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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第131話 絶対命令

 帝国本陣。霧の洞窟抜け穴、湿地草原地帯岩盤上。

 ゴツゴツとした岩肌に腰を降ろし、ダーリーは浮かない顔で空を見上げていた。



「――ロード」


 帝国会議後、去り際に呼び止められ、ダーリーは驚きを隠さず後ろを振り返った。


「珍しいな。ジョーカーが喋るとは……」


 ダーリーの視線の先にいるのは道化の仮面を被った人物。背丈はダーリーと変わらないが、その機械的な声音とトーンは、彼の性別を特定できない。

 帝国の眼であり耳である、隠密部隊道化(ピエロ)を指揮する七帝将『忠義』の二つ名を冠するジョーカーである。


「シャドウヲ殺メタノハ、不死ノ勇者カルラ・カーター。封縛ノ勇者ウィー・リルヘルス。ソシテ元【三本ノ弓】筆頭リーサ・アルテッサ」


 ジョーカーの語る言葉に、ダーリーは表情を崩すことなくただ一言。


「見てたのか?」


 ジョーカーは頷いた。


「ピエロノ一人ガ見テイタ」


「そうか。それで、何故それを俺だけに伝える?」


 ダーリーはぼりぼりとうなじを掻きながらそう言った。

 その仕草には、己の中に浮かび上がる憤怒を押さえつける意味があった。

 何故見ていて助けに行かなかった?と叫び出したい気持ちを堪える。燃え上がる感情を沈める。

 ジョーカーに当たるのは筋違いだとわかっているからだ。

 それに今更怒鳴ったところで、シュナが生き返る訳でもない。労力の無駄である。

 無駄は無駄でしかなく、無駄以外の何物でもないのだから。


 そんなことより、帝国会議で開示されなかった情報を何故ダーリー1人に伝えるのか。その意図をその旨をジョーカーから聞き出そうとしたのだが……


「オ前ガ責任ヲ感ジル必要ハナイ。考エ過ギハ真面目ナオ前ノ悪イ癖ダ」


 それだけ残し、ジョーカーは通路の奥――闇へと溶けた。


「………」


 ジョーカーの発言の意図は分からない。ただ、奴は自分の情報も握っているということをダーリーは改めて認識した。

 少々考え、それから軽いため息を1つ。


「考えるだけ無駄だな」


 疑念を抱いたところで、ジョーカーがどこまでダーリーの情報を熟知しているかなど到底わかりはしない。



 意識を戻し、ダーリーは再び嘆息した。


「敵討ちなんて俺の柄じゃねぇし……あんな幸せそうな死に顔してりゃ、毒気も抜けるってもんさ」


 今は亡き、紫紺の瞳の忍を思い出し、ダーリーは微かに笑った。


「ったく。あん時後悔したかって後悔してろ、ねぇ。嫌な遺言残しやがって……」


 見上げた空には霧がかかり、今日も今日とて曇天だ。

 合わせ鏡のように。やる気のないダーリーと同じように。


「ロード。どこに行くんですか?」


 立ち上がり、1人部隊に背を向けるダーリーに、ライムが声をかけた。


「……便所だよ」


 そう言って、ダーリーは振り返る。


「俺が戻ってくる間、ライム。ロードの指揮はお前に任せる」


 端的に命令を下し、それからライムの後ろに整列する部隊に向け声をかける。


「いいか、お前らー。俺からの絶対命令だ。絶対に死ぬな。ここは最終防衛ラインじゃねぇ。気負う必要はねぇし死守する理由もねぇ。数人くらい見逃したって構わねぇ。

 だから、死にそうになったら逃げていい。以上」


 部隊としては異質な絶対命令に、シュナ死亡により合流した(シャドウ)の部隊は顔を見合わせた。

 反対に(ロード)の部隊に動揺する者は一人もいなかった。

 むしろダーリーがそう言うことを見越し、彼らは自信と誇りを以て応える。

 七帝将の中で、笑顔と活気に溢れる部隊はここだけだろう。

 彼らの反応を横目に、ダーリーは満足気に再び部隊に背を向ける。

 すぐさま彼の背中は霧に飲まれ見えなくなった。

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