第141話 崩玉
「兄さん!」「ヴィレンくん!!」
フィーナとアリシアは、2人仲良くヴィレンの胸に飛び込んだ。
「フィーナ。アリシッ――ぁあ!?」
全身負傷のヴィレンの顔が悲痛に歪む。
「だだだ大丈夫ヴィレンくん!?」「すみませんすぐ治癒魔法を!!」
慌てる2人に痛がる1人。その光景を面白そうに笑う者が1人。
「それで、外の奴らはみんな倒したのか?」
治癒魔法をかけられながら、ヴィレンがカルラに尋ねると「んーや」とカルラは首を振る。
「エスティアさん達が駆けつけてくれたんだよヴィレンくん」
「エスティアが……」
そうか、とヴィレンは頷いた。
ダーリーは足元。マーズの首の近くに転がる黒淵の崩玉を手に取った。
光を呑み込むその崩玉は、黒く闇が渦を巻いている。
「ヴィレン。頼む」
ヴィレンは頷いた。
フィーナのおかげである程度動けるようになった。フィーナも魔力不足で、これ以上の処置はとヴィレンから反対した。
フィーナに礼を言い立ち上がるヴィレンに、ダーリーが崩玉を投げる。弧を描き宙を舞う崩玉を、ヴィレンはその手に持つ終焉の剣で一閃。
ピキリッ、とガラスが割れる甲高い音。
直後。崩玉はヒビ割れ、宙に砕けた――。
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崩玉破壊直後。黒の王国平原地帯――。
バルガーとガドロフ。2人がかりですら鬼牙の王を止めれずにいた。
振るわれる暴威。振りかざされる破壊。逃げ遅れたガドロフを直撃した。
「ガドロフッ!!」
「ぐ、ァ―――ッ!?」
戦場から吹き飛ばされるガドロフ。ゼスト渾身の一撃を正面からもらったのだ。戦闘続行は不可能と判断したバルガーだったが、
「生きているのか、俺……?」
ゼストの拳を受けたガドロフの両腕に、目立った傷はない。
「無事なのか、ガドロフ……!?」
目を丸くするガドロフとバルガー。
「これは……」
しかし一番驚いていたのは他の誰でもないゼスト本人である。
周囲でも全く同じ現象が起こっていた。
次第に押され始める帝国兵。
バルガーとガドロフは互いに顔を見合わせる。
「何が起こったのか知らぬが、これは好機だとは思わないかバルガー?」
「やはり気が合うのぉ我が戦友。力が戻る前に畳みかけるぞガドロフッ!!」
息を合わせるように、2人の漢は突撃した。
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同刻。赤砂の大地――。
「――チッ。ウィザードの奴、しくじったか」
消えた手甲の魔印を横目にユリウスが呟く。
「はっは! イカサマが消えてビビってんのか? 今ならまだ間に合うぜ投降しろ」
「ほざけ。それはお前も同じこと。天候は曇雪。今までのような火力は出せまい」
投降を促すフウガ。ユリウスは大剣を構え直し表情を改めた。
直後。ユリウスの持つヲリキス刀身の紅色が深まっていく。燃えるように波打ち、魔力が荒れ狂う。
「出力開放《覇王の剣」
ヲリキスに莫大な魔力が収束していくのを肌に感じ、フウガの眉間にシワが寄る。
「………コイツは、まずいな」
ユリウスはヲリキスを中段に構えると、一点に収束させた魔力を一気に解き放った。
「《出力200%》!」
瞬間。高められた魔力が斬撃と化し、今までの比ではない衝撃がフウガを襲う。
ユリウスの代償魔法が消失し力が低下した――本来の力に戻った――今、200%の斬撃は代償魔法使用時の100%と同等の破壊力を持つ。
80%で押されていたフウガには、つまりこの一撃を防げるはずはなかったのだ。
「――大空を舞う不滅の弾丸『陽炎鳥』」
対しフーガの銃口から放たれたのは一羽の炎鳥である。サイズはヴィレン戦や先程この戦闘で召喚した物より一回り大きく、また色彩はより太陽に近い輝白と化した炎鳥。
アヴローラを相殺した。
「―――なッ!?」
その光景にユリウスは驚きを隠せない。それどころか、炎鳥は再び復活する。
「なんだ……ソレは……?」
「できることなら、使いたくはなかったんだ」
クルルッと鳴く炎鳥を撫でながらフウガは言った。
「神器を使いこなせてない俺は、まだ上手く加減ができない」
本気を出せば制御ができないから、手加減していたと。
「――ふざけるなッ」
何気なくフウガが口にした言葉は、ユリウスのプライドを地に落とした。
再度ヲリキスに莫大な魔力が収束する。
今度の魔力量はアヴローラの比ではない。
全身全霊、言葉通りユリウスは魔力の全てを込めた。
ザインを殺すために温存しておきたかった魔力。己の全てを。
死んでもいい。これで終わっても構わない。だから――。
「フウガ。お前だけは殺す!」
ヲリキスを下段に構え、踏み込みと同時に勢い良く斬り上げる。
魔力の本流が、圧となって渦を成す。
「消え失せよ《出力最大500%》!!」
ユリウス最大にして最強の一撃は、地を抉りながらフウガに迫る。
その威力はアイシャの炎龍と並ぶ。直撃すれば跡形も残らない。
「アンタは強かったよ。でも、それだけだ。アンタは下のヤツの気持ちなんて考えようともしない。だから誰もアンタについて行かない」
鬼気とするユリウスを見て、フウガは力なく笑った。
「だからアンタはソコにいるんだよ。ユリウスの旦那」
そして、銃剣を構えた。
「大風を駆ける撃滅の弾丸『陽炎虎』」
力を解き放たれた炎虎は、ディスボルクを噛み千切る。
そして侮辱に顔を歪めるユリウスに駆ける。
「やめろフウガ、そんな顔で私をッ―――」
ユリウスが続きを口にすることはなかった。
戦場に一際盛大な血潮が舞う。
静まり返る戦場に、フウガは天に向け弾丸を放つ。
「投降しろ帝国兵。お前たちの親玉はこの俺フウガ・ドラグレクが討ち取った!!」
その言葉に、帝国兵の手から次々と武具が地に落ちた。