お菓子をくれないと……
ホラーとしてはちょっと怖さが弱いかもしれない……しかも一日遅れ
「はっぴーはろうぃ〜ん!」
ケラケラと笑い声を上げて子供達が駆けていく。その様子をもう幾度見たことか。
夕暮れの公園。高校からの帰り道。仮装した子供達が歩いていること以外は、ごくごく普通の日常風景だ。
高い声で紡がれるハロウィン特有の文句を聞きながら、私は一人隠れるように遊具の裏へ潜り混んでいた。
「あと何回私はこの時間をループし続けなければいけないの……?」
私はこの二〇一八年十月三十一日をかれこれ何百回も繰り返している。私が記憶を保持したまま一日を終えても、起きてしまえば全て忘れられ、元通りにこの日をまた過ごす。
涙や知恵ももう尽きた。
一度目は戸惑いに打ちひしがられるばかりだった。二度目は積極的に抜け出そうと努力してみた。百を超えたぐらいではもう大声で泣き叫ぶことしかできなくなった。
疲弊した喉でため息をつく。どうやら記憶の他にも疲れは蓄積されるようで、私は心身共に消耗しきっていた。
「ねェ、お姉ちゃん。とりっくおあとりーと!」
「とりっくおあとりーと!」
悪魔の角をつけた二人の子供が、しゃがみこんでいる私に向かって手を差し出した。可愛らしい男女の双子だ。
____あぁ、まただ。私はこの光景を知っている。
目の前でニコニコ笑っているその顔が苛つく。最初は微笑ましいとしか思わなかったはずなのに。同時にまるでこの世に存在しない物を見てしまったかのような恐怖を感じた。
子供二人は全く微動だにしない私を見て不思議そうに首を傾げた。そうだ、返事を返さねば。確か、一度目の私が言った言葉は。
「____お菓子はないから、イタズラしていいよ」
無意識に言った言葉に、絶望と安堵を覚える。やはり私は、それを望んでいるのだろう。
「え……?」
「……やっぱりそうなんだね」
瞬間、子供達の目が赤く染まった。だがすぐ元通りの黒色へと戻ってしまう。
否、ただの気の所為だろう。黄昏時の美しい暁の光が反射してそう見えただけだ。そう言い聞かせる他ない。
だってこの子供達二人が人ならざる者だと理解した所で何になるのだ。どうせ、また繰り返してしまうのだから。
「お姉ちゃん、まァッたく認めないんだよね。だからこんな羽目になるんだよ」
「いい加減自覚すればいいのに……」
____自分が人喰いの化物だって。
その言葉を、何度もループする度に双子__悪魔達から聞かされた。
本当は分かっている。自分が人に混ざれないことぐらい。一度目は妹を噛み殺し、二度目は大の親友を火炙りにして喰らい。十、百、千と、数え切れないほどの人間を殺してきた。
本当は、殺したくなどないのだ。だが本能が言うことを聞いてくれない。
血濡れの頬をおもむろに拭う。逃げ場を探すように右手が後ろへ退いていき、何か硬く冷たい物体に当たった。途端に身体中に幸福が走り抜け、私の意志を後押しする。
「今回は〜確か……」
「恋人を殺したんだっけ?」
私は覆い被さるように硬い物体……いや、愛しい人の亡骸を抱き寄せた。せっかく誰の目にも触れないよう喰らおうとしたのに、この双子がつくづく邪魔をする。
「また私達が『イタズラ』させて貰うね?」
「さっさと僕らにお菓子____お前の魂を寄越せばいいのに。ほんとに往生際が悪いよね」
あぁ、また時間が戻されていく。あの悪魔らの『イタズラ』によって。
でも私は知っている。彼、彼女は私の我儘を叶えてくれているだけなのだ。だが、それをどうしても受け入れられない私がいる。