第三話 宝箱と慢心
目を覚ました俺は、前回とは逆の方向へと足を伸ばすことにした。
ホブゴブリンのような新たな発見があるかもしれない。
遭遇する魔物を倒しつつ暫く進むと、行き止まりに差し掛かった。
なにやら箱のような物が置いてある。
それなりに大きな箱だ。
ーーーこれがティアの言っていた宝箱か?
真理眼で見てみると、中身まではわからないが、宝箱で間違いないようだ。
"トラップなし"とまで書かれてある。
本当に高性能で便利なスキルだ。
俺は安心して宝箱を開けた。
中に入っていたのは一本の剣と魔本瓶に入った青っぽい液体だった。
さっそく真理眼を発動する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名称:鉄の剣
種類:片手剣
特殊能力:なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名称:ローポーション
種類:回復薬
効果:軽い傷や疲労を回復させる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
...なるほど。
一階層の宝箱らしい品だ。
だがそれなりに有用だとも思った。
これから先ずっと格闘術を使っていくか迷っていたが、ここで一度剣に転向するのも良いかもしれない。
ホブゴブリンから奪った剣術スキルも試してみたい。
新たな武器を携えて道を進む。
前方に魔物が現れた。コボルト2体だ。
片方のコボルトが槍を向けて走ってくる。
突き出した槍を剣で逸らして、腹に蹴りを入れた。
止まったコボルトの首を横から斬ると、そのままコボルトは倒れ伏した。
ーーーこれがスキルの効果か。剣が体に馴染むな。
まるで剣道経験者のように剣の動かし方を体が覚えている。
いや、"知っている"のだ。
スキルを奪うという事は経験を奪う事に近いのかもしれない。
そんなことを考えていると、もう一方のコボルトが槍をこちらに投げてきた。
今までにない事態に驚いて、回避が遅れてしまった。
「くっ...いってぇなこの野郎!」
傷口がズキズキと痛む。
致命傷は避けたが、肩を少し損傷してしまったようだ。
あれほど油断大敵と言いながらも油断した自分に腹を立てながら、俺はコボルトの胴体に剣を突き刺し、倒れたコボルトの後頭部を踏み潰した。
魔石を拾って一息ついた俺は、今の戦闘について考えていた。
ーーー慢心だ。これは俺の無意識な慢心が招いた負傷だ。
一度も怪我を負ったことのないという事実。
上位種さえも素手で倒したという実績。
そういったものが積み重なり、俺の中にくだらない傲慢さを植え付けていったのだろう。
ーーー戒めろ。こんな無様は二度と許されない。
"次"が許されるような甘い場所じゃない。
危険が溢れるこのダンジョンで生き残るためには、ダンジョンに適応しなければならない。
俺はその事を胸に刻み込んだ。
さて、反省はここで終わりだ。
次にしなければならないのは、傷の手当だ。
コボルトの持っていた鉄の槍は錆びていた。
こんな所で病気になど罹ってはたまらない。
迅速に手当をしなければ。
ーーーアレを使ってみるか。
俺は宝箱で手に入れたローポーションを取り出した。
肩の傷口にかけてみると、すぐに傷口は塞がった。
この程度の傷ならここまで簡単に治るのか。
ファンタジーでは代表的な回復薬だが、リアルで見るとなかなか凄い効能だな。
「傷も塞がったことだし、先に進むか。」
時々休憩を挟みながら、探索すること6時間、俺は新たな休憩部屋を見付けた。
とりあえず中に入るかと思い入ってみると、どうやら先客がいたようだ。
こうして俺は、ダンジョン内でのクラスメイトとの初めての再会を果たした。
ーーーこの出会いが、俺に大きな影響を与えることになる。