第二人生の日常
時は流れた。
言葉を覚え、この世界のことを少し学んだ。
魔法があって、それに伴ってか科学がない。
少なくともここが地球ではないんだなと、成長していく過程で実感していった。
もちろん掃除機はないし、冷蔵庫なんてものもあるわけがない。
掃除をするなら風、物を冷蔵するなら氷魔法。
魔法に頼った生活をしているのがこの世界での日常。
ほとんどは、その動力源が電気なのか、魔力なのかの違いでしかない。
まあもちろん魔法の方がムラがある感じはするけど。
ここからは自分の話をしよう。
俺のこの世界での名前はガリュー。現在5歳(多分)。
育ての親であるコーリューさん(父さん)につけてもらった名前らしい。
元々の生みの親はいないらしく、まだ物心つかない…転生した俺の場合どういう風に言えばいいのかはわからんが。まあそんなくらいの時に俺を拾ったらしい。
盗賊か何かに襲われた馬車に乗っていた俺(おそらく生みの親がその時にはいたと思われる)を救った、いわば命の恩人的存在であるということを知った。
もともとは冒険者生活で生計を立てていた父さんは、なんだかんだでかなり稼いでいて、これを機にと、冒険者業を一時的に引退。
俺を育てる育メンライフが始まった。
というのが、父さんから聞いた話だ。
今は比較的いろいろなことを手伝いながら、ごく普通に暮らしている。
自分で言うだけあって、お金にはまったく困っていないようで、なんとも父さんは暇そうだ。
お前がもうちょい育ったら、一狩り行こうかな。
と、ここ最近は毎日のように言っている。
どこのハンティングゲームだ。と、突っ込むのはやめておこう。
いくら俺が異世界人(?)だから、前世の記憶があるからといって、特にその話は父さんにも言っていないし、それを俺がどうしようとも思わない。
普通の親子同然に、父さんには接している。
むしろ前世でなかなか父さんに会えていなかった俺からしてみると、むしろ父親が常に隣にいるというこの生活は、心の奥底で望んでいたことなのかもしれない。
そう思いながら、朝食を作る。
家の庭で飼っている鶏(ちょっと何かが違う気もする)の朝取れ卵で卵焼きを作るのだ。
この世界では目玉焼き的なものはあったのだが、玉子焼きという卵を混ぜて巻きながら焼くという文化はなかったようで、父さんに驚かれた。
そもそも、この年齢で料理をやり始めるというところに、最初の方は父さんも困惑していたが、そのうち、
「まあ、そんなもんなのかな」
と、何かを諦めたような顔で言うようになり、そこからはそれに関しては特に何も言われなかった。
俺は料理をするということは嫌いではないので、朝食は基本的に父さんに変わって俺が作っている。
父さんも玉子焼きを気に入ったらしく、毎日毎日玉子焼きを作り続けている。
唯一俺が、玉子焼きに関して不満を言うのなら、出汁がないことくらいだ。和風出汁は日本だけのものだしな。
閑話休題。
そんな風に、ごく普通の生活を続けている俺だが、今後どうなっていくのか、俺がこうして転生した理由はなんなのかと、改めてここ最近考えるようになってきた。
もしかするとなんの意味もなくたまたま俺が転生しただけかもしれない。
だが、何か使命があって俺は転生したのでは?と、思うこともある。
未だにこの世界で何をして生きていけばいいのか?と、考えている。
まあ自分の中では、冒険者という職業の響きにそそられまくっているのだが。
だが、俺自身の趣味を考えれば、料理人という手もある。
せっかくこういう世界きたんだし、この世界でしかできないようなことやろうよってなると、選択肢多すぎて決められない。
まあ最悪ニートにでもなるしかない。
と、一瞬俺も思ってしまった。
だが、そういうわけにもいかなさそうだ。
どうも6歳になると、学校に行くようになるらしい。
そこでどの学校に行くかで、将来の道が大きく変わってくるらしい。
魔導師としての才能があれば、魔導師向けの学校に。
そうでなければ普通の学校や、剣士などの養成学校に。といった風に。
俺自身、まだ早いと父さんに言われ、まだ魔法を使ったことがない。
料理に使う火も、父さんが出している。
自分自身、適性があるのかどうかさえ怪しい。
魔法。せっかくこんな剣と魔法の世界に来たんだから、ここでしかできないことはやっておきたいよなぁ。
と、俺は思っている。
実際前世で、魔法という存在に憧れていたのは事実だったし。
というか、いざ剣と魔法の世界に転生してきて、魔法使おうと思ったら使えませんでした。なんて状況は相当やばい。シャレにならないと思う。
剣と魔法の世界での魔法使えない人って負け組確定、みたいな考えが俺の中で定着しつつあるからこその考えだが。
とにかく、将来がどうだの、自分に課せられた使命がどうだのといったことを考えるのは、もう少し後でも良さそうだ。
玉子焼きも焼き上がり、父さんを呼んで朝食を食べる。
異世界で俺は何をすべきなのか、とか、何がしたいんだ。とかそういった使命だとか思いがない。
ただこうやって料理作って食っては勉強して、寝て、を繰り返すようなものは、これまでの日常とほとんど変わらず、いまいち異世界にいるという実感がわかなかった。