日常が崩れる時
本編スタートです!
「うっひょー!終わった終わった!ついに俺達の敵も居なくなったわけだ!私を邪魔するものはもういないのだぁあ!あっはっはっはっはっは!」
「大袈裟だろ。どうせ赤くらって居残りになるっていうのに……」
「またまたぁ。君は全部90点以上だろ!?どーせ。俺達とは全っ然次元違うじゃん!まあ俺はそうなりそうだけど…。とほほほ……」
高校のテストが終わり、生徒がバカ騒ぎする。
どこでも普通に起こる事だろう。
俺は羽倉崎 悠真。どこにでもいる普通の高校生。
たった今、テストまでの勉強という束縛から開放された所だ。
「ゆーまー。お前今日親いる?居ないんならさぁ。家きてくれよ。またお前のカレーが食いたいわぁ。お願い。ウチ来て!」
さっきから俺の隣でわーわー騒いでいるのは、近所に住んでいて同じ小学校、中学校、高校生と、ずっと同じ学校で学んだ、言わば幼なじみ的存在、鈴谷 恵佑。
「ああ。今日は誰も居ないし…。いいぞ。カレー。作ってやる」
「おっ!そう来なくっちゃ!お前のカレーうまいからなぁ。癖になるっていうか。中毒性があるんだよな」
「変な言い方するな。まるでカレーに何か変な薬入れてるみたいじゃないか」
「まあまあ。ご立腹なさるな。それだけ美味しいってことよ。ほっほっほ」
まるでどこかの長く顎鬚を伸ばした村長のごとく、恵佑は有りもしない髭を伸ばすような仕草をする。
「まあお前の家で作った方が、材料費もかからないし、1人で食うよりも断然美味くなるから、俺としては願ったり叶ったりって感じだけどな」
「もぉー。ほんとだぞー。もっと感謝してくれてもいいんだぜー」
「調子に乗るんだったら行かないぞ」
「ちぇー。冗談の分からないやつだなぁ」
学校が終わり、帰りの支度をし、恵佑とともに家に帰る。
「食材用意して待ってるぞ」
「ああ。なるべく早く行くよ」
そう言って別れ道で恵佑と別れる。
家に着くと、すぐに着替え、包丁のセットをもって恵佑の家に向かう。
「あら。悠真君。こんにちは。今日もカレー作ってくれるのね!恵佑から聞いたわ。私も作る手間省けるし、悠真くんの料理美味しいから、私も助かるわぁ」
「いえいえ。僕も食材いつも使わさせてもらっていますし、何より家で1人で食べるよりずっと楽しい時間を過ごせるので、僕の方こそ助かりますよ」
「ほんと。うちの子と違って礼儀もちゃんとしてるし。悠真君にはかなわないわ」
「そんなことないですよ」
恵佑の家の眼の前で、女の人に出会う。
この人は恵佑のお母さん。いつも恵佑の家で料理をする時は、恵佑の家族の分も作るので、恵佑の家族と食事することも少なくない。
俺の両親は仕事でなかなか帰ってこない。恵佑の家族は、俺にとっての第二の家族的存在であることは間違いない。
「お邪魔します」
恵佑の家に入ると、恵佑が食材を出して待っていた。
「じゃあ作るか」
早速俺はカレー作りに取り掛かる。
自分で持ってきた十を超えるスパイスを加えながら、ルウを使わずにカレーを作る。
自炊することももうかなり慣れてきているので、包丁さばきはかなり自信がある。
自慢ではないが、小さい頃から父さんの教えで料理をしていたこともあって、かなり腕には自信がある。
最近はネットに投稿されているレシピもいろいろ活用しながら美味しい料理を作れるように頑張っている。
自慢の包丁さばきで野菜を切っていく。
肉や野菜の処理を終え、もうあとは煮込むのみ。
♢♢♢♢♢
「ぷふー。食った食った。美味かったぁ」
食事が終わり、恵佑がダラダラとしている。
「やっぱり、悠真も親父さんみたいに料理人になりたいのか?」
唐突に恵佑が聞いてきた。
「ん...。どうだろうな。まだそういうの分かんないな」
俺の父は料理人だ。
フランスで星付きの料理店で働いている、超腕利きの料理人だ。
俺が言うのもなんだが、日本一の料理人だ。
「でもよ。こんだけ料理上手なところはやっぱり、親父さんのお陰だろ?」
