開始でゲーム5
さしも問題ないというかのように、ニコッと微笑みをかけられ咄嗟に表情筋を全力で弛ませたが、少しひきつっていたかもしれない。
「緊急エラーです。
緊急エラーです。
何者かに侵入されました、危険デすーゲームを離れてーくだサイ。」
機械音のようにそんなことを言おうとしたのか分からないが、人間の発音であるため騙されることはない、それを皮切りにし、俺達二人は再びスクリーンを見据えて言葉を発す。
「ゲームスタート!」
「……スタート。」
後ろから無視しないで、と戯言のような言葉が聞こえてきたが、特に気にすることでもない。
きっとそいつの隣で妹様が、呆れ顔をしているのだから。
「やあ、ようこそおいでくださいました。
ようこそ礼法の世界へ、今回は弦楽器、茶道、華道の中からお二人で一つお選びください。
なお、弦楽器は音色を華道は活けたものをお見せしていただきますが、茶道の場合は私はこのとおり身のない存在ですので、お二人でやっていただきその仕様や仕草、お手前の程を拝見致しますのでご了承ください。」
弦楽器、といえば弦が付いたものなら何でもよさそうだが、見るからにここには琴しか見当たらない。
音楽の授業で遊び程度に触ったことがあるだけのものなど勝てるはずもないだろう。
ならばチャンスがあるのは、一応一通りは知っている茶道か才能が爆発するかもしれない華道だ。
「陸帯、俺は茶道か華道がいいんだが、陸帯は何がいい?」
少し考える風に小首を傾げる小さい子は胸キュンものだが、今は耐えようと再度心に誓った。
「……わ、私は茶道はしたこと……ないから、弦楽器か華道が……いいかな。」
なるほどと一つ頷いた俺は、結論に導いた答えをスクリーンの若い男にいい放った。
俺と陸帯の両方の意見を足して割ると、この答えしか導かない、火を見るより明らかだ。
「茶道でお願いしよう!」
途端に後ろと横から驚きに満ち満ちた声が聞こえてきたが、スクリーンに映る男性はニッコリと微笑むと、承知しましたと大きく頭を下げて消えていった。 直後、全体が暗転したかと思うとすぐに、ワビサビですね……とでも言いたくなるような部屋に変わっていった。
「こら香蓮ちゃん、酷いぞ謝れ! 春羽が可哀想でしょ、ついでに私にも謝って!」
「いや志毅ニイ、まあ勝つためだから責めはしないけどね、ものっすごいドン引きしたから、今後はもう少し……いや言うだけ無駄だね。」
「比奈、これが勝負というものだ、ああなんと残酷なんだろうな、お前に謝る意味は全く分からんが、とりあえず祷を見習うといいぞ。」
相変わらず猿の鳴き真似のように、ウ キーウキーとわめいている声が五月蝿いが、俺には気にする必要はないことだ、横でハワワワとアタフタしている少女には同情と多少の罪悪感を感じてしまうが、勝負は勝負であり俺が勝つこと間違いない。