11話
「では話を進める前にサービスの一品を先にお出ししましょう」
そう言ってマスターは後ろの方を向いて何かを確認している。
「そうですねぇ。 タルト系かショートケーキなら今余っているのでありがたいのですが……」
「良かったじゃん。 それならチーズタルトにしなよ。ここのチーズタルトは本当に美味しいから一度食べてみて!」
「はぁ……。じゃあそれでお願いします。」
僕は佐々木さんに言われるがままサービスの一品というのをチーズタルトに決めた。
マスターは注文を受けると恐らくチーズタルトを作りに別の所へ行った。
何もすることがなくなった僕は隣にいる佐々木さんを見てみた。
「ん?何かな?」
僕より少し年上に見える佐々木さんは僕の視線に気づくと、今まで口にしていたマグカップを静かにテーブルに置いた。
元気そうに見えて物静かそうにも見えるその女性は僕を一通り眺めると、
「君は多分いちごオレとかじゃない? メニューに乗ってないけどあのマスターなら作りかねないし……」
「???」
相変わらず自分さえわかれば他の人は置いていくスタイルなのか、僕は佐々木さんの会話についていけない。
「あぁ、ごめんごめん。あのマスターはね私達お客さんのその時の気持ちに合わせてドリンク? 飲み物? を出してくれるんだ〜」
そう説明されて佐々木さんのマグカップの中を見てみる。
「これ?これの中身はココアだよ。要するに私は甘い時間を過ごしてるの。 ちょっと前来た時はブラックコーヒーだったから特に甘く感じるんだ。今が幸せだって」
なるほどなと僕は思う。
要はチーズタルトを食べながらマスターと話した後、僕にどんなドリンクが来るかというのが問題なのか。
「はい、これがチーズタルトですね。出来上がりましたよ」
タイミング良く運ばれてきたそれは優しさで包まれているように見えて、僕には予想以上の出来上がりだった。
「どうぞ」
慣れない手つきでナイフとフォークを使い、1切れをようやく口に運ぶ。
美味しい。
とても美味しい。
「ね?おいしいでしょ?」
無料ということで焦げたものが来るかと覚悟をしていた僕だか、またもや失礼に値する思考だったことに反省した。
「う〜ん……。じゃあ私はこれでお暇しようかな」
そう言って佐々木さんはレジに向かう。
「ちなみに佐々木さんはどんな恋愛をしてたんですか?」
レジのベルを岩形さんが来るまで鳴らしている間に佐々木さんは僕にこう答えた。
「人の恋愛の話は聞かないというのがここのルールなの。マスター以外はね。だけどもしまた会うことがあったならその時に外で話してもいいかな」
カランコロンとベルの音が店に響く。
気になる置きゼリフを残して佐々木さんはこの店とここの店から出ていった。
「あれ?なんであの人お金払っていったんだろう……」
岩形さんがそう気づき店の外に走っていくのを見た僕は、個人的に岩形さんの基礎能力が凄いと感心していた。