「いや。どうだろうな。もう何年も父さんとはあってないし、料理自体、自分で興味持った事だからさ。まあ興味持つきっかけ作ったのが倒産であることに変わりはないけどさ」
「そうなのか。まあこんだけ料理うまければ普通になれそうだしな。ルウ使わずにスパイスを自分で調達してカレー作る高校生なんてこのご時世なかなかいないぜ。そこは胸張っていいと思うぞ。カレー以外もうまいしな」
「そう褒めてもらうと嬉しい。作った甲斐があるよ」
「その上容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群。何も責めるところがないよ。俺が勝てることなんてあるのか?ってくらいに」
「俺だってそんな完璧な人間じゃないよ。上には上がいるさ」
「どうせ今回のテストも上位に余裕で食い込んでいく癖に。今回も学年、いや、全国トップ狙えるんじゃないか?」
「おだてても食後おデザートは作ってやんないぞ。それに、一位は俺にだって取れないんだから。まあなんだ。…また今度食べたくなったら言ってくれ。なんでも作ってやる。おばさんも、今日はありがとうございました。今日はもう帰ります。また今度」
「おう。明日学校で会おう!」
元気よく送り出された俺は、百メートルかそこらの道のりをいつも通りに歩いていく。
テストで疲れたし、今日はさっさと風呂入って寝るか。
そんなことを考えながら、俺は家の門を開けようと、門に手をかけた。
その時、後ろから俺は思い切り何かで殴られた。
ーーーーー一体何が…
なんとか振り返ろうとするが、瞬時に意識が飛んでしまった。
ーーーーーーーーーー
「ん…。んん…」
目がさめると縄で手足を縛られて、知らない場所にいた。
「お目覚めかい?ハグラザキクン。君がどーしてこんなところにいるか、君自身なぜか分かってないだろう?」
「だ、誰だ?」
薄暗い部屋の中のようだ。前から男の人が近づいてくる。徐々に男の顔が見えてくるが、その顔に覚えはない。
誰なのかわからない。
俺自身日頃から悪い行いをした覚えもなく、誰かの恨みを買うようなことなんてした覚えがない。
「誰だかわからなくて当然だよ。僕もね。君と会うのが今日初めてだからさ。知っているわけがないんだよ」
「そんなあんたがなぜこんなことを!?」
いきなり何かで殴られたことは覚えている。
そんなことしてくるやつの頭が正常なわけがない。イかれてる。
そう思うと思うほどに恐怖が俺を襲う。
怖い。何をされるのだろうか?誘拐?身代金目的?
確かに俺の家は父の仕事柄、いやそれだけでは無い。母もキャリアウーマンで、お金的な面では割と裕福であったから、身代金の要求が現実的か。
金銭的にうちが余裕があることは間違いないし、狙われておかしくない。
それでも何故。何故俺は、こんな…。
「何故って?そうだな。教えてやろう。全部君のお父さんせいなのさ」
男の目を見るが、焦点が合っていないかのように虚ろな目をしている。
「父さんが何したっていうんだ!?」
「君のお父さん。料理人だろう?いいよなぁ。世界に名の通った、世界で10本の指には入ると言われる天才的料理人、羽倉崎 和真。そんな偉大なお父さんの息子になれて」
「な、何が言いたい!?」
「ただな、ひとつ教えてやる。偉大になるってことはな。それだけ敵を増やすってことなんだよ。君も来世ではこの教訓をしっかりと胸に刻むといい」
来世?
来世ってつまり…。
「ま…まさかお前!」
「恨むなら自分の偉大すぎた父親を恨むんだな!じゃあ、さようなら」
その後の俺の記憶は、無い。最後に見たのは、この上無い笑顔で俺を見ていた男の顔だった。
ーーーーーああ。恵佑と明日学校で会おうとか言ってたのに…な。
俺の意識は完全に消滅した。
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