第133話 ここは任せて先に行く
帝国兵の壁をなんとか突破した俺達4人は、平原を駆け抜け、霧の洞窟へと続く湿地地帯に足を踏み入れた。
視界は白闇に支配され、5メートル先が霞んで見える。
自分達が今どこを進んでいるのか。道はこれで合っているのか。
先の見えぬ濃霧に不安を覚える俺達とは裏腹に、先頭を行くカルラの足取りははっきりしていた。
カルラにとっては2度目の濃霧。道案内としてこれほど頼れる存在はないだろう。
少しして、霧の洞窟の入り口を発見し、洞窟手前で足を止める。
息を整え、4人で頷き合い、そして洞窟の裏道――即ち帝国領へと侵入した。
侵入してすぐに、頬が引き攣った。
「うっはーこりゃまた……」
先頭のカルラもまた苦笑いを浮かべる。
俺達の眼前に広がっていたのは、黒の群れ。
「なんて数だ……」
端から端までズラッと並ぶ、予想以上の数の帝国兵に、思わず口元が歪む。
さてどうやってこの場を乗り切るか、俺が思考を巡らすよりも先に、氷華が帝国兵を襲った。
肌を刺す冷気。次いで上がる多々の悲鳴。
湿地という環境下に置いて、氷魔法はこれ以上ない程の威力を発揮する。
「先に行ってください兄さん!!」
「うん。ここはわたし達に任せて、ヴィレンくんはリヴィアちゃんの元へ!」
「フィーナ、アリシア……」
自信満々に言い放つ二人に、俺は少しだけ考える。
気がかりなのは後方岩盤の上に立つ少年の帝国兵。七帝将には及ばないにせよ、魔王軍幹部達と遜色ない雰囲気を纏っている。奴にさえ気をつければ、この場はどうにかなるはずだ。
それに、
「へへっ。また後でな」
コイツもいる。心配する必要はない。
「ああ。任せる!」
フィーナ、アリシア、カルラと共に道を開きながら、俺は帝国へと足を踏み入れた。
リヴィアがどこにいるのか分からないが、それなりに偉い奴を捕まえ聞き出せばいいことだろと。
安易な考えで殺伐とした通路を進んですぐ、壁にもたれかかって仮眠を取る男を見つけ、俺は足を止めた。
「寝てるとこ悪いけど、道を訪ねたいんだおっさん」
すると男は気だるそうに欠伸をしながら、
「そろそろ来る頃だと思ったぜ。永久の勇者様よ」
口角を上げ、腰の得物に手をかけた。