友達は恋し3
比奈は何事もないように言いのけると、自分のパフェを食べて幸せそうな顔をしていた。
恋人専用パフェ。
恋人、それはつまり手を繋いで登下校したり、口付けを交わしたり、あまつさえここでは言えないことをするような関係のことだ。
それが一体どういうことだ。
陸帯を見ると、やはり同様に知らなかったのか、顔を真っ赤にして下を向いてしまっている。
まぁ主犯は茶髪の問題児に間違いないだろう。
自分だけ幸せそうに、わざわざこっちをみて、ほくそえんでやがるから手に終えない。
しかし、実は俺も幸せかもしれないのは内緒である。
色々な妄想をするとニヤッとしてしまった。
おっとおっとヨダレまで、いけないいけない。
陸帯の顔はまだ林檎のように赤かったが、こちらを見て、勧めてくる。
だから俺も、パフェを勧めて食べ始めた。
なんだか、初デートの時見たいな感覚だ。
本当のデートをしたことがあるかどうかは、全く記憶にございませんが。
さすがに美味しいと評判になるだけあって、かなり美味しい。
「ムムム、マジウマだなこのパフェ。」
「ホントにウマウマだね!」
「うん……スゴく美味しい。」
そう言って三人は顔を見合わせて笑い会う。
紹介した比奈もちょっと誇らしげだ。
だって控えめな胸がいつもより出ている。
よっぽど胸を張っていないと出来る芸当じゃない、軽い殺気を感じるのはご愛嬌ということで。
そんな比奈の胸を見ていると、どうやらパフェを見ていると思ったらしい。
珍しくニッコリと満面の笑みを向けられていた。
「しょうがないなぁ。
お……じゃなかった香蓮ちゃんにも、私のパフェ一口あげるよ。」
そういうと、スプーンでおもむろによそってくれる、ほんの少しだけマンゴーが入っているのは今の気持ち、つまり凄く楽しいということなんだろう。
毎日一緒にいるから、少し考えが分かってきた。
普通ならマンゴー成分は無く林檎成分が多いか、もしくは林檎だけだろう。
そんな比奈を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。
「はい、口開けて志毅……香蓮ちゃん!」
比奈の手によって口にパフェが運ばれる。
うむ、なかなか美味。
「マンゴー味もマジウマですな。」
そう言うと、目を輝かせニッコリと微笑んでいた。
しかし陸帯はというと、これまでにないほどに顔を赤く染め上げている。
「か、か、間接……間接キス。」
小さな声はしかし、俺と比奈の目を覚まさせるには充分な威力だった。
「お、お、おおおぉぉ!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁあ!」
二人して同時に悲鳴をあげ、アタフタと取り乱し、比奈に至っては残ったパフェを器ごと飲むようにひたすらたべている。
周りからの奇異の視線が痛々しく向けられていた。
それから五分ほど色々な弁明をし、三人の顔色が正常に戻り、落ち着きを取り戻した。
辺りを見ると、来た時はあまり客が入っていなかったが、今では店の外にまで行列が出来ている。
その大半は、黒い生地に黄色の線が引かれ、右側と左側の服端の丈が違う制服を着用。
ようするに俺達と同じ学園生って訳だ。
基本、規則では昼休みや休み時間での学校外禁止のはずなのだが、どうやらみんな不良生徒らしい。
「うちの校則ってダメダメだねー。」
比奈の言葉に首を縦に振って、珍しく激しく同意。
見れば陸帯もクスリと笑って頷いていた。
「ねぇねぇ、そういえばさ、最近の噂知ってる?」
俺がさっきの出来事を忘れる為、陸帯に見とれていると、そんなことはお構いなしに話を振ってきた。
高校生というのは噂話が好きなもので、自然と比奈の方を向く。
「近頃の噂といえば、花山君の成績が下がったことか、昨日の西堂駅前で人身事故があったこと。
もしくは東堂町で起きてる怪奇現象か?」
「いや、花山君って誰だよ!
そんな奴の話はしませーん。」
俺の頭を軽く叩きながら、ツッコミをいれる。
「あ、あの西堂駅前のは……人身事故じゃなくて、山から降りてきた猪に男性が突進されたの。」
陸帯は恥ずかしそうに、恐る恐る言っていた。
その様子が可愛くて、俺は自分の勘違いをなかったことにする。
「言っておくけど香蓮ちゃん、人身事故と猪の突進は違うからね。」
……
どうやら比奈には、俺の考えなどお見通しらしい。
さすが腐れ縁というかなんというのやら。
「まぁ、でもそうだね。
ある意味、東堂町の怪奇現象は合っているのかもしれないかなぁ。」
そんな時だった、ふと比奈の後ろに何か写っている、いや何かがいる気配がした……
目を凝らしてよく見れば、うっすらとしか分からないが、片方から絵本に出てくる天使のような翼が生え、頭には銀色の何かが突き出ている女……のようなものがいた。
そして何より気になったのが
「半裸じゃないか。」
頭に激痛が走っていく。
まるで頭を叩かれたように。
ふと現実に引き戻されると、比奈に叩かれていた。
次の構えがパフェの容器を持っているのが恐ろしい。
「香蓮ちゃん?
私の方を見てるフリして、後ろの綺麗なお姉さんばかり見ない!」
比奈が言った通り、その方向にはグラマーなお姉さんしかいない。
「あれ?
半裸の可愛い娘がいなくなってる。」
そう口に出すと、もう一発パフェの器で叩かれた。
そしてまさかの、陸帯にも叩かれてしまう。
ちょっと膨れっ面もなかなかいい。
そう思っていると、怖いお姉さんが睨んでくるので、今にも茶髪を逆立てそうなお方に目を向ける。
「もー、香蓮ちゃんは幻覚まで見ちゃったの?
大変だねー、いい病院紹介してあげよっか?」
「余計なお世話だよ、それにその病院ってどうせ、お前の親父さんのだろ?」
比奈の親父さんは琴架総合病院と言う、大きな病院の局長さんらしい。
そして母親の方が同じ病院の外科医だっただろうか?
しかし、どうやら冗談のチョイスを間違ったらしい。
その話はあまりしてほしいことではなかったらしく、普段と違う表情で俯いている。
「それは関係ないよ……」
突然重苦しくなった雰囲気に、耐え切れず、話を無理矢理そらす。
肌からうっすらと汗をかき、陸帯も気まずそうな表情をしてこっちを見ていた。