第148話 終わりに向けて
その後、帝国は2度目の滅びを迎えた。
《ユウシャ》ユーキと、帝王ルグルス・J・アルデュビアが死亡した時点で帝国は敗北している。
魔法で強引に従わされていた人々は開放され、指名手配の残党も討伐された。
生き残った七帝将ダーリー・ウェンブリーと、『ジョーカー』ことデイフィル・アデマンは《Sランク冒険者》ライム・イーパーの必死の訴えにより、死罪を免れ白の王国へと引き取られた。
今度こそ、帝国は完全に消滅したのである。
しかし、残った問題は山積みで。しかも状況はかなり切迫している。
なにせ人類の余命は残り1週間を切っているのだから。
❦
人類滅亡まで残り8日―――。
急遽王達が一同に集結した。
『騎士王』ザイン・ドラグレク。
『魔王』バロル・バルツァーク。
『霊王』ラクア・ディッファニー。
『賢王』ラフリス・エルファーノ。
『聖王』"代理"エスティア・テイルホワイト。
場所は白の王国王都ルクシオン。
人類最後の世界会議が行われた。
そんな大事な会議が開かれている最中、俺が何をしていたのかと言えば――。
「レン。アレが美味そうだとは思わないか?」
先を行く漆黒の髪が揺れ、黒紫の瞳がキラキラと輝いている。
少女は振り返り、その口元に笑みを浮かべて、
「もちろん全額おまえの奢りだが」
そう、リヴィアとデートの真っ最中である。
黒の王国に帰還した俺達は、方針を残りの時間を自由に過ごすことに決めた。
この先何が起こるかわからない。
天使との戦闘が始まれば、勇者である俺やカルラは確実に前線メンバーに組み込まれるだろう。
そして正直なところ、サリエル戦を終え、帝国戦を超え、疲れた。
「美味いな。うむ。やはり私の見る目に間違いはなかったか」
隣でパクパクと苺のパフェを頬張るリヴィア。
その瞳が俺のチョコレートパフェを捉える。
「おまえのも美味そうだな。一口よこせ」
「いいぜ。お前の苺パフェを一口くれたら一口やるよ」
そう言って俺は意地悪く笑った。
こう言って置けば、リヴィアは諦めるだろうと思って。
そんな俺の目の前に、赤みのある苺の乗ったスプーンが差し出される。
「は?」
「は? じゃないだろ。ほら。早くしろ。何をボケっと固まっている。先に一口くれと言ったのはおまえだろう?」
「いや、あ……おう」
思考が纏まらないまま、俺は気圧されるように口を開き、
ぱくり。途端口の中に広がる苺の甘み。加えて砂糖やクリームの甘さが丁度良く、苺本来の甘みを最大限に引き出している。
「……うま」
思わず溢れ出た感想に「だろう?」リヴィアが自慢気に笑う。
「ほら。次はわたしの番だ」
言われるがまま俺は自分のパフェを一口掬い、幼子のように口を開いて待つリヴィアのその小さな口にスプーンを運んだ。
ぱくり。リヴィアの顔が緩んだ。
「うむ。チョコもやはり美味いな!」
俺は自らのスプーンを見つめ、ちょっとだけ心臓が高鳴った。
しかしまったく気にもする様子のないリヴィアに、気恥ずかしくなっている俺の方が恥ずかしくなってきて。
俺は残ったパフェを一息に食べ始めた。
「………」
だから俺は、自分のスプーンを見つめ隣でほんのり顔を赤くしながら、パフェを口に運ぶ少女に気づけなかった。