第144話 気だる気な君は
「――君はいつも気だる気な顔をしているね、ダーリー」
死にゆく間際、ダーリーは声を聞いた。
ソレはとても儚く、そしてとても尊い。
いつかの空。聞き覚えのある懐かしい声。
「な……おまえ、まさか――」
忘れるはずがない。忘れられるはずがない。
瞳孔を見開くダーリー。その瞳には、ユーキの槌を短刀で防ぐ黒い背中が映る。
「君もそっち側なのか、ジョーカー」
距離を取り、ユーキは肩を落としてみせる。
「僕は元からこっち側だよ、ブレイバー」
仮面をつけた男――ジョーカーはダーリーに振り返り、そしてその面に手をかけた。
面の中に隠れていた、空色の髪と赤い瞳が顕になる。
「あ、デイル、……デイルなのか?」
「他に誰に見えるって言うんだい?」
「だって、おまえはあの日……」
動揺するダーリー。デイルは自ら右腕の布を破り、造り物の右腕を見せた。
いつかの日。失われた右腕を。
デイルは横目でヴィレン達を見た。
「例を言うよ。君たちのおかげさ。崩玉に封じられていた制約が解けた」
微笑み。振り向き様、左腕に握った布を放る。
ユーキの足元に転がる布。その中から首が2つ、はみ出した。
1つは白髪の老人の首。そしてもう1つは――、
「見るなアリシア」
「フィーナちゃんは見ない方がいい」
少女2人の前にヴィレンとカルラが身体をズラす。
「王は死んだ。帝国は落ちた。君の敗北さユーキ」
沈黙の後。ユーキはくすりと笑う。
「それがどうしました? 王が死んでも僕が生きている。僕が生きている限り帝国は不滅だ。5大国を落とし、僕は帝国をこの世界の王にする」
「どうして、そこまで……」
「どうしてって、僕は――」
その直後壁が粉砕し、ユーキの言葉を掻き消した。
砂煙を払い、燃えるような赤い髪が現れる。
「楽しそうだな。俺も混ぜろよ」
太刀を肩にかつぎ、男は楽しそうに笑っていた。
「騎士王ザイン・ドラグレク。わざわざリントヴルムに足を運ぶ手間が省けました。貴方が最初の王の首だ」
「殺れるもんならやってみろよ。くそガキが!!」
高まる2つの魔力。カルラ達も武器を構える。
一触即発の事態。
帝国最後の七帝将との闘いが始まろうとした、その時――。
「「――――?」」
1つの白い羽が、頭上から舞い落ちた。
見上げた空には、白い翼を広げた天使――。