第五話 幼女と能力
眩い光が消えると、そこは石畳の床だった。
周りには誰もいない。一人一人別の場所に転移させられたのだろうか。
まずは頭の中を整理させてみよう。わかっていることは以下の通りだ。
・自称神にダンジョンへと強制転移させられた
・このダンジョンを攻略しなければならないらしい
・それぞれ自称神に何かしらの力が与えられている
・ステータスを確認しなければならない
ということで、ステータスを見てみよう。
若干恥ずかしく思いながらも、「ステータス」と唱えると、目の前に半透明な板のようなものが出てきた。
記載されている内容は以下の通りだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:黒崎直人 Lv1
性別:男
固有スキル
・真理眼
・簒奪者
特殊スキル
・威圧Lv8
武術スキル
・体術Lv5
・格闘術Lv5
称号
・恐怖の眼光
・転移者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何だコレ?
丸っきりゲームだな...。
と思っていると
急に目の前に光が集まり、それは次第に人の形を作っていった。
光が消えると、そこには小学校低学年程の身長の幼女がいた。
幼女はこちらに背を向けている。
「ふっふっふ、どうやら私を呼んでしまったようですね。さぁ転移者様よ!この私がエクセレントなチュートリアルをぉぉぉぉぉ!!!」
なにやら不気味に嗤いながらこちらを振り返ったと思ったら、俺の顔を見た途端に絶叫を上げやがった。
「ぎゃぁぁぁぁぁオーガがいるぅぅぅっっっ!!」
よくわからんが馬鹿にされているのはわかった。
ーーーオーガって何だよ。範○勇次郎か?俺ってあんな凄まじいオーラ放ってるのか?
と馬鹿なことを考えていると、今度はその幼女が震えながら後退っていた。
「ごめんなさいごめんなさい。急に出てきてごめんなさい。謝るから食べないでぇ。私美味しくないからぁ...」と号泣しながら失礼なことを言っている。
ーーーいきなりめんどくせぇ
溜め息を吐きながら俺は幼女に近寄った。
「おい、俺は人間だ。そのオーガとやらが何か知らんが、まずは落ち着け。」
「え?人間?え??」
幼女は混乱している。
ーーーこいつぶっ叩いてやろうか...
そんな考えを読み取ったのか、幼女は悲鳴を上げて更に後退する。
先程よりも大きな溜め息を吐きつつも、俺は両手を上げて降参のポーズをとった。
「だから落ち着けって。俺は本当に人間だ。お前の言ってた転移者だよ。」
すると漸く事態を飲み込めてきたのか、幼女は立ち上がりながら、上目遣いでこちらを見てくる。
「ほ、ホントに?ホントに転移者様?」
「あぁ本当だ。ステータスを開いたら急にお前が出てきたんだよ。」
現状を把握した幼女は安堵の息を漏らすが、同時に先程まで号泣しながら怯えていたことを思い出したのだろう、今度は青褪めた顔でこちらを見上げてきた。
「ご、ごめんなさい。あの、えっと、さっきのはその...」
「いや、別に良いよ。慣れてるし。」
「いえでも...」
「まぁちょっとイラッときたけど。」
「ヒッ.....」
またもや泣き出しそうな顔をする幼女。
仕方なく俺は幼女に手を伸ばした。
幼女は乱暴されると思ったのか、小さく悲鳴を上げて目を瞑る。
ーーーこんな幼女を殴る訳ねぇだろうが
と思いつつ、俺は幼女の頭を軽く撫でた。
「今は本当に怒ってないから。だから安心しろって。」
予想外の出来事に唖然とする幼女だが、少しするとホッと一息ついた。
どうやら少しは安心できたようだ。
「ほ、ホントに怒ってないの?」と窺うように見てくる。
「当たり前だよ。んなことでそんな怒らねぇって。」
「そっか...良かったぁ...」と、幼女は初めて笑みを浮かべた。
「さて、誤解が解けたところで、お前が何者なのか聞いても良いか?ちなみに俺の名前は黒崎直人だ。」
「あ、はい。私はチュートリアルのために作られた妖精です。よろしくお願いしますね、黒崎さん!!」
「あぁよろしく。んで、そのチュートリアルってのは何をするんだ?」
「チュートリアルでは、このダンジョンを攻略するにあたっての、基本的な知識を身につけていただきます。」
「なるほどな。んじゃさっそくそのチュートリアルとやらを始めたいんだが...えーっと...」
