第三話 相棒と名前
スライムとの運命的な出会いから、一週間が経過していた。
既に二つ目の安全地帯に拠点を移している。
少しは奥に進めた訳だが、出てくる魔物はそう変わっていない。
精々魔物のレベルがちょっとだけ高くなったくらいだ。
毎日それなりの数倒しているから、スキルも軒並みLv5を超えてきた。
ここらで何か変化が欲しいところだが、そう願ったところで意味もなく。
俺は日課の準備運動と柔軟をこなし、探索に出た。
ーーーソレはちょうど昼の休憩を取っている時に現れた。
ガサガサと音がしたかと思ったら、茂みから何やら小さな生き物が飛び出してきたのだ。
全体的に緑色。腹あたりが白の、リスみたいな生き物だった。
額にはルビーのような赤い宝石が付いている。
ーーー何だこの愛くるしい生き物は?...魔物か?
その小動物は忙しなく何度も首を傾げながら、つぶらな瞳でじーっとこちらを見ている。
...よくわからんが、とりあえず真理眼で見てみるか。
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種族:カーバンクル Lv5
性別:雌
固有スキル
・熱光線放射
魔術スキル
・回復魔術Lv3
・障壁魔術Lv4
称号
・超希少種
・古代生物
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ーーー魔物...なのか?イマイチわからんな。
しかし色々と気になる事はある。
可愛い見た目に反して物騒な固有スキルを持ってる事とか。
希少種どころか超希少種って書かれてる事とか。
古代生物に至っては「は?」って感じだ。
コイツのどこが古代生物なんだ。
愛嬌を振りまくその容姿からは、貫禄なんぞ微塵も感じない。
...討伐するべきなのだろうか?
できる事なら攻撃はしたくない。
俺は可愛い生き物が好きなのだ。猫とか。ハムスターとか。
そんな顔でとは言ってくれるな。動物は人を見かけで判断しないのだ。
むしろ人間よりも動物の方が仲良くなれる事が多かったのだ。
好きになるのも当然だろう。
というか先程からずっと見詰めてきているのだが。
コイツは何がしたいのだろうか。
ーーーもしかして腹が減ってるのか?
そう思い、ポイントを消費して袋入りのピーナッツお菓子を買った。
掌に乗せて近付けてみる。
警戒している様子だ。なかなか寄ってこない。
ピーナッツを一つ投げてみた。
カーバンクルは恐る恐る近寄って行き、匂いを嗅いだり叩いたりしている。
問題はないと判断したのか、ほんのちょっと齧った。
目を見開いて耳をぴんっと立てる。
一瞬止まったと思ったら、今度は猛烈な勢いで食べ始めた。
ーーーどうやら腹が減ってただけみたいだな。
即座に一粒を食べ終わり、物欲しそうにこちらを眺めてくる。
もう一度掌に乗せて差し出してみた。
やはり警戒している。
まだ近寄っては来ないか...。
そう思った瞬間ーーー
テク...テク...と、少しずつこちらに歩み寄ってきた。
ゆっくりと俺の掌に乗っているピーナッツへと手を伸ばす。
しっかりと掴んで、口へと持っていった。
美味しそうに食べている。
見ていると、ほぅ...と和んでしまう。
いつの間に食べ終えたのか、まだまだ足りないぞとでも言いそうな目で見詰めてくる。
それからはずっと餌付けタイムだった。
気付けば袋の中は空っぽだった。
時間もかなり経っており、あたりが暗くなり始めている。
慌てて拠点に戻ろうとする。
カーバンクルの方を向いて「じゃあなリス公。元気でな。」とだけ言って、移動を開始した。
ーーー何故だ。何故付いてくるんだ。
そう、あのカーバンクル、実は先程から俺の後ろをテクテクと付いてきている。
後ろを振り返ると、不思議そうな顔で首を傾げる。
「なぁ、何でお前付いてくるんだ?」
カーバンクルは首を傾げるだけ。
「親とかいないのか?」
カーバンクルは首を傾げるだけ。
「お前...独りなのか?」
カーバンクルはじっとこちらを見詰めている。
はぁ...と大きく溜め息を吐いた。
「俺と一緒に行くか?」
カーバンクルは耳を立て、甲高い声で鳴いた。
安全地帯に戻ってきた。
カーバンクルが入れるのかと気になったが、どうやら普通に入れたようだ。
やはり魔物ではないのか?と思い、もう一度ステータスを見てみると、称号に【直人の従魔】が増えていた。
ーーーいつの間に従魔とやらになったんだ...。
というか従魔って何だよ。
気になったので真理眼で調べてみた。
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【従魔】
ある特定の条件下において、人間に付き従う事を決めた魔物の事。
従魔となると所有者の恩恵が与えられるため、一般的に従魔は同種の野生種よりも強くなるとされている。
従魔となる条件は、主となる人間に屈服する事、もしくは忠誠を誓う事である。
また、後者の条件の方が難易度は高く、所有者との精神的な繋がりが強くなるため、与えられる恩恵も大きくなる。
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...やはり魔物だったのか。
というかいつの間にそこまで好感度高くなったんだ?
戦ってはいないから屈服したという事はないだろう。
とすると、このリス公は俺に忠誠を誓ったという事になる。
ーーー飯をやったから...か?
それは流石にチョロ過ぎるだろ、と思わないでもないが、あれだけ腹を空かしていたところを見ると、コイツにも何か事情があるのかもしれない。
まぁ俺に従うというなら構わないだろう。
それなりに戦力にもなりそうだし。
何より初めての相棒だ。
共に頑張っていきたい。
「よろしくな、リス公。」
そう言うと、リス公は微妙そうな顔をした。
何か気に入らないことでもあるのだろうか?
「どうしたんだリス公?」
「キューッ!!」
「うわっ!!おい、何だよいきなり...。」
よくわからんがいきなり怒りだして飛び込んできやがった。
「本当にどうしたんだよリス公?また腹でも減ったのか?」
「キュー!キュー!!」
甲高い鳴き声で騒ぎ立てる。
「おい、リス公?」
「キュー!キュー!!キュー!!!」
「はぁ?...まさか、リス公って呼ばれるのが嫌なのか?」
「キュー!!」
ブンブンと頭を縦に振っている。
なるほど、そういう事だったのか。
「んじゃ何て呼べば良いんだ?お前名前とかあるのか?」
今度は横に振る。
そして、どこか期待したような瞳で見上げてくる。
...まさか。
「お前、俺に名前付けろってか?」
「キュー!!」
やっと伝わった!とでも言うように鳴いている。
「まじかよ...。別に良いけどさ...。」
うーん、と頭を捻って考える。
名前...か。そうだな...。
「...お前の名前はルビィだ。どうだ?」
そのままじゃねぇか!って感じだが、正直これ以上思い浮かばなかった。
「キュ?...キュー!キュー!!」
ルビィは嬉しそうに走り回っている。
良かった。どうやら気に入ってくれたようだ。
「んじゃ...ルビィ、改めてよろしくな。」
「キュー!!」
ルビィは片手を上げて、甲高く鳴いた。




