幸せな駅
「六つ目の駅にたくさんの宝がある」そう言われて僕は、乗客のいない電車に駆け乗った。お宝が手に入れば一生幸せに暮らせる。仕事や自分のやりたくないことも,お宝さえあればやる必要なんかない。僕は移動中の電車の中で幸せなことを考えながらわくわくしていた。考えているうちに電車が止まり、一駅目についた。扉が開いても、僕はこの駅にはお宝がないと分かっているので、降りようとしなかった。長い時間待っていても電車は動かない。なぜだろうと思い、運転手のいるところに行った。運転席を見るとそこには誰も乗っていなかった。待っていても動かないので,電車から降りることにした。そこは僕がイメージしていた駅ではなく、公園だった。公園には子どもが一人でボールを蹴って遊んでいた。顔を見るとつまらなそうな顔をしていた。電車が動くまで僕は公園のベンチに座って待つことにした。座って好きなことを想像していると、子どもがチラチラこっちを見てきた。一緒に遊んでほしいのかなと思い、暇だったので「一緒に遊ぼう」と言った。子どもは笑顔で頷いた。一緒に遊んでいるとさっきまでつまらなそうにしていた顔が嘘のように楽しそうな顔になっていった。日が沈んでくると子どもが、「お兄ちゃん遊んでくれてありがとう」と笑顔で言って、帰っていった。少しだけ良い気分になった。僕は疲れたので電車の中で休むことにした。すると突然、電車が動き出した。僕は電車の揺れが心地よくて眠ってしまった。どれくらいの時間眠っていたか分からなかったが、寝ている間に二つ目の駅についていた。電車を降りるとそこは大きなデパートの中だった。周りには誰もいなく僕一人だけだった。お店を見ていると目の前に必死な顔をして近づてくる女の人がいた。「私の娘を見ませんでしたか」と慌ただしく聞いてきたので、「誰も見てません」と言った。女性はすごく残念そうな顔をして走り去っていった。僕はいろんな商品を見物しながら、お宝が手に入ったらどの商品を買おうか妄想を膨らませていた。一通り見たので電車に戻ろうとした時、同じ女性の人が汗だくになりながら走り回っていた。僕は暇だったので、女性に「一緒に捜しますよ」と言い、捜すことにした。女性から娘の特徴を聞くと、僕と女性は手分けして捜し始めた。このデパートは1階から3階まであり、一番広い1階を女性が、2階と3階を僕が捜した。そんなに広くはないからすぐに見つかるだろうと思ったが、隅々まで捜しても娘はいなかった。僕は娘の特徴から行きそうな場所を考えた。娘は高いところが好きだと言っていたので、もしかしたら、屋上にいるかもしれないと思い、いってみることにした。屋上に通じる扉があったので、開くとそこには女の子がが遠くの景色を眺めていた。僕はあの女性の娘だとすぐに気づくと女性を呼びに行った。屋上で女性が娘を見つけると泣きながら娘に抱きついた。
「娘を見つけてくれて本当にありがとうございました」と言われて、僕は嬉しい気持ちになった。電車に戻ると、すぐに扉が閉まり発車した。走り回って疲れた僕はまたすぐに眠ってしまった。目を覚ますと三つ目の駅についていた。降りるとそこにはまっすぐに伸びた道があった。どこに続いている道なんだろうかと歩いていると、男の人が倒れているのが見えた。様子を見ると痛そうな顔をしてお腹をおさえていた。男の人は僕を見て、「お腹がいたくて動けないんだ」と言った。僕は特にやることもなかったので薬を買いに行こうと思い、薬の場所を聞いた。男の人は、ずっとまっすぐ行った先に薬屋があると言った。僕は早く飲ませた方が良いと思い急いだ。ひたすら走り続けていても一向に薬屋が見えてこない。本当にあるのかと疑問に思いながらも僕は走り続けた。それでもまだ薬屋は見えてこない。そしてとうとう足が疲れてきて走るのをやめてしまった。僕はなぜあの人のためにこんなに辛い思いをしなきゃいけないんだろうと思った。別に薬を買わなくても僕が困るわけじゃないし、あの人とは仲が良いわけでもないから、無理して買いに行く必要はないなと思い、引き返そうと思った。電車に戻ろうと後ろを振り返った瞬間、頭の中に男の人の苦しんでいる顔が浮かんだ。もしこのまま彼を放っておいたら死んでしまうんじゃないかと思うと怖くなってきた。ならこんなところで休んでる場合ではない、一刻も早く薬を持っていかなければならないと焦りだした。この恐怖心と焦り、そしてあの人を死なせてはならないという気持ちが僕の足を動かした。僕は全速力で走った。足の疲れなど気にもせず、走り続けた。途中、足と足がぶつかって転んでしまい、膝を擦りむいてしまったけどそんな痛みも気にせずに走った。