仲間はコイシ
見渡す限りの暗い暗い闇
温い風が肌を舐める
桜が降りゆくこの季節
立っているのは何故ですか?
動いているのは何故ですか?
生きる意味のないこの世界。
貴方達はなぜ抗うのですか?
星のように輝いているのに
貴方は何故泣いているのですか?
私は分からない。
月と星が輝く時間、春となれど辺りの空気はまだ寒い。
黄色い十字線の入った、大きめの黒いコートに身を包み、三十階建てビルの屋上に俺はいる。
二十一歳になり、もう五年はこの世界にいることになるが何一つ代わり映えはしない。
軽く寝不足の目を擦りながら、誰に言うでもなくそんなことをキメ顔で考えてみる。
しかしながら、そんなハードボイルドを決め込んだ俺は、後ろから見事に蹴り倒されてしまう。
さっきから、夜とは思えない程凄まじい喧騒の後ろの人達。
見れば、まるで主婦がタイムセールの勝負時によくやっていそうな表情で、色んな背格好の男女がひしめき合う、暑苦しい現場があった。
ちょっと卑猥に聞こえるが、そういう意味じゃないのは理解してほしい。
はぁ、なんでこんな所にいるものかな。
この世界にはあまり長くいたくないのだが。
そんな愚痴を思っていると、目の前に一人の男が来た。
薄い檸檬色の髪に幼さのこる顔立ちの少年は、手にハンドガンや切れ味が鋭そうなナイフ、見るからに痛々しいトゲ付きの靴等を持っている。
普通なら無視して終了なのだが、残念ながら知り合いなのでそういう訳にもいかない。
「シキっち!
こんなに沢山の商品をゲットしたよ!」
無邪気な顔には靴で踏まれたような跡が何ヵ所も付いている。
よっぽど頑張って取ったのだろうが、その顔で笑顔だとどこぞのマゾにしかみえないのは気のせいだろうか?
意味のない心配をしてみて、大きくため息をはく。
「おい、ユズト。」
「ん? どうしたっすかシキっち。もしかして俺のことを尊敬しました?
いや、実際自分でもそう思ったんすよ
俺って超凄くね激やばなんじゃね? って。」
随分興奮してるせいか、いつもよりウザさが倍増していた。
少し殴りたくなったが、ここはグッと我慢してみようと自分に言い聞かせる。
「あぁ凄い凄い。
ユズトの頭のデキ具合には毎度毎度驚かされるな。」
「おお! お褒めに預かり光栄です!」
ふむ、どうやらコイツはバカにされていることにすら分からないらしい、檸檬色の短髪がバカっぽい顔によく似合っている。
結論的に言うとすれば、すなわちただのバカか、あるいわただのバカか、一択しかないだろう。
「とりあえずユズト。
それ全部返してこい。
どうせこの世界でお前が持っていても無駄になるものだ。」
「えっ? マジっすか?」
「マジで。」
「ウソー、頑張ったのに。」
分かりやすくガックリと肩を落としながら、さっきまで興奮して煩かったのが嘘のように、人混みの中に戻っていく。
入って行く際に、何度か弾き飛ばされる様にはこの世界で生き残れるかどうかの不安を掻き立てられた。
「大丈夫かアイツ。
まあ、あれでこそユズトなんだろうが。」
誰に言うでもなく呟くと、目を閉じてポケットから煙草を取りだし、口にくわえようとした。