんですかさっきから。その気持ちの悪い笑い方は」


 そんなアリシアの様子を察しフィーナが固まる。


「え、アリシアさん、その指輪は………まさ、か」


「ふふっ、気づいた? そう。ヴィレンくんがくれたんだ。いいでしょ?」


「自慢ですか自慢なんですかええ似合っています似合ってますとも……うぅ、妹の私だってまだもらってないのに……」


 妹に指輪を送る兄がこの世に存在するのかどうかはさておき、かなりショックだったのだろう。割と本気でフィーナは傷ついていた。


「よしよし、お姉ちゃんが慰めてあげよう」


「調子に乗らないでください姉さんになるには気が早すぎます。まだ式も挙げていない、の……に、兄さんのバカぁっ!!」


 半べそのフィーナはベッドに倒れ込み、抱き枕にしている黒髪男の子の人形を強く抱きしめた。

 その際パジャマの袖が捲れ、白い華奢な左手首に付けてある白いブレスレットが、カーテンの隙間から覗く月光を浴びて輝いた。


「フィーナちゃんだって。カルラくんからもらったんでしょ、それ?」


 途端。ハッと我に返ったフィーナが白のブレスレットを右手で隠した。

 ちょっと顔が赤い。


「違っ!! これは、その……あの、えと……」


 柄にもなく取り乱すフィーナを見て、アリシアはクスリと微笑んだ。


「似合ってるよ?」


「あぅっ……ぅ」


 耳まで赤く染め、フィーナは胸元の抱き枕にぎゅーっと力を込めた。

 フィーナの小さな胸の間で、むぎゅーっと人形の顔が歪む。


「………ありがとう、ございます」


 俯き顔を前髪で隠すフィーナは、とても恥ずかしそうに口の中でそう呟いた。

 聞こえないふりをしてアリシアは笑った。


 ヴィレンとカルラに天使戦参加を猛反対された2人は、現在ヴィレン家フィーナの寝室で談笑を交わしていた。


「とうとう明日だね、ヴィレンくん達」


「そうですね。無事に帰ってきてくれればいいんですが……」


 ダンジョンとは未開の地である。450年前に地上に出現した天使の住処。

 ダンジョンとは死域である。足を踏み入れたが最後、二度と生きては出られない。

 かつてダンジョンに挑んだ魔王軍幹部が数名。Sランク冒険者含むパーティーが複数戻らなかった。

 先代《騎士王》アドラス・ドラグレクは未来を予言していた。近い将来天使が地上を蹂躙すると。

 ダンジョン制覇に向け進軍し天使に遭遇。全滅を防ぐため、騎士団を逃すためアドラスは1人天使に立ち向かい死去。

 多くの者はアドラスを嘲笑った。無駄な犠牲。老木の戯言だ妄言だと。そう。大戦の日、天使が地上に舞い降りるその日までは。


 天使と2度対面したからこそわかることがある。犠牲無しでは天使を倒せない。サリエルに勝利できたのは運が良かっただけだ。あの場にウィーやザインがいなければ。白の王国は1人の天使に亡ぼされていた。

 フィーナやアリシアでは力不足なのだ。足手まといなのだ。とくに一度命を落としかけているフィーナ自身よく理解している。


「………」


 少しの静寂の後、突拍子もなくアリシアが言った。


「フィーナちゃんはさ、カルラくんのこと、どう思ってるの?」


「………はいっ?」


 ピクッとフィーナの肩が跳ね、恐る恐る振り返る。


「どう思ってるって、どういう意味でですか……?」


「男の人として」


 アリシアはニコニコと無邪気な笑みを浮かべている。単刀直入すぎて、フィーナの小さな口から小さなため息が溢れる。


「どうもこうもカルラさんはカルラさんです」


「そうじゃなくて……だって気づいてるんでしょ、カルラくんの気持ち」


「気づかない方がどうかしてます。私はそこまで鈍感じゃありません」


「カルラくんはフィーナちゃんを大切にしてくれそうだけどね」


「だから、ですよ」


 俯く前髪に隠されたフィーナの瞳が小さく揺らいだ。


「え?」


 疑問符を浮かべるアリシア。顔を上げフィーナは首を振った。

 

「なんでもありません。私は兄さん一筋です」


「………」


 その微笑みが、アリシアには寂しそうに見えた。

 フィーナの視線はさらに上。窓越しに夜空を見上げた。


「曇ってきましたね」


 いつの間にか黒雲が月を覆っている。


「だね。ひと雨来そう――……」


 次の瞬間だった。

 唐突で突然に"ヴェルリム"は奇襲を受けた。

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