1瞬の出来事
ランキングの作品を見て異世界召喚もの書いてみたくなって
どうせなら主人公チート能力だろ
どうしてこうなった
主人公には頑張ってもらいます。超頑張ってもらいます。
眩い光の中、一人の男が居た。
真っ白な空間に一人
どこまでも落ちていきそうで、どこまでも飛んでいっていしまいそうな不思議な感覚を男は感じていた。
突然現れる、この空間よりも強く淡い光を放つ存在。
光は告げる。
「あなたには罰を与えます。あなたが自身の罪を知るために、私からあなたへ特別な贈り物を与えましょう」
男は状況が飲み込めないまま唯唯お告げを黙って聞くしかなかった。
「一つ目はあなたの存在 二つ目は一つの答え 三つ目は五ある涙 四つ目は奪う権利を」
男にはこの光の言う意味が何一つ理解できなかった。
「あなたはこれから新たな世界で新たな人生を歩むのです。――何をするかはあなた次第」
そのお告げを聞いた途端男の目の前はより強い光が広がった。
気がついた時、男は川辺にいた。
しかし男はその事に気がついていない、何故なら――
「な、何もみえない」
男の目はこれでもかというくらい大きく開かれている。
しかし彼には何も見えていない。
男は暗闇から逃れるように手探りで地面を調べる。
しかし彼の手には何か凹凸があることだけは解るが何があるのか解らない。
男は落ち着いて何かを聞こうと集中する。
しかし彼には風の音すら聞こえない。
男は少しでも情報を得ようと鼻を利かせる。
しかし彼には空気の匂いさえ感じられない。
男はここまでの自分を冷静に分析し、最後の可能性を信じて地面に落ちていた何かを拾って口に入れた。
しかし土の味も分からない。
男は確信した。
そう、彼には無くなっていたのだ。
即ちそれは、視覚、触覚、聴覚、嗅覚、味覚
――何故私がこんな目に……何故こんなことに
男は呆然となり力なくうなだれている。
しかし男は不思議と、ある一つの感情に襲われることなかった。
――それは
幾つかの木の枝を抱えた少女が通りかかった。
木と木のぶつかる乾いた音が鳴った。
「あの? どうかしたんですか?」
一瞬驚いた少女は、少し警戒している。男と少女の間にはかなりの距離がある。
男にその声は届かない。
男はゆっくりと歩き出す。
男は何を求めて歩きだしたのか……
前かがみになり手で何かを探るようにして、男はふらふらと川の方へ向かった。
――えっ?
「ちょ、ちょっと。そこの人!」
少女は持っていた木枝を落とし、男へと駆け寄る。
――この人、死のうとしてるの!?
少女には男がこの世の全てに絶望し命を絶とうとしているように見えた。
実際のところ、男は何も見えずただ闇雲に歩いているだけだった。
それがたまたま川の方へと向かっているだけで。
「やめてください!! 理由はわかりませんが、簡単に命を投げ出さないで!!」
少女が男の腕を掴みながら叫ぶ。
「う、うわぁああぁああああああ。なんだ!? やめろーーーーっっ!!」
男には急に腕の方から何かに引っ張られている力を感じた。
得体の知れない恐怖を感じた男は情けない声を上げながら必死でそれを振りほどく。
引っ張る力と反対の方向へ逃げるように走るが、足に対する感覚が変わり、それによって勢いよく倒れ込んだ。
男は水に足をとられ転んだのだが、それに気がつくことも出来ない。
さっきまでとは違う、全身を何かがまんべんなく押さえ込んでいるように重い。
――呼吸が出来ない。
――私は、何故こんな――
意識を失った男の目の前には光が映し出されていた。
「こちらの世界に転生してすぐに死んでしまっては意味がありません。貴方はまだ罪の意味を知っていません。本来は干渉すること自体許されませんが、この場所に召喚した私の責任とも言えるでしょう。今回だけ特別にその命を助けましょう」
「まっ待ってくれ、私は何故こんな目にあっているんだ!? 私はいったい何をしたというのだ!」
「それは、あなた自身で見つけることです。この世界で自身の立場に絶望するのも希望を見出すのもあなたの自由です」
この光の声は自分の命の手綱を握っている。それだけはハッキリと男に理解できた。
「…………わかった。罪とやらを自分で見つければいいのだな? しかし、このままではまた同じ事が起きてしまう。せめて目だけでも見えるようにしてくれ」
「――――良いでしょう。ただし開放する力は目ではありません。一時的な力の解放の条件としてあなたには契約の代償が課せられるでしょう」
――契約? 代償? これ以上私から何を奪うというのだ
「この世界であなたは自身の力について、他人へと語ることは許されません」
「私の力? 何か特別な力があるのか?」
「最初に特別な贈り物を与えると告げたはずです」
男は思い出す。私の存在、答え、5つの涙、奪う権利。そう言っていた。
特別な力に該当しそうなものは――奪う権利か?
