第132話 戦乱
瞬きの一瞬だった。エルザベートの振り下ろした剣が、帝国兵を薙ぎ払い、戦場を切り開く1本の道を作り上げた。
唖然とする戦場。悲鳴を上げる戦士達。
「………!!」
エルザベートの考えは俺にはわからない。
いや、エルザベート以外の誰にも理解できないだろう。
「あ……」
咄嗟に足を止めかけたアリシアの手を掴み、俺は道を駆け出した。カルラとフィーナも遅れず続く。
戦場を抜ける最短ルート。この道が塞がるのも時間の問題である。
見す見すこの基を逃す訳にはいかなかった。
リヴィアの元に辿り着く。
それだけを目標に、俺は道を突き進んだ。
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霧の洞窟北方。赤の王国岩砂地帯 通称"赤砂の大地"にて――。
「焼き尽くせ!『不死鳥』!!」
「吠えろヲリキス!《出力60%》!!」
フウガの構えた銃口から炎を纏う不死鳥がユリウスを狙う。
一方ユリウスは不死鳥に対し真っ向から対峙し、背丈程もある朱色の刀身の大剣を中断に引き、横薙ぎに空を断つ。
振り抜かれた大剣から放たれた衝撃波が、迫る不死鳥と衝突し、激しくせめぎ合い、相打ちに散る。
直後。幾度目かの強烈な爆風が吹き荒れ、赤砂が戦場を呑み込んだ。
「焦るな騎士よ!! 視界が悪いのは奴らも同じだ!! 落ち着け! 冷静に周りを見ろ!!」
そんな2人とは離れた後方。フウガに騎士団の指揮を任されたライガが、視界を埋め尽くす赤砂に混乱する騎士達に号令を叫んだ。
「勝てよ、フウ兄……」
自らの役割を果たすべく、大盾を構え直す。
「貴様の力はこの程度か? 紅炎騎士団の団長がこれでは、騎士団全体の力量も知れたものだなフウガ。貴様如きでは相手にならん。ザインを出せ」
「ふははははっ! 面白い冗談を言うな? 元・団長さんよぉ!!
親父はリントブルムさ。二日酔いで寝てるぜ。アンタの相手は俺で十分だ!」
そうしてまた、炎と斬撃が激しく衝突する――。
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黒の王国平原地帯――。
黒の王国魔族軍と帝国牙部隊が争い合う中心にて、二匹の"鬼"が対峙していた。
「グハハハハッ! この程度かバルガー? この程度でしかないのか!?」
ゼストが拳を叩きつける。余波で地面が抉れ、衝撃が付近の敵味方諸共全てを吹き飛ばす。
「抜かせゼストッ!! お主だけはワシが命にかけても首を取る!!」
そんな中足を踏みしめ牙をむき出し、バルガーだけがゼストに飛びかかった。
その豪腕が握り締めるは、鬼牙専用にあしらわれた黒曜石の戦斧《鬼殺し》。
「キェェェェェッ!! 死ねぇぇえい!!!」
「グハハハハッ! そうだ! いいぞバルガーその調子だ! その調子で我を愉しませよッ!!」
戦場に2匹の雄の雄叫びが響き渡った。