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剣に封印されし女神と終を告げる勇者の物語  作者: 星時 雨黒
第2章 復活の帝国
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第113話 伸ばした手は

 土煙の中、派手に登場してみせたのは、ゼストと同じく最上位の魔族《鬼牙(オーガ)》である。

 魔族の中でも最強と謳われる種族《鬼牙》。その種の中で最も強く、そして魔王軍幹部の猛者達の中でも上位に数えられる実力者。

 盾だろうが鎧だろうが関係なく、等しくその拳で全てを殴り壊し破壊することから《壊獣》、と。

 怪物は互いを値踏みする。より強者との戦闘を好む鬼牙同士。

 壊獣はマジマジとゼストを眺めた後「ふむ」と首をひねる。


「里で見たことのない顔じゃな。何奴じゃお主?」


「名を尋ねる前に名乗るが礼儀だろう若き鬼牙よ」


「カッハッハッ! 若き鬼牙か。言うてくれるのぉ。儂は魔王軍幹部《壊獣》バルガー・ベッドじゃ」


 すると今度はゼストが「ほぅ」と片目を細めた。


「ベッド、か……。そうか。我は帝国の牙。『殺戮』のゼストなり」


 その名を耳にした直後、バルガーの頬がピクリと動く。


「……ゼストじゃと? ……まさかお主《暴虐》のゼスト・ベッドかっ!?」


「その名で呼ばれるのは今日で2度目。どうやら我が名はヴェルリム中で恐れられているようだ。実に愉快」


「驚いたのぉ。まだ生きていよったとは……」


 バルガーは目を大きく見開き、そして鋭くゼストを睨みつけた。


「どの面下げて戻ってきよったこの一族の恥晒しめがッ」


 バルガー・ベッドとゼスト・ベッド。同じ種と同じ性。

 元より個体数の少ない鬼牙だ。血の繋がりがあるのだろう。

 殺気を放つバルガーに対し、ゼストはくだらぬとばかりに笑い捨てる。


「性など記号に過ぎず、血の繋がりなど戦に要らず。

 鬼牙は個だ。群れてどうする? 力を求め強者と闘うことこそ鬼牙が本懐。鬼牙が本質!!」


「黙れぃッ!! ベッドの名にかけて、儂がこの場でお主の首を落としてくれるわ!!」


「貴様如きがこの我を? グハハハハッ! やってみるがいいバルガー。貴様の力、この身で受けて立とう!!」


 バルガーが拳を振り上げた。だがゼストは動かない。宣言通りその身でバルガーの一撃を受けようとしている。


「その余裕がお主の命取りじゃと知れぃッ!!」


 鬼牙に『技』はない。その拳の一振りが。その蹴りの一払いが。全て必殺の一撃なのだ。

 必殺の拳がゼストの腹部を捉える。ズンッという重たい振動音。

 大抵の魔族ならば身体が散り散りに吹き飛ぶ威力。例え鉄より強固な肉体を誇る鬼牙であれ、バルガーの拳を受けて立っていた者はいない―――だが。


「グハハハハ この程度か。この程度でしかないのか」


 ゼストは無傷でその場に立っていた。

 低く重たい失笑。

 その場の誰もが息を呑んた。

 しかし一番驚いていたのは当の本人であるバルガーだ。


「ばかな……」


 1歩退くバルガー。今度はゼストが拳を握りしめた。


「目に絶望を焼き付け、身体に恐怖を刻め。これが本物の拳だ弱き最強の鬼牙よ」


 鬼牙のプライドなのか、バルガーは逃げない。誰もが目を見開く中、ゼストの拳がバルガーの腹部を捉えた。


「う、ぐぅッ……」


 ミシミシと肋骨が悲鳴を上げ、バルガーの身体がくの字に曲がる。

 衝撃に耐えきれず、巨体が吹き飛び建物に激突した。

 膝をつくバルガー。ゴフッと口から大量の血を吐き、その場に崩れ落ちた。


「「…………」」


 バルガー・ベッドが一撃で沈んだという事実に、その場の誰もが言葉を失った。

 寝返ったはずのエルザベートまでもが、ゼストとという男の脅威と鬼迫に気圧されていた。


「余興はこれまでだ。聞け、ヴェルリムに住まう魔の者よ!」


 静まり返る表通り一体に、ゼストの低声が響き渡る。


「今この時をもち、帝国の完全なる復活を宣言する。同時に帝国は5大国に対し宣戦布告をここに宣言する。

 戦争だ。喜べ魔族共。不殺などというふざけた掟に縛られず、互いの命を奪い合う大戦だ!! 聞いているかバロル。気兼ねなく殺し合おうぞ我が同胞よ!!」


 そう宣言すると、ゼストは腰のポーチから青く輝く蒼玉を取り出した。

 皆が警戒を露わにする中、カルラが叫ぶ。


「ありゃ魔導具だレンレン。ゼストが逃げるぞ!!」


 カルラの言葉で我に帰る。ゼストの異様な迫力に完全に呑まれていた。


「く――っ!!」


 今逃げられては困る。全身全霊で必死に走った。

 ゼストが蒼玉を割るのが見えた。ゼストとその手下達が青い光に呑まれていく。


「待ちやがれ! 逃げるなゼストッ!!」


「返して欲しくば帝国まで来ることだな小僧」


 青い光に手を伸ばす。しかし薄蒼を残し、光と共にゼスト達の姿は消失した。

 間に合わなかった。

 

「リヴィ、ア………!!」


 取り戻せなかった彼女の名を呼び、その場に俺は立ち尽くした。

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