17話
目が覚めると頭に型が付いていた。
昨日の記憶が蘇りつつ時計を確認してみる。
ギリギリでアウトだった。
「やってしまった!」
だが僕にはまだ急いで登校する理由がある。
それは1〜2分の遅刻程度なら信号機とかおばあさんの荷物運びとかいう大義名分があるからである。
無論遅刻扱いなのだが、それでもその場だけは切り抜けられるので、僕は朝ごはんも食べずに制服だけ着て玄関のドアを開けた。
「宿題は詰め込んだ⋯⋯。教科書は誰かに借してもらおう⋯⋯。あとは走るだけ⋯⋯!」
走る。ただひたすらに走る。
状況的にペース配分を考えるべきだが、そんなことは寝起きでは分からない。
演劇のように場面設定をするとしたら春香に追いかけられるような場面だろうか。
そんな雑念で少しでも加速しようと暗示をかける。
「あっ!ちょっとコラ!待ちなさい!」
気のせいか春香の声が聞こえた僕はひたすらに走る。
「だから待ちなさいって言ってるでしょ!それともアタシは無視なわけ?」
背後からの幻聴はリアリティを増し続ける。というか本物の春香の声に聞こえる。
あまりの恐怖に後ろを振り返ると春香がいた。獲物を狩らんとばかりに全速力でこちらに向かって走ってきている。
「やっとこっち見た!コラ!待ちなさいってば!」
少しだけ時間がゆっくりと流れている感覚に落ち、目が覚め頭が透き通るように冴えていくのが分かる。
自分や周りの事がさっきまでとは段違いにはっきりしている。
そして僕はいつの間にか走るのは登校のためではなく、生命活動のためと気付かされた。
「こんな所で死んでたまるかっ⋯⋯!」
石に躓き、赤信号の時は進路を変更したり、死に物狂いでどうにか登校した後、後から追いかけて来た春香があることを教えてくれた。
「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯。⋯⋯アンタは知らないでしょうけど、今日は8時登校じゃなくて8時20分登校よ?せっかく教えてあげようと思ったのにいきなり走り出すじゃない⋯⋯」
萎えるしかなかった