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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第138話 合図

 ――数時間前。


「どうだ? 悪い話じゃないだろ?」


「……」


「俺はお前にやってもらいたいことがある。その為には永久の勇者の力が必要不可欠だってわけだ。だから俺はお前が神器を助けるのを手伝う。お互いウィンウィンの関係ってやつさ」


「……アンタが裏切らないっていう保証はどこにもないだろ」


「まぁ、そうなるよな。保証か……。知っていると思うが、帝国の連中には命を代償にした契約魔法がかけられている。

 帝国の情報漏洩を防ぐためであり、帝国への忠誠を誓わせるためだ。俺達七帝将も例外じゃない」


「仮にそれが本当だとするなら、なんでその制約は発動しない? 完全に帝国に対する裏切りだろ、これ」


「なんでってそりゃあ、偽物だからな、これ」


 上着をめくり、鍛えられた側筋に浮かんでいる紋章(タトゥー)をツンツンと人差し指で示し、ダーリーは平然とそう言った。


「説明すると長くなるんだが。まぁ簡単に言うと、何百年も前から帝国を気に食わねぇ連中がいて、その意志と野望?を俺が無理やり引き継がされてるってわけだ」


 めんどくせぇよなぁ本当、と頭をボリボリと掻きむしった後、未だ警戒の緩む様子のないヴィレンに、ダーリーは苦笑した。


「信頼しろとは言わねぇよ。ただ信用してくれ。お前の信用が得られるためなら、俺は何だってやる。

 例えば、今ここで腕を落としてもいい」


 腰の剣柄に手を添えたダーリーの言葉に嘘はない。

 ヴィレンがやれと言えば、ダーリーは躊躇うことなく己の腕を斬り落とすだろう。

 それで永久の勇者の信用が得られるのなら安いものだと言わんばかりに。


「―――」


 ヴィレンにとって、ダーリーの提案にはメリットしかなかった。

 だからこそ慎重にならざるを得ない。


「もう一度だけ、アンアの目的を聞かせてくれ。ダーリー・ウェンブリー」


「ああ、いいぜ。俺の目的は―――」





 事前に決めていた"合言葉"。作戦開始の合図。

 本気を出したダーリーに、もはやヴィレンの身体は反応しきれない。

 そんな状態、状況下。焼こうが煮ようが好きに調理できる獲物相手に、まさかこれ以上油断を誘う必要はないだろう。

 ならば疑う意味はない。ヴィレンは走った。

 元よりダーリーを信用する他、ヴィレンに選択肢は残されていなかったのだが。



 そしてダーリーは予告通りショーテルを抜いた。

 油断していたマーズは、避ける暇もなく胴体を両断された。

 横を抜けていくヴィレン。崩れ落ちるマーズ。

 ここまではダーリーの筋書き通り。想定通り。


 だからここから先は、完全にダーリーの想定外の出来事である。




「あらあらあらあら。これはどうしたことかしらロード。これは帝国に対する反逆よ反乱だわ。

 なのにどうして、制約が発動していないのかしら?」


「俺は胴体真っ二つにしたのに死なないお前に対してどうしてなんだが――」


 言葉よりも速く、ショーテルがマーズの首を通過する。

 首に奔る赤い剣線。――しかし。


「言ってなかったかしら? 不死身なのよ、私」


 両断された首は落ちることなく、血が吹き出すこともない。

 首筋に浮かぶ赤い線は消え、代わりに微かな火の粉が舞った。

 不気味に嘲笑うマーズが、走り去る黒髪の背中を横目に捉え、


「それに。貴方の狙いは坊やでしょう?」


 持ち上げた左手を少年に向けた。


「させるかよ――」


 再度、ダーリーの剣が踊る。


「残念。貴方に私は止められない」


 幾度斬ろうがマーズの身体にダメージはなかった。

 言葉通り今のマーズは不死身そのものであり、ダーリーに彼女の攻撃を止める手立てはなかった。


「いいや。止めてみせるさ。俺の命に変えてもな」


 だから故に、ダーリーはマーズとヴィレンの対角線上に割って入った。

 身を賭してヴィレンを守る体制に入るダーリーの眼前。突き出されたマーズの掌が紅い明光を放ち始め、炎の熱がダーリーの皮膚を炙る。


「ダーリー!!」


 ヴィレンの叫びに、ダーリーは振り向くことなく平然と応える。


「止まるな。行け」


「――ッ!」


 顔をしかめたものの、ヴィレンは止まらなかった。

 それがダーリーの願いなのだから。


「とても貴方らしくもない忠義ね。見直したわロード。全力で焼き尽くしてあげる」


 一段と増す炎熱に、ダーリーはハハと乾いた笑い。


「……んっとに俺らしくもねぇ」


 ショーテルを構え直すダーリーに魔法を無効化する術はない。

 こんなことならもっと……なんて、今さらああしとけば良かったなんて、考えんのはめんどくせぇし。

 やはりそれがダーリー・ウェンブリーなのだ。


上位火炎魔法(リル・フレイムマジック)〝|豪炎の災突(ブラスト・フレアーデ)〟」


 マーズの掌から発射された無慈悲なる炎の熱線が、ダーリーを焼き穿つ。

 その直前、マーズとダーリーの背筋が凍えた。



「――上位氷結魔法(リル・アイスマジック)氷晶の災穿(ヒューラ・アイシス)〟!!」


 澄鈴の声音と同時に通路側から氷の冷線が放たれ、マーズの魔法と衝突した。


「これは……!?」「あっ、ぶねぇ……!!」


 高濃度の熱線と冷線が交わり、相反し、相殺する。

 2つの魔法の衝突で水蒸気が発生し、熱線は天井方向に反れ、冷線は床を凍らせる。

 そして熱線により溶解した天井が、マーズとヴィレンを巻き込み崩落した。

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