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友達は出会い3

今日ここにいる意味は一体何だったか、大事なことのようで実はどうでもいいような……


だが、アタリを見渡せばそれはすぐに分かることだった。

あっ、今日入学式だ。


「比奈! その自転車の後ろに俺を乗せてくれ!」


キョトンとこちらを見る一対の瞳は、瞬間言いたいことを悟ったようで、真っ赤に塗られた自転車に目をやった。


「そうしてあげたいのは山々なんだけどね、私の可憐式二号がぶつかった衝撃で、チェーンが外れちゃって動かないんだよね……」


苦笑いを浮かべながらそう言うと、小さくゴメンねと謝ってくる。


瞬間、俺は比奈の手を引いて体育館へと足早に向かっていった。


息を切らせて走っていく俺は、ふと思った。

もう三十分も過ぎているのになぜこんなに走っているのだろう。



どうせ入学式だ、どっかのオジサンが心にもない祝辞でも送っているのだろう。


そう思うと、急に走るのがめんどくさくなってくる。

ゆっくりと荒れた息を整えていく俺は、徐々に感じていく左手の温かみを認識し、黒い瞳だけを、手の方に向けた。



そこには俺と全く同じように息を整えている比奈が、しっかりと手をにぎっている。


走ったからだと思うが、顔も幾分か紅潮して、手と手の間には、接着剤のように汗同士が絡み付いていた。


「おやおや、香蓮ちゃんは、私が好きなのかな?

ずーっと手をにぎってるんだけどな。」


言いながらケラケラと笑う比奈を見て、不覚にもドキドキと心臓を高鳴らせていく。


まるで近所の騒音おばさんの騒音で、眠れない夜を過ごしていく気分のようだ。


「そんなんじゃない……

お前の手なんか握っても嬉しいことなんかなにもないんだからねっ!」


何でツンデレなんだよ! とツッコミを入れないのは暗黙の了解。


そんな言葉は相手にもされず、挙動不審に挙動不審を重ねる結果となった。


「どう?私の呼び方気に入ってくれた?」


ふと目を会わせながら聞いてきた。


パッと思いついたような口調の言い方、特に話題もなくなったから違う話を、そんな喋り方であるが、何故か真剣でもある。



少し間を置いて、ほんの少しだけ微笑んでいた。 


「比奈にそう呼ばれるんなら、別に悪い気はしないかな。」


それは思わず口にでてしまった自然な言葉。

言った後で、高所恐怖症の人がスカイダイビングをするぐらいの後悔をした。



だがそれとは反対に、ニヤニヤとしている女の子が一人。


まるで子供がイタズラするときのような表情。


「へー。

私と初対面なのに、いきなり呼び捨てなんだ。

やっぱり私に好意を持ってくれているのかな?」



それは断じて違うと言って置こう。


「照れちゃうなぁ。

でもまー、許してあげちゃおう。でも初めてだよ、私の名前を言ってくれた男友達は。」


こらこら、俺達はいつから友達になったんだ?


「おやおや、友達じゃ足りなかなった?

流石にまだ恋人は無理よ? でも親友なら大歓迎かな。」


まるで心を読んだように、会話をするのはビックリだ。



そんなことを考えながら比奈を見ると、さっきと違い、柔らかい本物の笑みを浮かべていた。


そんな笑顔に、不覚にもトキメイてしまう自分がいる。そんな俺は、この瞬間比奈の親友となっていた。俺達はその後、急いで体育館に駆け込んだ。


予想通り、どこかのオッサンの祝辞が言われており、限り無く眠くなりそうだ。


その話が終わると同時に、始業式も閉式された。


ということは、今のはどうも教頭先生ということらしい。



まぁ教頭フェチでもないため話を変えるが、俺と比奈は勿論のこと新しく配属された、担任にこっぴどくしかられてしまった。


特に知らせることでもないが。


その日の放課後、といっても一時ぐらいだが、俺は何故か比奈と隣合わせで並んでいた。


隣を向けば息がかかるほど近く、少しドキドキしてたりする。


比奈も同じようにドキドキしている。

という思い込みと共に、アスファルトで舗装された住宅街を、踏みしめながら歩いていく。



「ねぇ香蓮ちゃんはさ、今日なんで遅刻したの?」


素朴な質問はハート型の髪留めをしてる、茶髪の女の子からされた。


過ぎ行く代わり映えのしないブロック塀が、代わりに答えてくれるはずなく、俺が答える。



「昨日の夜に妹といやらしいことをしてたから。」


「えっ! 妹ちゃんがいるんだ!」


おやおや、冗談の方は無視ですか。

ならばこちらにも考えが。


「そうだね、今中二の妹

と夜な夜な口では言えないことをしているんだ。」


「はいはい、香蓮ちゃんは嘘が好きだねー?

