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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第128話 動き出す赤と黒

 カルラ達が持ち帰った情報は、すぐに5大国全土に広められた。

 赤の王国が騎士を従え進軍し、黒の王国もまた魔族の軍隊が動き出した。

 かつての大戦を彷彿とされる、全面戦争へ向けて。



「シャドウめ……この大事な時期にしくじりおってっ!!」


 額に血管を浮き立たせたケトゥースが、色の薄い顔を真っ赤に染めて憤怒を現に唾を飛ばす。

 シャドウの死が伝わり数日後の幹部会議である。


「ロード。見張りは貴公の役目ではなかったか?」


 おもむろに口を開くユリウス。その話題にケトゥースが喰い付く。


「ソードの言うとおりじゃッ!! なぜお主が見張りをしていなかったのじゃロード!?」


 円卓を拳で叩き付けるケトゥース。無言を貫き一人顔を俯かせるダーリーに、周囲の眼差しが集まる。

 顔を上げることなくダーリーは一言「……すまない」。言い訳も訂正もなかった。


「すまぬで済まされるわけなかろうッ!?」


 眼を剥くケトゥースをなだめるように、今度はアイシャが口を開いた。


「まぁまぁ落ち着きなさいよ元老帥。頭に血が登ってぽっくり逝っちゃうわよ?」


 まぁそうなったらそうなったらでゾンビ化の実験体(モルモット)にできるのだけれど、と艶かしく舌なめずりするアイシャに悪寒を感じるケトゥース。結果的に冷静さを取り戻した。


「ククッ。シャドウが遅れを取るとは中々骨のある者もいるようだな」


 こっちはこっちで戦闘狂(ゼスト)が雄々しく舌なめずりする。

 気の狂った連中を横目に、一度咳払いしたケトゥースが仮面を被った男に声をかけた。


「ところでジョーカー。戦況はどうなっているのじゃ?」


「赤ノ王国ヨリ紅焔騎士団団長フウガ・ドラグレク率イル10万ノ騎士団ガ山脈ヲ渡リ進行中。

 南カラハ魔族ノ軍隊ガ進軍中。ソノ数約20万。軍ヲ率イルハ魔王軍幹部【百足】シャム・トイガー。【壊獣】バルガー・ベッドヲ筆頭ニ、《永久》《鮮血》《不死》ノ勇者3名モ加ワッテイルトノコト」


 男か女かも分からぬトーンとカタコトの言葉は、意図してやっているのだろう。個ではなく数で動く道化(ピエロ)の方針と言ったところか。

 ジョーカーの報告を受け、ゼストが高らかに笑い声を上げる。


「グハハハハハッ! 来たかバルガー! 魔族はこの俺〝(ファング)〟が受け持とう!」


 高機嫌の鬼牙の意見に逆らう者はいない。

 いいだろう、とケトゥースが次にダーリーを見据えて言った。


「紅焔騎士団はロード、お主が片付けよ。失態を取り返すのじゃ」


 しかし。


「――待て。紅焔騎士団は私がもらおう」


 ケトゥースの判断に異論を唱えたのは、口数の少ない騎士である。


「――ッ。ワシの聞いていなかったのかソード!? ロードに任せると言ったのじゃ!!」


「聞いていたとも。しかし紅焔騎士団は私の獲物だ」


 断固として譲らぬ姿勢を保つユリウスに、ケトゥースが歯を鳴らす。

 立場上元老帥(ケトゥース)のポジションは帝王の次。プライドの高いケトゥースにとって、自分の発言を否定する行為に目を瞑るわけにはいかなかった。



「――いいではないですかケトゥース。せっかくユリウスがやる気を出しているのですから、任せてみては」


 響き渡る第三者の優声。〝勇者(ブレイバー)〟ユーキである。

 ケトゥースのつり上がった眉がハの字に変化し、顔から血の気が収まっていく。

 ユーキはケトゥースが認める数少ない人物の一人である。


「し、しかしブレイバー……」


 チラチラとユリウスの方を垣間見るケトゥースを横目に、ユーキは優しく――それでいて異論を許さぬ声音で――問うた。


「失敗は許されないよソード?」


 ニコニコと笑うユーキに対し、ユリウスは曇りのない瞳で視線を交わす。


「わかっている」


 その答えに満足し、ユーキはパンと手を鳴らす。


「それじゃ、決まりだね。北はソード。南はファング。守にロード」


 口早に会議を集結へと誘うユーキを不審に、ケトゥースが質問を投げた。


「ではブレイバーは?」


 ケトゥースの質問はその場にいる誰もが感じたことだったが、

「僕はちょっとやることがあるからね」とだけ言い、微笑んだのだった。

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