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オリジナル

みんな 、どこかでつながっている

作者: うたの

少し不思議な物語です。

懐かしさで書きました。

友と些細なことで喧嘩をし、同窓会を飛び出してきてしまったのはつい、先程のこと。

やってしまったという罪悪感でいっぱいになるが、なかなか謝れない、そんな難儀な性格のジジイである私は、会場に戻るに戻れず、時間つぶしのために母校へと向かった。

学校は今、文化祭が開かれており、一般開放されているため誰でも入れる。

今の私にとって、頭を冷やすにはちょうどいい場所であるように思えたのだ。


(おや懐かしい。リグがある)

とある展示室を覗いた私はブルーシートに隠されている隙間から、ちょこんと覗いたリグ――通信機を見つけた。

昔――アマチュア無線が流行っていた頃に使ったことがある。

私が使っていた頃は、固定機と呼ばれる持ち運びの出来ない代わりに大型の出力の通信機が多かったが、時代は変わり、手軽に使えるハンディ機が重宝されていた。


そう、かつては。


現在は携帯電話やスマホが使われ、出力も弱く、免許が必要な通信機はすたれていったのだ。

今では好事家以外は目にすることもないだろう。

近くにいた学生に話を聞くと、今では使っていないどころか、免許を持っている部員さえいないそうだ。

(時代は変わったなぁ)

「良ければお持ちになりますか?」

唐突に声をかけられて振り向くと、先程の学生が、メガネを掛けたやせ型の男性――顧問の先生を連れてきていた。

廃棄予定なのでどうぞ、とそれをニッコリと笑顔で渡される。

用の無くなったそれを、私は受け取った。



リグを貰ってきた私は、懐かしさに通信してみることにする。

「CQ CQ CQ430 こちらコールサイン(認識番号)J247CH。入感局ございましたら、QSOよろしくお願いします。受信します。どうぞ」

アンテナすらつけていないそれがどこかにつながるはずもなかった。

自分の行いを自嘲的に笑った私に、突如返信が返る。


「J247CH、 こちらはJ247CH。どうぞ」

ユニーク(重複しない)番号なのに、重複する不思議。

状況を理解せぬまま、懐かしい昔のように返してしまう。

「すみません。周波数チェックやっていませんでした。連絡待たれたし。どうぞ」

「了解。どうぞ」

リグを取り上げ、空きチャンネルを探す。

しかし、そもそもアンテナを繋いでないのだから、周波数チェックが出来るわけも無い。

「すみません。チェック出来無いのですが、終了していいですか?」

「そのままで良いですよ。話しましょう」

訪問販売にサヨナラを告げるように言ったところ、にっこり笑顔で却下された。

押しの弱い性格が恨めしい。

仕方がないので、そのまま喋り続けることにしたのだった。



私のコールサインを名乗る彼女――声の調子から女性だと判断した――は、私のあとにそのコールサインを取ったと主張していた。


もちろん嘘である。

通信機にアンテナはセットされていないので、繋がりようがない。

だが、そう思う事によって、逆に楽になった。

つながりようもない相手とのつながりは、無いも同じ。

どうせ向こうの手のひらの中ならば、いっそ踊ってしまえと思ったのもあるだろう。


自分自身を振り返るように、つい色々なことを話してしまう。

仕事のこと、妻のこと、友のこと。

そして、一人になったこと。


家族に先立たれ、遠い親戚はあるものの、一人になったこと。

気づけばそんなことまで話してた。


ぽつりぽつり、と話した私に彼女は相づちを打つ。

肯定も否定もしないが、相づちを打つ。


感情を込める私と反対に、彼女はずっとそうだった。

話し終えた私は、なんだかなぁ、と苦笑する。

友を思い出したのだ。

何も言わずにただ聞いていた友を。

もっと話していれば良かったなぁ。

そう思った私が思うのは、友の顔ではなく、何も言わない背中だった。

同窓会で喧嘩した彼に明日謝りに行こう。

決意する私であった。


「それでは、ファイナル(通信終了)を送らせていだきます、『さようなら』」

彼女が終わりを切り出し、一瞬の沈黙の後、私も了承を返す。

「『さようなら』」


何処の誰やらしれぬ――そもそも人間だったのだろうか――誰かと話をした。

マイクを置く私は、彼女に久方ぶりに話した友のような親近感を抱いている。

ただ、もう話すことは無いだろうと言うこと。

そんな奇跡はないと思った。



そんなある日のこと。

通信機を片付けようとした私は、横に置かれた一枚の見慣れないカードを見つけた。

「QSL(交信記録)カード――交信したものが交わす事になっている――とは懐かしい。しかし、どこから……」

カードをつまみ上げる私の語尾は疑問。

だが、答えは分かり切っていた。

通信した記憶は一度しか無い。

だから、通信をした時にお互いに送り合うこのカードを送る相手は一人しかいなかった。

(知りたくもあり、知りたくもなし)

「どうした? そんな難しい顔して」

唸る私に、遊びに来ていた友の声が掛かる。

思わずカードで熱くなった頬をあおぐと、その写真を見た友は私を見て、くすくす笑った。


ひっくり返してみたカードには、ジャスミンの花が咲いていた


おしまい。


ふと隅を見ると、今度アイボールしましょう。と書いてあったかもしれません!?


無線は当時を思い出しながら書いていましたが、固定機は触った程度です

入ったのは後期で、すでにハンディ機が市場で使われてた頃でした。


本編であえて描かなかったジャスミンの意味ですが、こうなっています。

効能

「不安を和らげる」

語源

「神の贈り物」

花言葉

「素直」


おっさん達が仲直りする話とか需要はありませんが、書いてみました。

どうでもいい設定ですが、ふたりとも酒が飲めないのでソフトドリンクで乾杯してたりします。


試行錯誤しながら書いていきたいと思っています。

では、また

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