話の五割は嘘が混じってるよ。」


いえいえ、反応していただきありがとうございます。

と心中で思い、言葉を発する。


「そんなことはない、なんたって俺は思春期真っ盛りの高校一年生だぜい!」


「また嘘、だってナイスバデーを持っている私を襲わないんだから。」


言いながら自分で笑っている。

しかしまぁ、ナイスバデー? かは知らないが可愛いことは認めよう。


つかナイスバデーってなんだよ、ナイスボディーだろ? それともナイスバディーってことか、と心中で付け足す。


「いえいえ、今もナイスバデーな比奈サマを見て衝動を押さえるのがヤットデス。」


「それは丁重にお断わりしよう。」


「まぁそれは残念です。」



俺達は一通りのバカみたいなコントをしていると、お互い笑いあった。


ある和風な家の前にいる大型犬から吠えられたり、無断で柿の葉をちぎって手裏剣遊びしてたら、ハゲたオッサンに追い掛けられたりしているうちに、いつの間にか手をつないでいた。


再び手に収束する神経を熱くさせ、俺は微笑んでいる。


「ねぇ私達ってさ、他から見ればカップルに見えたりしてるのかな?」


ビックリして頬を急激に紅く染め上げる俺を余所に、比奈は近頃流行りのアニメソングを、鼻歌混じりに歌っていた。


だから俺は小さな声でボソッと、バカップルだろと呟いてしまう。


出来れば聞き逃して欲しかったがそうも行かなかったようだ。


頬を血行良くさせ、こっちを見てくる。


俺達って今日初めてあったばかりだよな? という疑問は一度脳をちらついただけで、後ででてくることはなかった。


頭のはるか上で、カラスが何羽か空をゆっくりと飛んでいる。



「あり? カップルて言うのは認めちゃうんだ。

もしかして香蓮ちゃん私を口説いてるのー?」


「アホ……」


「フヘヘ、初めて会ったナイスバデーの女の子を口説くなんて流石だね。」


こらこら、親指を突き出すな。


「ところで、話を大幅に360度変えるけど……」


「それって一周してるじゃん。」


まさかの厳しいツッコミに俺はへこんだ、冗談だが。


「じゃあ180度変わるけど、もうすぐ俺は家につくけど?」


そう、実際に俺の家はもう百メートルもないほどに近づいていた。


それを聞いた比奈は、何かを確認するように目を瞑り、再び目を開けた。


すると一転して不思議そうに首を横に捻る。 


「あれ?

じゃあ家がすぐ近くなんだね。引っ越しでもしたのかな?」


あらあらまあまあ、バレちゃあしょうがない。

比奈の言うとおり俺は、妹と二人でマンションに引っ越してきたのだ。


今年の春休みに親から離れたいと思ったから、というのがまあほとんどの理由のはず。


「そうそう、春休みのうちに引っ越してきたんだ。」


比奈は何かを思いついたように、目を輝かせてこっちを向いた。


それと同時に腰の辺りにあった指を、口元にまでもってくる。


まるで内緒だよっといってるようなポーズ。

ポーズだけだろうが。



「じゃあまだまだ町のことは分からないんだ、私がゴールデンウィークにでも案内してあげようか?

あっ、妹ちゃんがいるなら妹ちゃんも一緒にね。」


最後の付け足しのような文を気にしながら、俺はありがとうと言う返事を返した。


そんなことと同時に、俺はまだまだ葉っぱばかりの柿の木に囲まれた、八階建てのマンションにたどり着いている。


俺の家は言うまでもなくこのマンションであり、408号室を占拠している。



マンションの前で止まったからなのか、比奈は何か分かったように手を打った。


「ここに香蓮ちゃんの部屋があるんだ、じゃあついでに妹ちゃんに会っていこうか!」


「待ちなさいな。」


「待ちませんとも、待ちませんとも。」


「ちょっと待てい、何故比奈はこんなに親しくなってくるんだ?」


その質問には返事は来ず、甚だ疑問に思うだけの結果となった。


そんなことを思っているのが悪いのか、親しいお友達は住人じゃなければ開かない、魔法の(自動)ドアの所にたたずんでいた。


「どうしたの志毅お兄ちゃん?

早く中に入ろうよー!

春といえどなかなか寒いんだよ。」


そしてこの言葉である。君の頭には帰るという文字は……


その瞬間、頭の中を奇妙な映像がよぎったような気がした。


茶色のショートヘアをした女の子に、お兄ちゃんと呼ばれる感覚……


しかしいくら考えても、その答えにいきつくことは、今はできそうになかった。


代わりに、比奈がニヒヒと悪戯好きの顔して見ていたことに気付き、ため息を吐く。


「ぷぷー、香蓮ちゃんは同級生に、志毅お兄ちゃんって言わせて妹プレイをさせるのが好みだったんだねえ。

こりゃさっそくクラスの皆に言いふらすしかないな。」


「そんな訳あるか!

勝手に言いふらすなよ!」


ぷぷーと笑いながら、口元を押さえていた比奈はさっきの話題をまた繰り返す。

「でも、本当に今年の春は寒いよね。

桜が咲いてたのが嘘みたい。」


「ああ本当にそうだな。」

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