ねえ、先輩。
「ねえ、先輩」
「……あんだよ」
「青春しません?」
放課後のチャイムが鳴り響き、教室に人気はほとんど無い。窓際で本を読んでるのが先輩、俺はその側で携帯をいじっている。
「ねえ、先輩。その本、そんなおもろいんスか?」
「別に」
「じゃあトークしましょうよ俺と」
先輩は呆れた目付きで俺を一瞥した後、何ごとも無かったかのように読書に戻る。携帯ゲームに飽きた俺は再び話し掛ける。
「ねえ、先輩。何かでっかいことしましょうよ」
「はあ?」
「ほら、校長室の椅子に座るとか」
「……ちっせェ」
先輩の口から溜め息が漏れる。少し不満もあるが、先輩がこちらのペースに乗って来た。
「じゃあ何スか。先輩だったら何します?」
先輩は本から目を離し、うーんと唸る。下らない質問に頭を悩ませてくれるとは、なかなか真面目な人だ。目付きが悪いから人はあまり寄って来ないけど。
「……歴代校長の写真に髭生やす?」
「先輩、俺と同レベルだ」
「うるせ」
「おいおいお前たち、まだ居たのかよ」
背後から間抜けな声がした。聞き覚えのある声、その主は里見。俺の元担任、先輩の現担任。
「校長室かあ。俺も教師になってから初めて入ったなあ」
里見はうんうん、と満足そうに頷いた。先輩はと言うと、またもや読書に戻っている。里見、何てタイミングの悪い奴。
「センセー、センセーだったら何する?」
「……お前、“先輩”には敬語なのに何で俺にはタメ口?」
「いいから」
里見は悔しそうに唇を噛んだ後、ハッと閃いた顔をした。
「俺だったら、校長室にある金の狸の頭を撫でるぜ!金持ちになれるらしい」
「……ちっさ!っていうか、教師に金持ちとかあんの?」
「いいじゃねェか、夢持っても!今月懐寂しいんだよ!」
ぐすんと目頭を押さえる姿は正直痛々しい。里見は参考にしたくない教師、堂々一位だ。
「ねえ、先輩。校長室行きましょうよ」
「はあ?」
「ちっせぇけど誰もしねェようなでっかいこと、やってやりましょうよ」
俺は何処かサッパリとした気分になった。どんなことでも楽しく出来るような気がする。先輩の横顔を見ると、ニヤリと口元が緩んでいるのを見付けた。俺も笑みが隠せなくなる。
「うわあ、お前ら青春!」
場違いな里見の声に、思わずガクリとしてしまう。当の本人はニヤニヤとしている。
「俺は別に何も聞いてないし?教室の電気さえ消して行って貰えれば文句ねェよ」
「……センセー」
「あー、採点しなきゃなんねえ!お前ら、気を付けて帰れよー」
口笛を吹きながら里見は教室から出て行った。禁煙の筈の校内で、奴から煙草の匂いがしたことは黙っておいてあげよう。先輩はカタリと椅子から立ち上がる。俺はそれをボンヤリ眺めていた。
「おい」
「え?」
「え?じゃねえよ。校長室行くんだろ?」
「あ、はい!行きます!」
俺はガタンと立ち上がって、先を歩く先輩の後を追いかけた。教室の電気を消すのは忘れずに。
読んで下さりありがとうございます!久し振りに里見先生が復活です(笑)良かったら感想評価よろしくお願いします♪




