何かおかしい
「ただいま。なんだそのボロイのは。どこで拾ってきたの」
「なんてこと言うのよ。リサイクルショップで買ってきたんじゃない、この鏡台」
「ただのガラクタじゃないか。いったい何、顔何て見たことないじゃないか」
「何だかこれを見ていると落ち着くのよ」
その鏡に突然老婆の姿が現れた。母ちゃんの頭を撫でている。
ギエーだよ。
やっぱり古い家なんて住むものではないのだよ。ああ、怖い。
真夜中に母の美紀は突然目覚めた。鏡台の前に座って髪を梳く。
髪を梳いていると後ろに老婆が立つ。本人は気づいていないのだよ。
「可哀想にね。でも絶対守るから」
いくら子供でも母ちゃんがおかしいのはわかるよ。
だから翌日はケンタの誘いも断って観察したのだよ。
朝食からアジの干物だし。インスタントではないみそ汁も出てくるし。しかしハムエッグが懐かしい。
それにしても手が込んでいる。なのにご飯は食べないんだな。通常三膳は食べていたのに、一膳だし。
しかも茶碗も小さくなってるし。こうなると平常時の四分の一しか炭水化物を取っていないことになる。
痩せてしかるべきだな。しかし仕事は早いのだよ、洗濯も掃除もさっさと終わらせるし。
しかもテレビも見ない。人格が変わったと言うよりなにか別物。
父ちゃんに電話した。
「お盆には帰れるの、父ちゃん」
「また再入院してしまったのだよ。しかも今朝からICUに入ったし」
「もういいよ父ちゃん。頑張ってくれよ」
これもおかしい。帰ってこいと言うたびに同僚の病状が悪化するのだもの。しかもICUだろう。
死なれても嫌だから、もう電話はしないことにしよう。