第134話 援軍
黒の王国平原地帯――。
血と肉と屍に埋まる戦場は、既に地獄と化していた。
戦況は誰が見ても一目瞭然。黒の王国側が押されている。
純粋に力負け。数の圧力が質の暴力により抑え込まれ、バルガーを弄ぶゼストに帝国側の指揮が上がる。
この情勢に危機感を覚え、両手両足を器用に使い戦場を荒らす【百速】シャム・トイガーは頭を捻った。
「さてさて。どうしたものかにゃ〜」
その直後である。帝国兵がシャムの横を弾丸の如く吹き飛んでいった。
「――どうしたもこうしたもねェだろォ猫野郎ォ」
「おうおうおうおう!? 軍服がなけりゃどっちが味方か敵かわかんねぇなこりゃぁ……」
「にゃにゃ!? そにゃたらは……!!」
振り向いたシャムの視界の先にいたのは、顔に傷のある白髪と黒髪の2人組だった。
大将戦でも然り。バルガーとゼスト、両者の間に割り込む巨漢の男。
「がははははっ!! 押されているようだな我が好敵手! 我がライバルよ!!」
「お主が何故ここに……!?」
「グハハハハッ これはまた強そうなのが来たものよ」
その後ろ姿に【赤服】ウラドと【高貴】カインズが笑みを浮かべる。
「なんと心強い……」
風に外套と金色の髪を靡かせ、その男は長剣を地面に声を貼る。
「助力しよう。黒の王国の魔族よ!! 今こそ先日が借りを返す時である」
男の影に隠れるように、無精髭を生やす中年の男が戦場を青い顔で見渡していた。
「あーやだやだ。みんな強いでしょこれ? あーお家帰りたいぼくぅ……」
白の王国3大クラン。
《盗賊》《暴牛》そして《断罪者》。
黒の王国側に参戦。
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同刻。赤砂の大地 砂岩地帯。
「おうおう早速やってんなぁ」
砂の舞う戦場を見据え、高みの見物をする男が一人。無精髭をさすり口元を吊り上げる。
その男の姿を捉えたユリウスが、猛る。
「待っていたぞ、ザイン――ッ!!」
特徴的な赤髪をかき上げ、ザインはユリウスに視線を送った。紫紺と猛火の瞳が絡み、ザインはニヤリと笑って。
「アん? 誰だぁテメェ……?」
「――ッ! 貴様ッ!!」
怒りのままにユリウスは大剣を振るった。暴風にも似た斬撃が空を駆ける。
その攻撃をザインは腰の太刀を抜き一刀。ユリウスの斬撃が左右に四散する。
「……《覇剣ヲリキス》か」
ザインの瞳が細められ、そして破顔する。
「ああ、思い出したよ、……兄貴」
「貴様に兄と呼ばれる筋合いはない」
「ははッ。連れねぇなぁ?」
ユリウスの殺気を笑って見過ごし、ザインの瞳が今度はユリウスと対面するフウガに向けられた。
見ればフウガの騎士鎧は所々が傷つき破れている。
「苦戦してるようだがフウガ。手伝って欲しいか?」
口角を吊り上げ、挑発するようにザインは問を投げた。
「いいや俺一人で十分だ。親父の手を借りる必要はない。先に行ってくれ」
対しフウガもまた口角を上げ解とする。
中断に銃を構え直し、ユリウスを威嚇する。
「つーわけだ。あばよ。ユリウス・ドラグレク」
今すぐにでもザインに襲いかかりたい衝動を堪え、ユリウスは目を細めた。
フウガの威嚇を無下にすることはできない。
「後悔することになるぞ?」
息子と顔を合わせるのはこれで最後になる。ユリウスはそう言っているのだ。
それに対しザインは、ただ笑ってみせた。
「んなヤワな育て方はしてねぇよ」
そしてザインは戦場に背を向ける。帝国を目指し歩を進める。