第九話 黒幕と想定外
ーーーさて、これからどうしようか...。
美浜の遺品を回収した後、俺はこれからの事を考えていた。
ちなみにあの害悪女の冥福は祈っていない。
ーーーとりあえず、追いかけるか。
俺は、先程までその場にあったもう一つの反応を追いかけることにした。
そう、あの場には俺を含め、四つの光点が示されていたのだ。
黃の光点を追いかける。
速度は明らかにこちらの方が速い。
やがて、月明かりに照らされたその背中を、肉眼で捉えた。
そのまま近寄り、走っているソイツを廻し蹴りで吹き飛ばす。
ゴロゴロと転がったソイツは呻き声を上げてこちらを見上げた。
「よぉ...こんな所で何してるんだ?...佐藤。」
佐藤は見たことも無いほど顔を歪ませ、恨みがましそうに睨みつけてくる。
「黒崎...いきなり何をするんだよ?」
「おいおい、いきなり逃げておいてそれはないだろう。...それに、その口調はどうした?もう演技はやめたのか?」
佐藤は悔しそうな顔をして立ち上がる。
「いつから気付いていた?」
「気付いてなんかいなかったさ。お前は俺と喋ろうとはしなかったからな。」
そう、気付いてなどいなかった。
コイツの狙いが何なのかなど。
ただ、コイツが先程、あの場で隠れて何をしようとしていたのかは知っている。
何故ならコイツは、叫び声を上げる美浜と、美浜を組み伏せる山田の二人に対して、魔術を使おうとしていたからだ。
それも美浜を助けようなどという理由ではない。
その魔術は、山田を狙ったものだった。
「お前の誤算は、あの場に俺が現れた事。そして、俺の索敵スキルのレベルが、お前が思う以上に高かったことだ。」
「...そうみたいだね。まさか僕の固有スキルまで破られるとは思わなかったけど。」
佐藤の固有スキル【詐欺師】。
その効果は、他者を欺く行動に補正をかけるというものだ。
それは何も、言動やステータスだけではない。
気配を隠蔽する事にも有効なのだ。
故に、佐藤の隠密スキルは、レベル以上の効力を発揮するのである。
しかし俺には真理眼がある。
佐藤の潜む場所に違和感を抱いた俺は、即座に真理眼を発動させ、そこに佐藤が隠れている事を把握した。
そして、魔術で山田を狙っていることも...。
「何故あの二人を殺そうとしたんだ?」
「何故?そんな事、決まってるだろう?」
ーーーあの二人はもう用済みだったからだよ。
佐藤は似合わない嘲笑を浮かべてそう言った。
「用済み...だと?」
「うん、そうだよ。あの二人がこれ以上生きていても邪魔にしかならないからね。特に美浜さんは。」
「ほう、そんな事を考えていたのか。意外だな。」
「そうかな。僕は初めから色々と考えていたんだけどね。」
「...田中とパーティーを組んでいたのも、アイツを利用するためだったのか?」
「よくわかったね、その通りだよ。」
「田中君は人が良いからね。僕みたいな臆病者が助けを求めれば、悪いようにはしないでしょ。」
「一人で生き残る自信が無かったお前は、偶々再会した田中を利用して力を手に入れようとしたってことか。」
「...驚いたねぇ。随分と聡いんだ。」
「否定しないのか。」
「その通りだからね。否定する必要なんて無いでしょ。」
「潔いんだな。...山田を焚き付けたのもお前か?」
「...まさかそれに気付くとは思わなかったよ。」
「山田はお前が思っている以上に臆病な人間だ。それは戦闘だけではなく、例えば恋愛なんかでもな。」
「確かに美浜は山田を騙そうとしていたんだろう。しかしそれだけでは山田が彼処まで執心する理由が付かない。誰かが焚き付けた、あるいは唆したのかと考えた。」
「そこに今回の件だ。大方、お前の固有スキルを使ってアレコレと騙したんだろ?」
「...まぁね、随分と簡単な仕事だったよ。美浜さんは君に惚れている、だとか、君が守ってあげないと、なんて言うだけで、あの豚は本気になっちゃった。」
「だが殺す必要はないだろう。お前なら、まだ利用する手段もあったんじゃないか?」
「言っただろう?邪魔になったって。田中君が生きてる頃なら、まだ今の関係を続けさせる事もできたんだけどね。」
「田中君は死んでしまった。もうこのパーティーではこれから先は見込めない。確かに、山田君を唆して美浜さんを襲わせたのは僕だけど、それだって時間の問題だった。」
「僕の知らないところで問題を起こされるくらいなら、僕の目の前でやってくれないとね。...そして、隙だらけの二人を僕が殺す。僕は力を手に入れ、そのうち現れる他のクラスメイトに拾って貰おうとしたんだ。」
「...なるほどな。お前が何を考えて行動を起こしたのかはわかったが、何故それを俺に話した?」
「君に嘘は通用しないんだろう?だったら、バレるのも時間の問題だからね。それにーーー」
ーーーここで、君を殺してしまえばチャラでしょ?
佐藤がそう言った瞬間ーーー
索敵上に、30を超える反応が現れた。
ーーーどうなっている!?