するとうっすらと遠くに建物が見えてきた。建物につくとそこは薬屋だった。僕は薬を買って、自分のケガの処置もした。店を出るとまた、猛スピードで走りだした。「生きていてくれ」その言葉を何度も頭の中で繰り返した。その気持ちが僕の足の重さを軽くしていった。そしてあっという間に男の人のところにたどり着いた。彼はまだ生きていたが意識がほとんどなく、顔色が真っ青だった。僕は急いで薬を飲ませると、みるみる顔色が良くなっていった。僕は安心したせいか、足がガクガク震えだして立てなくなってしまった。しばらくすると彼が目を覚ました。彼に事情を話すと、「あなたは命の恩人です、本当にありがとうございます」と言って、とても感謝していた。僕はまた嬉しい気持ちになった。電車に戻ると、疲れていた僕はまたすぐに眠ってしまった。目が覚めると四つ目の駅についていた。降りると目の前に長い長い階段があった。そこにはおばあさんが重そうな荷物を背負いながら、辛そうな顔をして登っていた。見上げると頂上が見えないくらいの高さだった。階段に登る理由がなかった僕は登ろうとはせず、電車のつり革にぶら下がって遊んだりしていた。チラッとおばあさんの様子を見ると、登るのに疲れれてしまったのか、止まっていた。まだ数十メートくらいしか進んでいなかった。僕は遊ぶことに飽きてしまい、おばあさんのところに行った。おばあさんは辛そうな顔をしていてぐったりしていた。こんなところでへばっていたら一生頂上にたどり着くことができないと思い、僕はおばあさんをおんぶして登ることにした。上を見ても終わりは見えなかったので、一歩一歩確実に上ることだけを考えた。だんだん疲れてきたので、休憩することにした。
「どうしてこんな高い階段に登っていたの?」とずっと疑問だったことを聞いてみた。「頂上には大切な人が待っているんだよ」とおばあさんは言った。疲れが取れるとまたおばあさんをおんぶして登った。それから何度も登って休んでを繰り返した。それでもまだ頂上にたどりつかない。僕の足は動かなくなり登るのをやめてしまった。もうダメだ、あきらめよう。そうつぶやいた。
「ここまでで大丈夫だよ。おんぶしてくれて、ありがとね、あとは自分で登るから」おばあさんは笑顔でそう言うと重い荷物を背負って登っていった。僕はおばあさんが大変そうに登っていく姿を見ていた。なぜだか大変そうなおばあさんの顔をみたくなかった。こんな気持ちは嫌で、階段を登った。
「おばあさん、荷物は僕が持つから一緒に行こう」そう言うと、おばあさんは笑って頷いた。ゆっくり登っていく僕の足はさっきより重くなかった。おばあさんの背中を支えながら登っていた僕はあまり疲れなくなり、なぜだかおばあさんから階段を登るエネルギーをもらってるようだった。
「頂上が見えてきたわ」おばあさんが言うと僕は見上げた。僕はもう少しだと思い、足を一歩一歩進めた。頂上にたどりついたとき、足が疲れていることに気づくと動けなくなった。頂上には大きな家が建っていた。家の前に大切な人が笑顔で待っていた。
「最後まで一緒に登ってくれてありがとね」僕は疲れてクタクタだったけど、おばあさんのその言葉が僕の疲れを癒してくれた。あばあさんはおじいさんのところへ行き、僕は疲れが取れてくると階段を降り始めた。登るよりずっと楽だったのであまり休まずに下まで降りていった。電車に戻るとまたすぐに出発した。電車の中で僕はさっきの嬉しい気持ちにまたなりたいと思った。すぐに五つ目の駅につき、扉が開くとそこは、広大な草原だった。そこに一本のとても大きな木が立っていた。木の下には白いワンピースを着た若い女性が青いベンチに座っていた。何をしているんだろうと近づいていくと、彼女は優しそうに微笑みながら本を読んでいた。彼女の隣に座り、「どんな本を読んでいるの?」と質問した。
「あなたの本を読んでいるのよ」と彼女は笑顔で言った。
「一緒に読んでいい?」
「ええ、いいですよ」と彼女は言った
読んでみると、僕が電車に乗ってからこれまで何をしてきたのかが書いてあった。
「あなたに助けてもらった人は、みんな幸せな顔をしているわ。たくさんの人を幸せにしているあなたの本を読んでいると、わたしも幸せな気持ちになるの」と彼女は言った。僕は人を助けることによって、助けた人とそれを見ている人も幸せにしているんだと知った。僕はまた人を助けたいと思った。僕は彼女にお別れを言って電車に乗り、発車した。六つ目の駅に到着すると、扉の外には、たくさんのお宝があった。僕はそれを見ているだけで降りようとしなかった。早く電車が動かないかなと思っていると、すぐに扉が閉まり、電車は幸せな駅へと出発した。