第147話 雷玉
慣れ親しんだ柄の感覚。
たかだか1週間程度、しかし久しぶりに握った相棒の柄には懐かしささえ感じられる。
相棒を構え、ヴィレンは天を見上げた。
空から落ちてくる、雷の玉。
心を落ち着かせ、魔力の波を沈める。
今、自分にできること。
何度も失敗し成功経験は少ない。
だが。不思議と今、ヴィレンは成功を確信していた。
「二番目の終焉 破壊の眷属達の終宴」
これは破壊の宴。そして終わりの共演。
何の終わりかって、そりゃ世界の終わり以外の何がある?
鳴り響く死の舞踊曲。
「五番目の終焉 神々を穿殺せし終撃」
2番目の眷属と5番目の眷属が、互いのワイングラスをぶつけ合う。
途端、世界が1歩終わりに近づいた。
そこに加わるもう1つの影。
「十番目の終焉 魔象を断絶せし終閃」
10番目の眷属も加わり、世界はさらに終わりへ向かって加速する。
「喜べアレス。トールの置土産だ。ぶった斬るぞ!」
ニヤリと笑い、ザインは太刀を構えた。
ザインの言葉に応えるように、その刀身が紅く燃えていく。
「極撃と断魔の狂焉 終撃と終閃!!」
「天地断絶 無我の太刀 斬空――ッ!!」
紅の斬撃と黒の斬撃。
交わらぬ2つの斬撃が空を駆け、天空の雷玉を両断した。
4つに分断される雷玉はしかし、そのまま落下する。
「いや、落ちんなよ……」
なんとなく斬れば爆発するなり砕けるなりすると思っていたザイン達は慌てた。
その様子に、どこかの誰かがため息をもらした気がする。
「剣よ―――」
突如空中に出現する無数の剣。
その剣全てが4つに分断された雷玉を砕いた。
「あなたは詰めが甘いのです、ヴィレン」
剣を出現させた当人。エスティアがヴィレン達の前に姿を現した。
彼女の瞳が、ヴィレン達の端に腰を下ろす天使を射抜く。
「礼をいいます。ありがとうございました」
「礼などいい。それよりも、唯一神とやらはどうして私達の記憶からおまえ達ごとその存在を消したんだ?」
リヴィアの問いかけに、ヨフィエルは思いを馳せるように、目を閉じた。
「あのまま神戦が長引いていれば世界は滅んでいた。あの方にとって、唯一神などという称号に意味はないのです。
あの方は争いを何よりも嫌う。全てを救うために、全てを犠牲にし、あのお方は神戦を乗り越えた」
それからヨフィエルはリヴィアを正面から見つめ微笑んだ。
「リヴィア様は忘れてしまわれていますが、とくに貴方様のことをあの方は……」
「―――ダメじゃないか、ヨフィー」
どこかから響く幼い少年の声。
直後、水色の弾丸がヨフィエルの身体を貫いた。
「―――ぅッ!」
目を見開くヴィレン達は、弾丸が発射された方向、即ち上空を見上げて、顔を引きつらせた。
そこにいたのは、空色の髪をした少年だった。
少年は宙に浮いていた――いや、飛んでいた。
「良かったねヨフィー。この場に来たのがウリーだったら、どうなってたかなぁ」
少年はニコニコと笑っている。その純白の翼をはためかせて。
「やあ、はじめまして。ぼくは第四天使『遊戯』のガブリエル」
子どもの容姿を纏った怪物は、告げた。
「10日後。太陽系にある全惑星が交差する、グランドクロスのその日に、僕達天使は地上を殲滅することをここに宣言しよう!
君たちが生き残る道は1つだけさ。グランドクロスのその日までに僕達天使を殺すこと。ダンジョンにおいで人間諸君」
最後にヨフィエルを一瞥し、じゃーねーと言い残して無垢な笑みを浮かべたままガブリエルは姿を消した。
身を固くしたまま、ヴィレン達は忘れていた呼吸を取り戻す。
「人間は愚かで救いがたい。愉悦のために人を殺し、快楽のために異性を喰らう」
光に散っていくヨフィエルの身体。
「でも。あなた達のように、人の生を精一杯生きる人間もいる。
神と手を取り、笑い会える関係。
これこそ、あのお方が見たかったものなのだと、私はそう思うのです」
そして消える間際、ヨフィエルは笑った。
「生きなさい。そして、勝ちなさい。あなた方に暖かなる慈愛と親愛を――」
罪を犯し国を追われた者。罪を背負い国を後にした者。様々な登場人物が過去を巡る中、茶髪の少年はただ我が家に帰りたいというそれだけの願いのために奔走する―――。
なんかとりあえずカッコつけたかった2章でした。僕的にはけっこう中2感満載で書いてて楽しかったです!
ここまで読んで下さった読者の方は、まさかここで読むのやめたりしないですよね!ですよね!!ね!?
ということで、さてさてクライマックスももう僅か。あと少しだけお時間頂けたらな、というところで2章の後書きとさせて頂きます!