伏恋にハジメ
春
春ってなんだろう
新芽が息吹く季節と答えましょう。
春とは何だと聞きます
何かが始まる季節と答えましょう。
春とは何かと聞きます。
桜が流れる季節と答えましょう。
春は始まり……
全ての始まり……
何かが壊れる瞬間。
新たな出会いが訪れる
その出会いに意味があることを願って
涙をながさないように、そっと頬に指をあてる季節でしょう。
春は眠くなる季節だ。
唐突に、しかし誰しもが思っていることをぼんやりと考えていた。
それでいてただゆっくりと、ほんのりと暖かくなってきた空気に微睡んでみる。
気持ち良いものだと、初めて発見したと言いたいところだがそうではない、そんな訳はない、そんな凄い学生ではないのだ。
俗にいう日向ぼっこといってしまえば身も蓋もない、ただの気怠さといえばもうどうしようもないことだろう。
次第に重さを増していく瞼に欠片ほどの力を入れ、窓越に外をみた。
立て付けの悪い窓ガラスから漏れた風が、黒く肩までも届かない髪をふわふわとなびかせてくれる。
雲一つない綺麗な青空、誰もいない校庭には、サッカーのゴールポストがポツンと仁王立ちを決め込んでいた。
そんな弁慶もどきから視界から遮断し教室内に向き直ると溜息を一つこしらえてしまうのは仕方のないことではなかろうか?。
ガヤガヤとうるさい空間は平和な無法地帯と化し、皆それぞれ話に花をさかせているのだ。
永遠のボッチと名高い俺からしてみればそれは苦痛でしかないのである。
「相変わらず、この騒がしさには参るな。」
毎日毎日同じ所に行き、意味不明の問題をいくつも解かされる場所。
まったく困ったもんだ……良いことなど少しもないじゃないか、とぼやきたい永遠のぼっちなのだがそうは問屋が卸さない。
去年まで通っていた無味無臭の中学校の頃までであって、今は少し違うのだ。
「こっちにまっすぐ向かってくるなっての、アイツのおかげで俺があらぬ誤解を受けてるじゃねーか。」
今年から伏恋学園という、偏差値も対して高くない進学校に通っているのである。
特に突出したところのない俺であるが、平均的で、普通で、変わりもない、さもありなんな俺であるが、詰まるとこ何か言いたいのではなくただひたすらに暇な余生を過ごしたい俺であるが、如何せんこの場所ではそうもいかない。
ついこの間までお嬢様学校として名を馳せていた伏恋学園は、去年の四月一日、テレビ放送でイケメンともとれるほど凛々しい女性が言っていたことに軽く驚いた、いや身体中を電流がかけめぐった、衝撃が芸術と化した。