俺は予想外の事態に固まってしまう。
佐藤はそんな俺を見てニヤニヤとした笑いを浮かべていた。
「はははっ、どうしたのかな、黒崎君?」
「テメェ、一体何をした?」
「別にぃ?ちょっと特殊な道具を使っただけだよ?」
「道具だと?そんなもの、いつの間に...。」
「君に蹴られた時さ。もちろん隠蔽させて貰ったけどね。」
ーーーくそっ全く気付かなかった。魔物を誘き寄せる道具か。
俺は舌打ちをして佐藤を睨み付ける。
「おっと怖い怖い。そう睨まないでよ。...っていうかアレ?何だか目付き良くなった?もしかして美浜さんの固有スキルのせいかな?」
そんな事は今はどうでも良い。
とにかく今は、全方向からこちらに迫ってくる魔物達をどうにかしないと。
「おい、お前はどうするつもりだ?このままでは...」
「あぁ、僕は大丈夫だよ?コレを使うから。」
佐藤はボックスから一枚の白い羽根を取り出した。
「何だそれは?また何かの道具か?」
「やっぱり知らないんだ。まぁそれなりに希少な道具みたいだからねぇ。」
「勿体ぶらずに言え。それは何だ?」
「せっかちだねぇ。これは、自分が入ったことのある、ここから最も近い安全地帯へ転移する事のできる道具だよ。」
ーーーそういうことか。コイツ、逃げる気だな。
「やっとわかったみたいだねぇ。...君が強いのは知っているけど、この大群の前には無力だよ。」
佐藤が上から目線で知った風な口を叩く。
「ま、精々頑張ってね。君の遺品は僕が有効に使ってあげるから、安心すると良いよ。」
佐藤はそう言って、羽根を掲げた。
羽根を淡い光を発し、その光は佐藤を包み込み、消えていった。
魔物達は、すぐそこまで迫っている。
ーーーふむ...何というか、阿呆だな。
俺は溜め息を零した。
佐藤が俺の実力をどの程度と踏んでいるのかは知らんが、30体の群れくらいならば、俺とルビィで十分に対処可能だ。
傷くらいは負うだろうが、日頃増えるばかりの回復薬が幾つもボックスに眠っている。
ーーーまぁ、とっとと終わらせるか。
「あれから一時間、か...。そろそろ終わったかな?」
夜の帳が落ちている中、木造のログハウスで、一人の男がそう呟いた。
その顔には隠しきれない嘲笑が浮かんでいる。
「全く、どいつもこいつも僕の計画を邪魔してくれるな。」
「まぁ、流石に黒崎君もあの数の魔物には勝てないだろうし、今頃はもう死んじゃってたり「誰が死んでるって?」な!?」
「き、君は!?」
「よぉ佐藤、さっきは世話になったな。」
「な、何で...ここに...。」
「何でって言われてもな。普通に戻って来たんだが?」
「あ、あの魔物達は!?あの数から一体どうやって!?」
「別に逃げた訳でも特殊な手段を弄した訳でもねぇぞ。ただ、普通に皆殺しにしてきただけだ。」
「そんな...そんな馬鹿な...。」
「残念だったな。俺はお前の考える以上に強いんだ。それに、コイツだっているしな。」
俺は肩に乗っているルビィの頭を撫でる。
気持ち良さそうに目を閉じる姿からは、愛くるしさしか感じない。
「そんな小動物に何ができるって言うんだよ!?ふざけるな!!」
その瞬間、ルビィの熱光線が佐藤の片手を吹き飛ばしていた。
「え?...あ、あ、あぁぁぁぁいだいぃぃぃぁぁぁ!!」
失くなった腕を抑えて蹲る。
ルビィを見ると、馬鹿にするな!とでも言うように腰に手を当てている。
どうやら小動物と言われたのがムカついたようだ。
ーーーまぁ、こんなでも古代生物だからな。プライドはあるのだろう。
俺は蹲る佐藤へと近付いた。
「さて、何か言い残す事はあるか?」
「い、嫌だ。助けて、助けて下さいぃ。」
もちろん無視した。
ボックスから剣を取り出し、振りかぶる。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
こちらに背を向けて逃げ出そうとする。
その背中を踏んで押さえつけた。
「それじゃ、さようなら。」
俺はそう言って、藻掻いている佐藤を斬りつけた。
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名前:黒崎直人 Lv30
性別:男 pt3500
固有スキル
・真理眼
・簒奪者
・統治者
・道具効果二倍
・状態異常無効
・精神集中
・観察眼
・詐欺師
・魔術の才
・背水の陣
・化粧
特殊スキル
・威圧Lv8
・絶倫Lv6
・警鐘Lv4
・索敵Lv5
・隠密Lv6
・咆哮Lv6
・糸生成Lv7
・毒攻撃Lv7
・麻痺攻撃Lv6
・睡眠攻撃Lv6
・視覚強化Lv2
・聴覚強化Lv7
・嗅覚強化Lv7
武術スキル
・体術Lv7
・剣術Lv5
・槍術Lv5
・斧術Lv3
・棒術Lv4
・盾術Lv3
・格闘術Lv7
・短剣術Lv5
魔術スキル
・風魔術Lv3
・闇魔術Lv3
・時空魔術Lv4
称号
・恐怖の眼光
・転移者
・妖精の友
・同族殺し
・小鬼王殺し
・ルビィの主
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このダンジョンへと転移してから一ヶ月以上が経った。
段々と人殺しに慣れていく自分に、僅かな戸惑いを感じた。
ブクマ150件を超えました!
超感謝です、皆さんありがとうございます!!