「?どうかしましたか?」
「いや、お前のことは何て呼べば良いんだ?名前は?」
「私に名前はありません。まだ作られたばかりですから。」
「名前がないのか...作られたってのは、あの自称神に作られたってことで良いのか?」
「じ、自称神ですか。まさかそんな呼び方をするとは思いませんでしたが、確かに私はその方に作られました。」
「ふーん...それは良いとして、名前がないのは不便だな。何かないのか?」
「何か...ということでしたら、黒崎さんがつけて下さいませんか?」
「俺が?勝手につけて良いものなのか?」
「特に問題はありません。黒崎さんが宜しければ是非考えて頂きたいです。」
どうやらこの妖精に名前をつけなければいけないらしい。
ーーー人の名前なんて考えたことねぇしな
あまり良い考えが思い浮かばず、某妖精女王から取って『ティア』という名前をつけた。
「ティア...ですか。私の名前...ティア...」
ぶつぶつと自分の名前を何度も呟いている。
「あーもしかして気に入らなかったか?他のにするか?」
「い、いえ!ティアで良いです!ティアが良いです!!」
あまりの気迫にちょっと驚いたが、どうやらそれなりに気に入ってくれたようだ。
「それじゃティア。チュートリアルを初めてくれるか?」
「はい、おまかせ下さい!!」
「まずはもう一度ステータスを開いて下さい。」
「わかった。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:黒崎直人 Lv1
性別:男
固有スキル
・真理眼
・簒奪者
特殊スキル
・威圧Lv8
武術スキル
・体術Lv5
・格闘術Lv5
称号
・恐怖の眼光
・転移者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これで良いか?」
「はい、ありがとうございます。それでは見せていただきますね。どれどれ...へぇー...おぉー...これはこれは...」
「ありがとうございました。それでは説明を開始しますね。」
「おう。宜しく頼む。」
「はい、では上から順に見ていきましょうか。」
「名前と性別はわかりますよね?」
「あぁ、もちろんだ。」
「名前の横にあるLvというのはレベルですね。敵を倒すと経験値が貰えるんですが、これが一定値を超えると、このレベルの数値が上がるんです。」
「HPとかのパラメータはないようだが、レベルが上がると何かあるのか?」
「はい、レベルが上がると、身体能力が強化されたり、魔力が増えたりするんです。」
「身体能力はわかるが、魔力って何だ?」
「後で説明しますが、この世界では魔術と呼ばれる力があるのですよ。その魔術を使う際に消費するのが魔力です。」
「なるほどな。わかった、次にいこう。」
「はい、次に固有スキルですね。これは神より与えられた力になります。誰にどんな力が与えられるのかはランダムだそうです。ちなみに、普通のスキルにはレベルがありますが、固有スキルにはレベルがありません。」
「俺の固有スキルは【真理眼】と【簒奪者】か...。これはどういった能力なんだ?」
「申し訳ありません。能力の詳細は知らされていないのです。しかし自分のスキルの詳細はステータスから見れるはずですよ!」
「そうなのか。んじゃ見てみるか。」
俺はステータス画面の文字を適当に押してみた。
するとそのスキルの説明が出てきた。
説明は以下の通りだ。
【真理眼】
鑑定系の最上位スキル。
あらゆるもののステータスを見ることができる。
また、他者の嘘を見抜くことができる。
隠蔽不可。
【簒奪者】
敵を倒した際に、その敵の持っていたスキルを奪うことができる。
既に持っているスキルの場合、経験値として統合される。
【威圧】
相手を萎縮させることができる。
相手のレベルと使用者のレベルの差や、威圧のスキルレベルなどによって効果の高さは変動する。
【体術】
体の使い方がうまくなる。
レベルによって全ての武術に補正。
【格闘術】
武器を使わない攻撃がうまくなる。
身体能力に補正。
【恐怖の眼光】
威圧スキルに補正。
また、恐慌状態に耐性がつく。
【転移者】
チュートリアルを受けることができる。
ーーーどうやら俺はアタリを引いたようだ。