第五話 虚偽と願望
ーーー校倉君人は嘘をついている。
最初に気付いたのは、校倉がある発言をした時だった。
「...うん、まぁね。それ以来、戦ってはいないけど。」
校倉がそう言った時、校倉の身体から黒い煙のような何かが滲み出た。
初めて見る現象ではあるが、俺はすぐに悟った。
ーーーそうか、これが真理眼の力か...。
それからも何度か校倉は嘘をついた。
校倉の言葉。そこから推測される真実は以下の通りだ。
・チュートリアルで妖精の力を借りた。←本当
・チュートリアル以降戦闘はしていない。←嘘
・このままではポイントが尽きる。←嘘
・魔物を見ると体が震える。←本当
どうやら魔物に怯えているというのは本当のようだ。
それでも勇気を出して戦っているのだろうか。
だとしたら何故それを隠すのか。
それがわからない。
「その...こんなこと言ったら、軽蔑されるかもしれないんだけどさ...。」
校倉は俯いたままゆっくりと言葉を紡ぐ。
「魔物と戦うのを...手伝って欲しいんだ。」
「校倉も戦うのか?」
「うん...このままではいられないし...。」
「僕はまだ、死にたくないんだ。」
その言葉は、気弱な校倉が抱く、確かな願望だった。
「...そうか。...わかった、手伝おう。」
嘘をついた事は間違いない。
しかし、それでも見捨てることはできなかった。
「俺が弱らせる。お前は止めを刺すんだ。」
「うん、わかったよ。」
いま俺達は、休憩部屋を出て探索をしている。
出てきた魔物は校倉に仕留めさせている。
「...慣れてきたか?」
「まぁ何とかね」
少し顔色が悪い。先程から体が小さく震えている。
「今日はこれくらいにしよう。部屋に戻るぞ。」
「うん...ありがとう、黒崎君。」
「いや、気にするな。」
部屋に戻った俺達は、軽く腹を膨らませた。
「...調子はどうだ?」
「...うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」
「一人でもいけそうか?」
「...どうだろ...まだわからないや。」
その言葉は嘘だった。
既に校倉は一人でも戦えるのだ。
ならば何故俺に助けを求めたのか。
それがわからない。
「...とにかく今日は寝よう。」
「うん、そうだね。...また明日も、手伝ってくれるのかな?」
「あぁ、構わない。」
「そっか、ありがとう。本当に感謝してるよ。」
「黒崎君って思ってたほど怖い人じゃないんだね。」
そう言って、校倉は少しだけ笑った。
「とにかくお休みなさい。また明日もよろしくね。」
ーーー何故だ、校倉。どうして。どうしてお前はーーー
ーーーそうやって嘘をつくんだ。