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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第136話 告白

 外傷はない。反応から見て恐らく精神も健在だろう。

 少女の無事にヴィレンは心から安堵した。しかし同時に、なんと声をかけていいのか考えてしまう。

 思い返せばリヴィアと最後に言葉を交したのは、アリシアとの結婚。ヴィレンの弱音。そしてリヴィアの憤怒。絶望。


「…………」


 躊躇うヴィレンを横目に、最初に行動を起こしたのはマーズだった。


「――なっ!?」


「リヴィアッ!!」


 リヴィアの隙を付き、その華奢な身体を呪符で拘束する。


「貴様どういうつもりだ……?」


「どうもこうも私は帝国の魔女(ウィザード)。感動の再会に水を指すのは悪いけれど、貴方を差し出すわけにもいかないのです」


 浮遊魔法でリヴィアを背後の壁に固定して、マーズは床に転がっている男を垣間見る。


「いつまで寝ているつもりロード?」


 男――ダーリーが嫌々壁の残骸の中から立ち上がり、服についた瓦礫を掌で払う。


「や〜面目ない。神器のない勇者なんてただのガキかと思ったんだがなぁ……どうやら読み違えたらしい」


「………」


 あ〜めんどくせぇと愚痴りながらも、曲刀(ショーテル)を構え直すダーリーを横目に、マーズは部屋の奥から漆黒の闇珠を取り寄せた。

 闇珠を横目にするダーリーと、嘘偽りのないことを確認するマーズ。

 当然だ。ダーリーが嘘をつけば制約による代償が発動する。

 余裕と思える仕草行動、その会話の端々にも、2人からは警戒の色が滲み出ており、ヴィレンは安易に斬りかかれずにいた。


「待ってろリヴィア。今助ける」


「気をつけろレン奴は七帝将だ!」


 再優先事項はリヴィアの奪還。

 立ち塞がるは2人の七帝将。大きな壁だ。

 リヴィアを使ってでさえ、この2人を相手取り勝てるという自信はない。

 にも関わらず、果たして自分は超えられるだろうか、という心配が不安を引き寄せる。

 違う。超えるかどうかじゃねぇ。超えるしかねぇんだ。

 握る剣に力を込め、弱気を拭い去る。

 上等だ。これ以上ない相手じゃねぇか。

 強引に頬を吊り上げる。


「面白ぇ……!!」


 瞬間的に足裏、脹脛に魔力を集中しヴィレンは動いた。続いて魔力が筋肉を伝達し加速する。

 ここ数日の鍛錬と帝国兵との戦闘で、コツを掴んだヴィレンの魔力操作は一段階進化している。

 加速したスピードを全て剣に乗せ全力で剣を振るう――が、しかし流石は七帝将。

 ヴィレンのスピードに対応し、尚且つ剣戟にも応じて見せる。


「俺はなにも面白くねぇってのっ!」


 本心からの嫌顔に、ヴィレンは苦笑した。と、すかさず距離を開ける。

 直後。元いた場所が盛大に爆ぜた。そしてダーリーがちょっと巻き込まれた。


「う、をほぉっ!? ウィーザードてめぇ殺す気かぁっ!?」


「あなたはこの程度で死ぬタマじゃないでしょう。それにちゃんと避けれてるじゃない」


「掠ってるわ。ここちょっと焦げてんの見えねぇ!?」


「見えないわ」


「うひょぉっ!?」


 連携も何もなっていない様子を見て、ヴィレンの中に少しの余裕が生まれる。

 心に余裕を持つことは大切だ。

 余裕があれば周りが見える。

 周りが見えれば微かな変化、微妙な動作にも警戒が敷ける。

 熱くなりすぎてはダメだ。感に頼りすぎてはダメだ。

 常に1歩引いた状態で冷静に対処する余裕を持たねば、正気を逃してしまう。


「ははっ。騒がしい連中だな。同士討ちしてくれりゃぁ助かるのによ」


「本心が口に出てんぜおい勇者」


 敵と軽口を交わす余裕があれば尚更いい。また、戦闘に置ける一興とも言えるだろう。

 しかしかと言って、余裕が過ぎれば油断となる。

 油断し一瞬の集中の欠如が死を招く。


「――ッ!」


「余所見しちゃダメよ?」


 ダーリーをエサに、マーズの魔法がヴィレンを襲う。

 マーズの長けた魔法の才能。彼女が得意とするのは炎魔法。灼熱の業火。

 吸い込む空気で喉がヒリつく。

 闘いの場が地下の空間であり、既に酸素が枯渇していてもおかしくはないのだが……恐らくマーズが魔法の2重行使で二酸化炭素濃度を下げ酸素を供給しているのだろう、呼吸について心配する必要性はないようだ。

 ……にしても猛火の矢槍、業火の糾弾、その威力と精度のなんと恐ろしいことか。

 触れただけで肌は焼け焦げ、直撃すれば灰も残らないだろう。

 かと言って、ダーリーの警戒を下げる訳にもいかない。

 一見ちゃらんぽらんとしているが、ヴィレンの攻撃全てに対応し得る技量を備えている。

 しかし。そんなことを言っていては絶対に勝てない。

 攻め切れず、次第に増える傷。時間と共に消耗する体力。

 危険を侵してでも……いや、勝つために危険を犯す必要がある。


「くそ、らちが開かねぇっ!!」


 しかし。ダーリーの横を上手く抜けようとするも、やはり彼が見逃してくれるはずもなく、


「あーあ。焦ったな」


 とまぁこんな感じで。


上位火炎魔法(リル・フレイムマジック)降り注ぐ炎雨(レイニー・レッド)〟」


 ヴィレンの頭上に出現する無数の魔法陣。戦慄する間もなく炎の熱線(あめ)は絶え間なく降りしきる。

 直撃した炎雨が床を焦がす鈍音。

 閉鎖空間に置いてヴィレンにもはや逃げ道はない。ならば――とヴィレンは突貫した。

 床を踏みしめ、雨の中を強引に突き進む。

 

「ズッ――!!」


 だが。炎の雨全てを避けきれるはずもなく、左肩、右脇腹、と容赦なく雨がヴィレンの体躯を焼き穿つ。


「レン――ッ!!」


 見るに耐えぬその様に、堪えきれずリヴィアの整顔が悲痛に歪む。

 ヴィレンは止まらない。


「――ッ――らぁッ!!」


 雨の射程を抜けたヴィレンが猛声と共に剣を振る。その必死の形相に、ダーリーの表情は引きつり、初めて彼が力で押し負けた。


「はっは、マジかよ。最ッ高にめんどくせぇ……」


「厄介だわ。流石は破壊神様が見惚れた男ね」


「そりゃ……そうだろ……」


 全身を真っ赤に染めながら、ヴィレンは不敵に笑って見せる。


「好きな女の前で、カッコワリィとこは見せらんねぇだろ……?」


 大丈夫。俺は負けない。だから、そんな顔をするな、と。

 今にも泣き出しそうな少女を見つめ、ヴィレンは言った。


「俺はアリシアと結婚する。でもそれ以上に、俺はお前のことが大切なんだ。俺は、お前のことが……」


 少年が何年も言葉にできなかった想いは、思ったより簡単に、少年の口から滑り落ちた。




「――好きだ、リヴィア」

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