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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第114話 後悔するのは――

 光が消え、リヴィアが連れ去られ、とめどない焦りだけが心臓を鷲掴みにしてくる。

 崩れ落ちそうになる身体を、下ではなく前へ動かす。

 何もせず絶望したくはなかったからだ。

 まだ間に合うと、そう思いたかったからだ。


「待てって、どこ行くんだレンレン!!」


 走り出しかけた俺の腕を、カルラが掴む。


「離せカルラ……俺はリヴィアを助けにいく」


「助けにっつったってお前、連中がどこに消えたかもわかんねぇだろ!?」


 ああ。わからない。でも、だからってジッとしているわけにもいかねぇだろ。


「頭冷やせってんだバカ!! ヤツらはこの450年誰にも見つかることなく影に潜んでんだ。闇雲に探しても見つかるはずがねぇだろ」


 正論だ。だからそこんとこは気合でなんとかしてみせる。


「気合なんて言葉はお前が最も嫌ってそうな言葉じゃねぇか」


「じゃあ他にどうしろってんだ? 俺は……俺はっ!!」


 カルラの胸ぐらを掴んだところで気づく。いや、もうとっくに気づいていた。これがただの八つ当たりだってことぐらい。


「わりぃ……」


 腕から力が抜けると同時に、身体から力が抜けそうになる。

 倒れそうになるのを必死に堪える俺の背に、ぽんと手が添えられた。

 振り向いた俺に向かって、シャムが微笑んだ。

 

「心配しなくとも大丈夫にゃ。ゼストは5大国に宣戦布告をすると言い切った。にゃらば他の4大国にもゼストと同じく〝七帝将〟とにゃらが向かったと考えるのが自然にゃん」


「ええ。他国が何か情報を掴んでいる可能性もあります。大戦というからには、近いうち必ず奴らはヴェルリムを攻めにやってくるでしょうね」


 シャムとカインズの言うことにも一理ある。しかしそれでは遅いのだ。今すぐにでもリヴィアを助けにいきたかった。

 だが、今の俺にはリヴィアの安全を願う他手立てがなかった。

 己の至らなさを、呪わずにはいられなかった。





「フッ――!!」


 短い吐息と同時に剣を振るう。

 上段から切り下げながら一歩踏み出し中段を薙ぐ。その全ての動作に魔力法を用い、より速くより強力な剣を磨く。


「―――ぅッ……」


 身体の動きに合わせるように……いや、それでは遅い。身体の動きと同時。もっと言えば身体が動くよりも速く魔力(リア)を循環させる。

 動きを止めるな。全身に魔力を巡らせろ。

 魔力を酷使しているせいか、徐々に身体が熱を持ち始める。呼吸が荒くなり、肺が酸素を求めて止まない。


「……ら、よ――ッ!!」


 身体が限界に達し、ぶっ倒れそうになりながらも、最後に中段を切り裂き締めとした。


「ぐ、……ぁ」


 肺が限界だと声を上げる。身体から力が抜け、そのまま俺は仰向けに倒れた。

 芝生が俺を受け止めてくれる。


「はぁ……はぁ、はぁ……」


 肺と一緒に脇腹までもがキリキリと俺に怒っていた。


「……はぁ…………はぁ」


 数分もするとだいぶ息が落ち着いた。


 一度大きく深呼吸し、改めて夜空を視界に入れる。辺りはもう暗く夜も更けてきた頃合いだ。

 最近は月ばかり見上げている気がする。

 静かな夜だ。

 剣を振ることは嫌いじゃない。剣を振れば、余計な考えが吹き飛び何も考えることなく剣に没頭できるからだ。

 そうしていれば、少なくともその間だけはアイツのことを忘れられる……。


「―――そんなに私を忘れたいのなら、二度と忘れられないよう身体に私を覚えさせてやろうか?」



 なんて。アイツなら言いそうだ。

 ふと思う。リヴィアと離れて夜を過ごすのは何年ぶりだろうか?

 アイツと出逢った日から年がら年中365日。それこそ四六時中寝食を共にしてきた。

 だから、およそ8年ぶりだ。アイツがいない夜を迎えるのは。


「もうそんなに経つのか……」


 急に今朝の記憶が蘇る。


『ふざけるな……だったら結婚などするなバカ者っ!!』


 リヴィアの見せたあの悲怒な表情が忘れられない。


 アイツだけは分かってくれると信じて、悪気もなくリヴィアに理想を押し付けた。

 部屋を出ていくリヴィアの背中を、追いかけなかった。

 そして――。

 俺がリヴィアをどう思っているか。いつかいつかと先延ばし、言葉にし伝えようとしなかった。


 リヴィアはいつも言っていたじゃないか。

 例えおまえの選択が間違っていようと、私はおまえの選択を肯定しよう。

 世界がおまえの選択を否定するならば、そんな世界を私は否定しよう。

 だから後悔だけはしないでくれ、と。

 まるで己に言い聞かせるように、リヴィアは言った。

 アイツにとって〝後悔〟の二文字がどれだけ重いものなのか俺には分からない。

 ただ、今の俺にわかることは、後悔という足枷に縛られ、歩みを止めている暇なんてないということだけだ。

 たかがリヴィアが連れ去られただけじゃねぇか。

 ならば後悔するのはまだ早い。無事助けられる可能性がある以上、後悔するのは最後の最後でいい。これ以上ないくらい最悪で胸糞な結末を迎えてからでも遅くはない。

 だから今の俺に立ち止まっている時間など欠片もないのだ。

 今俺にできることを。やらねばならないことを。


 改めて今までの戦いを振り返ってみると、終焉の剣の能力に何度も助けられている。

 しかし今、終焉の剣は俺の手の中にない。

 ならば俺のするべきことはただ1つ。

 剣を振ることだ。

 覚えたての魔力法を完全に使いこなせるまで、ひたすら剣を振ること。

 時期は必ずくる。それまでに少しでもリヴィアを助け出す可能性を上げるんだ。


 芝を踏みしめる音に、そこで俺は思考を止めた。



「―――まだ寝ないの?」


 月光に照らされ、煌めく金髪が揺れる。

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