「さ、最後に教えてくれ。私の奪う権利とは一体なんだ?」
「――それは『命を奪う権利』あなたに13秒間触れた命を奪う権利です」
少女は困惑した。男は近くで見れば口元に泥がついていて、必死で引き止めれば叫びだし、暴れ、そのまま川に転倒し、じたばたした後動かなくなったのだ。
並大抵ならば奇人の類だと恐怖するだろう。
だが、少女は恐怖よりも助けたいという思いが勝っていた。
幸いにも浅瀬で、少女の膝ほどまでしかない。
持っていた木の枝を足元に落とした。
動かなくなった男の顔を水から出させようと肩を持ち上げようとするが動かない。
意識を失った男を持ち上げるには少女の力では足りない。
少女もすぐにそれを悟った。
次に少女は足首を持って水から引き離そうとする。
申し訳ないと思いながらも必死に引っ張るが思うようにならない。
――どうしよう、この人本当に死んじゃう
ダメかもしれない。そう少女の脳裏に浮かんだ時、ビクッと男が動いた。
「――げほっ、かはっ、……」
男は水から顔を離し、はぁはぁと粗い呼吸をしている。
少女は驚き足を離し、尻餅をついてしまった。
呼吸を整えた男はゆっくりと立ち上がった。
「あ、あの大丈夫ですか?」
――声がする!? 女の子の声か? すると私は聴覚が戻ったということか
「だ、大丈夫だ。……す、すまないのだが、これから可笑しな質問をするかもしれないが、よければ答えてくれないか?」
少女は挙動はおかしいが、この男が危険な人物では無いと感じた。
「はい、私で答えられることなら」
少女は服についた汚れを払いながら立ち上がった。
「こ、ここは何処だ?」
少女には質問の意味が分からなかった。
――ここって今いるこの場所のことかな?
「えっと、貴方は今街外れの『ナン林道』にある川に立っています」
質問の答えがこれでいいのか疑問に思いながら答えた。
――『ナン林道』? 川? 私は今川にいるのか!?
全くわからなかった。取り敢えず少女の声がする方へと歩く、だんだんと足が軽くなっていった。
「い、今私は陸にいるか?」
少女は不思議に思った。何故それを確認する必要があるのか。
「はい、川からでました」
「こ、ここはなんという国だ?」
「ヴァンクルー国ですよ?」
――この人は他の国や村から来た迷い人なのだろうか? そう言えば服装もかなり変わってる。
――聞いたことのない国だ。本当に知らない世界に来たのだろうか?
男が少し考え事をしていると少女が口を開いた。
「あの、もしよろしければ私の家に来ますか? 私の家は宿を経営しているので休めるかと思います」
――宿か、このまま私がここに居ても生きていける気がしない。このまま留まるよりは遥かにいいだろう。それにまずは情報を得ること、それとこの耳だけを頼りに生きる術を磨かなければならない。
「お、お願いしたい。えっと……」
「私はエイゼルです。エイゼル=ルカート=フォッケン。あなたは?」
――名前? 私には名前があった。だけど何故だ? 思い出せない
「す、すまない。エイゼル=ルカー……とやら、少し記憶がないようで名前が思い出せないのだ」
――記憶喪失? だから今いる場所を聞いたのかな?
「……そうですか。記憶が戻るといいですね。私のことはエイゼルでいいですよ。」
「あ、ありがとう。エイゼル」
「それじゃあ私についてきてください」
エイゼルは落とした木枝のところへ歩く。
男はまた、前かがみになり手で何かを探るように歩く。
エイゼルが木を拾い男に目を向けると奇妙な歩き方をしていることに気がついた。
――さっきもそうだったけど、もしかしてこの人は
「あの、失礼なことだったらすみません。……もしかして目が見えないのでしょうか?」
男には視覚だけでなく触覚、味覚、嗅覚も無い。そのことをエイゼルに打ち明けようとしたが。
――口が動かないっ!?
頷いて目が見えないことだけでも伝えようとするが。
――体が動かない!!
――これが光の言った契約か……? 目が見えないことが私の力ということか!?
「わ、私のことはあまり聞かないでくれないだろうか。ほ、本当にすまない」
エイゼルはこの男に特別な事情があることを理解した。
エイゼルは黙って男に近づく、そして手を掴んだ。
「こうして歩けば怖くないですよ?」
男にエイゼルに触れられている感触は伝わらなかったが、軽く前に引っ張る力を感じた。
男は思い出した。――あなたに13秒間触れた命を奪う権利です――
慌てて腕を振りほどく。
エイゼルは困惑の表情を浮かべた。
「い、いや、あのこれは……わ、私は人が苦手なのだ。人が近くにいると、こ、怖くなってしまうのだ。本当にすまない。エイゼルが親切なのは分かっているのだが……本当に……すまない」
エイゼルは男が暗い表情で、心の底から謝っていることを感じた。そして何か嘘をついてることも。
――誰にだって、何か言えない特別な事情はあるよね。
エイゼルは手頃な木の枝を拾った。
「これならどうですか?」
男の手に木の枝を握らせる。その反対をエイゼルが握る。
男は木の枝を握りエイゼルに連れられて歩き始めた。
エイゼルが落とした木の枝を拾い始めた。
「な、何をしているんだ?」
「宿で使う薪を拾っているんです。ちょっと待っててくださいね」
「わ、私も手伝おう」
せめてこのくらいは手伝わせてほしい、男にとっての精一杯の感謝の表し方だった。
エイゼルも片手で薪を持つには多い量だと感じていた。
「じゃあお願いします。薪を渡しますね」
片手で薪を持った少女と片手で薪を持った男、二人は木の枝を握っている。
エイゼルは道中男に質問することはなかった。ただ黙って歩いた。
男もまたエイゼルに質問することはなかった。自分のことは話さずに他人から話をさせるということに気が引けていたのだ。
他の作品はもうちょっと明るいのりです。
書き方も少し違います。
良ければ是非ご覧下さい