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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第137話 マッチの灯

「俺はお前のことが好きだ、リヴィア」


 不思議と恥じらいはなかった。恐怖もない。今まで心配していたことがバカみたいに、心の奥がスッとする。


「レ、ン……」


 リヴィアは口を空け、目を丸くしていた。

 見る見るうちに顔が赤くなっていき、そして――リヴィアの感情が爆発した。


「おまえはバカか! バカなのかっ!? 時と場所を考えて言え!!?」


「――――」


「何がおまえのことが好きだ、だ!? ふざけるな!!」


「――――」


「私とおまえはただの契約関係でしかない! 神器と所有者の関係だと、お前が言ったんだぞレンッ!?」


「――――」


「あの時、おまえは私ではなくアリシアを取った。おまえは私を裏切った。それがおまえの答えなのだろう!?」


「――――」


「なのに今さら……私が好きだと……ふざけるのも大概にしろ!」


「――――」


「黙ってないで何か言ったらどうだッ!?」


 リヴィアの瞳は怒りに揺れていた。

 猛るように猛烈な豪炎ではなく、凪のように静寂な蒼炎でもない。

 酷く悲しい黒紫色の瞳をしていた。

 それが美しいと思ってしまう俺はどうかしているのだろう。


「お前に初めて会ったあの日、子どもながらに目を奪われたよ」


 そう。どうかしたのはきっとあの日――、


「こんなにも美しい女神様が、この世界に存在するんだってな」


「―――ッ」


 リヴィアの頬が微かに引きつる。


「世界で1番可愛い女はフィーナだがな。世界で1番美人な女はリヴィア、お前だと俺は思ってる」


「………めろ」


 リヴィアの口元が微かに動く。


「俺は弱い。どうしようもないくらい弱い。そんな俺を支えてくれたのは、お前だけだった」


「………やめろ」


 リヴィアの瞳が微かに潤む。


「いつだってそうさ。俺が壁にぶち当たった時。俺が限界に打ちひしがれた時。俺が決断に立ち止まった時。必ず俺を支えてくれたのはお前だよ」


 時と場所を考えろ。確かにリヴィアの言う通り、こんな場面で吐露する言葉ではないし、雰囲気など無いも同然だ。

 それでも俺は、リヴィアの瞳を真っ直ぐ見つめ、笑っていた。


「だからこれから先も、隣で俺のことを見ていて欲しい」


「――やめろっ!!」


 悲痛な叫びが、部屋に反響した。

 泣きそうな瞳で、リヴィアは呪符の中で己の身体を抱き締める。

 爪痕がつくほど強く、まるで恐怖に対抗するかのように掻き抱く。

 

「やめてくれ……これ以上私に、期待させるな……」


 首を振るリヴィアの、揺れる髪の隙間から覗く瞳は震えていた。


「私達神とおまえ達人間の時間は違う。悠久を生きる私達からすれば、おまえ達の寿命など、……たかだかマッチ1本分の些細な時間でしかないんだ……」


「ならその1本で俺はお前の心に火を灯してみせる。いくら時が経とうが色褪せない、不滅の炎を灯してみせる」


 そのためにも俺は、ここで敗北するわけにはいかない。


 俺達の会話を黙って聞いていたダーリーが静かに口を開いた。


「期待は毒だ。期待すればするほど、裏切れた時にそのツケが回ってくる。

 だからもう、期待させてやるな。ここでお別れなんだから。それ以上の言葉は余計彼女を傷つけるだけだぜ?」


 直後ダーリーの纏う雰囲気が変わった。


「思った以上にめんどくせぇから本気で行かせてもらうとするわ。死ぬ気でかかってきな。永久の勇者」


 ゆらゆらと漂うオーラではなく、言葉通り魔力が研ぎ澄まされていくのを感じる。


「賽は投げられた」


「―――!!」


 その言葉を合図に、俺は迷わず疾駆した。

 魔法で焼かれた傷が悲鳴を上げるが無視し、床を踏みしめ風となり駆け抜ける。

 視界の先で、マーズが残念そうにため息をつき、ダーリーがショーテルを構え、リヴィアが何かを叫んでいた。

 右手に持つ剣を逆手に、魔法を詠唱しようとしているマーズに向け投擲。

 実質ダーリーとの1対1である。

 ダーリーの射程に入った途端ショーテルが鈍く光った。

 音を置き去りに。光を断つ一閃。

 宣告通り、ダーリー渾身にして本気の一撃である。


 ダーリーの刃は、一寸違うことなく標的を両断した。

 




「は―――?」


 マーズの間抜けな声が、部屋に響いた。

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