15話
顔を赤くしないように心がけて店から出て歩いていたが、そうしようと意識するだけで僕の顔は赤らんでいた。
もう全てが遅く、せめてできるだけ早く帰ろうとしていたところで春香と出会ってしまった。
現在会いたくない人物ダントツ一位のあの春香と。
「「…………」」
互いが互いを観察し落ち着きながらも緊張感溢れる光景が繰り広げられる。
少なくとも表面上は。
では内面上はどうなっているのかというと……。
春香はおそらく僕を見て、何だアンタか。程度の感想しかないだろう。
その後に理不尽説教タイムに展開することもあるが、そこまでは予想もつかないのでそこまでは飛ばすとする。
対して僕の思考回路はもはやパンク寸前だった。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばい……。どう春香から逃げよう。どう逃げればいい。ダッシュで逃げたところでその場しのぎにしかならないから……」
関わりたくない腐れ縁ほど繋がっているものなので仕方ないけど、僕は春香から逃げる方法を無限に考え(るぐらい頭を使った)ていた。
たとえ今春香が制服で学校の評価を気にすることに賭け、逃げ切ることが出来たとしても後日行われる2回戦目の鬼ごっこでまんまと捕まってしまう。
ここは何もないフリをして、というかそのまま通り過ぎるだけが得策だ。
1歩、2歩、3歩。
軽く会釈をしてすれ違い様、肩越しに見えたのは春香の手がポン、と掛かっていたことだ。
肩越しに見えるということは僕の肩にしか手が掛かる可能性しかないのである。
面と向かってハッキリ言おう。
地獄への1本道だ。
「なに私から逃げようとしてるの?」
もう1人の僕である天使が優しい笑みでこっちを見ているのが分かる。
そして諦めろ、とも。
「チッ……」
あいつは使えないのでこれで僕がどうにかするしかなくなった。
「ねぇ、春香。ひとつ聞いていい?」
「いいけど、何?」
「今僕が逃げたままだったらどうなってた?」
「別に。あんたが逃げてるのはこの世界からでしょ?草場と同じ道を辿りたかったのよね?」
「うん。なんでもない」
やはり僕一人の力ではなんとも出来ないことが証明された。
(機嫌を取ればいいだろ。そんなことも分からないのかよ)
耳元で悪魔がそう囁くが僕が召喚したつもりは無い。
(言っただろ?僕一人じゃ無理だって。三人寄ればナントカカントカだ。天使は使えんとして俺が力になろう)
案外悪魔は優しい時がある。
もっともあまり話すことの無い悪魔の優しかった時なんて今まで2,3回しか見たことないけど。
(当たり前だ。お前が殴られるとこっちだって痛いからな。それだけは勘弁してくれ)
(じゃあ天使は痛くないの?)
(あいつに常識が通用するか?)
悪魔は選択肢の中から最悪のものを持ってくるのだが、天使は会話すら繋がったことがないこと僕は忘れていたようだ。
(それとさっさとキリのいいところまで春香と話をつけとけ。もう殴られてもいいからさっさとその紙袋でも渡したらどうだ?マスターも言ってたことだしな)
(なんで殴られることも受け入れてるの!?)
(色々あるんだよ。例えばいつもならそろそろってタイミングなのに終わりが見えないとか。お前1人の思考だけじゃ変化がないとか。とりあえず俺らが出てきたけど余計に収集がつかないとか。)
(どういうこと?)
(色々あるんだよ。俺らを生み出したやつが駄目な奴だからお前だけでも天使を大切にしてやれ。あばよ)
そんな意味不明な言葉を残して悪魔は消えた。
「全く話が進んでないよな」
「仕方ないよ。僕なんて雑すぎる扱いだよ」
「まぁ、そう落ち込むなよな天使」
「そうだね。どうせ次の出番は僕達の親が続きに困った時だもんね」
ゼロ話に天使と悪魔追加しました。
話自体は全く進んでないので来週今度は進まるよう努力します。