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1.獅子丘の女主人_またはワケあり王女

冒涜ばっちこーいなこの小説。

でも個人的にはこの物語垂涎ものです。

旧約でアムノンに辱められた・・・(なんかこの言葉恥ずかしいですね・・・汗。)

タマルのその後について全く書かれてないところが

残念ですが・・・それ故に自由に書ける部分が多いかもしれません。

女性としての未来を潰されたタマルという側面だけが旧約では

全面に出てますが・・・前に進もうとする彼女の姿が見たいなぁと

個人的にはそう思いました・・・。

__エルサレム王宮から遥か東に広がる荒野。

地は所々ひび割れ、その割れ目から萎れた細い葉がのぞく。

その大地を見下ろす小高い丘は叩きつけられるような熱風と

砂塵で霞んで見える。

荒野を見下ろす王者のようなその丘はこの辺りに住む者から

『獅子丘』と呼ばれていた。

その丘の頂きにある粗末な小屋。

その小屋はエルサレムの方角を向いており、時々幻のように

ユラユラと立ち上って見えた。

荒野に背を向けその丘を下ると人が住む小さな集落がある。

小さなその集落は20戸程にも満たない。

その小さな民を俯瞰するようにまたはそれから隔絶するように

その丘の小屋は建っている。

滅多に出てこないその主人はどうやら女で

あともう一人侍女らしき女がいる・・・。

村人はその程度しか『獅子丘』に住む住人の事情を知らなかった。

滅多に顔を見せぬ女主人にまつわる噂は尾ヒレ羽ヒレをつけて

まさに百面相といった態だった。

金持ちの都の未亡人であるとか、高貴な家柄で意に沿わぬ結婚を押し付けられて

逃げてきただの・・・はては実は王様の妻妾または姫なのではないかとも。

兎に角ミステリアスな女主人は格好の噂の的であった。

村の人々は女主人から自分たちとは異なる空気を女主人から常常感じていた。

そんな寂れた町に従者を連れた煌びやかな一行が現れたのだ。

彼らは西日を背負って威風堂々とやって来た。

あまりのことに泡を吹いた村の長を寄り集まって介抱する村の住民は

その一行を見た瞬間口をあんぐり開けた。

そこには彼らが見たこともないような優美な都人がいた。

その時彼らの脳裡に浮かんだのは何故か『獅子丘』の小屋に住む女主人のことだった。

一行の馬は毛艶も素晴らしくその鞍は金と真珠をあしらった贅沢なもので

とても村の牛馬と比するのはおこがましいと思えるほどの威容を見せていた。

彼らの衣もその鞍にも負けず色鮮やかで一見して値打ちものであると分かる。

だがそんなものより村人の目を引いたのは

従者に守られた主人と思しき男の巍然たる容貌だった。


__なんて美しい男だ・・・。まるで王様みたいじゃあないか。


少し日焼けた顔にキリリとした眉と鋭い双眸が収まっており、

その口元は引き結ばれている。

そして良く引き締まった肉体は彫像のように均整が取れていて硬質的。

彼の跨る馬はしなやかな筋肉が浮き出ている豪壮な黒馬だったが、

遜色なく彼は乗りこなしている。

だが、何より印象的なのはその長い長い黒髪。

惜しげもなく風に散らせているその髪は得も言われぬ華やかさだった。

光沢があり眩く陽の光を溶け込ませたかのようなその髪。

ぼうっとその謎の男に見惚れてしまう村の人々である。

その王のような神のような彫像の如き男が口を動かしたので

何故かそのことを不思議に思ってしまう皆だった。

「そこの男。」

名指しされた男が変な声をあげた。

「・・・ここに、女がいないか?・・・美しい赤毛の女だ。」

「へ・・・へい。将軍様か何かでございますでしょうか・・・。」

「・・・そんなところだ。」

村の人々はその場に平服した。

そして顔を互いに見合わせる。

「・・・赤毛なんて珍しい・・・この村にはいないよな。」

「・・・あの『獅子丘』の女のこと言ってるのかなぁ・・・。

あ、もしかして旦那さん?」

「・・・赤毛だっけかなぁ・・・あの女は・・・。

というかあの人は金持ちの未亡人じゃないのか?」

「あの女主人の侍女ぽい人は赤毛じゃあないけどな・・・。

あの丘の女主人は赤毛なのか?」

村の衆はゴニョゴニョと何やら言い交わす。

言い合う間を与えるのも惜しいのか黒髪の偉丈夫は性急に促した。

「兎に角、その『獅子丘』の女とやらの元に案内しろ!」

その目に映った夕日が埋火のように瞳の奥で揺らめいた。



その噂の渦中の二人は丘の小屋で今日もいつも通り過ごしていた。

「姫様・・・砂塵が止みました。今ならエルサレムの方角がよく見えますわ。」

小屋の外から羊の毛をカゴいっぱいに入れた若い女が小屋に入ってきた。

茶色い髪に黒い瞳というよくありがちな特徴だが、

顔にそばかすが散っているのが愛らしい。

「ああ・・・戻ったのね。よく取れたかしら?」

その声に応えたのは灰色の冴えないスカーフを被った女。

とても『姫様』には見えない地味な感じの服を着ている。

そしてこの小屋の室内は簡素にして素朴・・・つまり必要以上の家財は置いていない

ガランとした印象・・・が目立っており、

このことも同様に『姫様』の居城とは思えない有様であった。

しかしその『姫様』の顔は窶れていても気品があり、繊細な美しさを誇っていた。

特徴的なことといえば、少しつり目で鋭い印象を受けることや、

背が高く均整的な肉体が中性的な雰囲気を放っていることだろう。

また服が地味であるのが逆に清淑な印象を与える。

「姫様!ちょっと外に出てみませんか?」

暗い空気を吹き飛ばすようにカゴをおろしながら言う侍女らしき女だったが、

『姫様』と呼ばれた女は憂鬱そうに答えた。

「・・・そう。でもジロジロ見られるからいいわ。

変な噂立てられるのも嫌だし。

・・・仕事をしなくては。」

そう言うと彼女は羊の毛が盛ってあるカゴに近づき

羊毛の量を確かめた。

そして、よく取れているわと笑った。

「・・・王子様はお元気でしょうか?」

「・・・元気であることを祈るわ。

なんだかこうして暮らしていると

ちょっと前のことなのに遠い夢のように感じるわね。」

彼女はそう言うと羊の毛の繊維の束を一掴みした。

それを既に撚った糸に結びつけ、その先をこまのような道具

_スピンドルの軸の下に括りつけ固定する。

「・・・アクサ。私が糸を引き出すから回して頂戴。」

「姫様も大分ここの暮らしに慣れられましたね。

良かったです。」

そう言うと侍女らしき女・・・アクサは主人にニコと笑いかけて

「とりゃあ!」

スピンドルを空中で回転させる。

「・・・私たち王宮にいた頃は全くこういうことしなかったわよね。

布が納められているのを見てもそれがどんな風に作られているか知らなかった。

父上だってベツレヘムの領主の子だったけど羊番位はしていたのにね。」

顔を見合わせて笑い合う。

「・・・ちょっと感動?みたいな感じですかね。」

「私・・・別に不幸じゃないわよ。こんなに穏やかな暮らしが出来るんですもの。

昔に比べれば糸紡ぎも羊の世話も上手くなった。

それが楽しいから生きていて幸せだわ。

ただ・・・」

そう言って顔を曇らせる女主人の顔色を見てアクサは溜息をついた。

「殿下のお噂を気になさっていますのね。

お耳に入れなければ良かったですか?

姫様・・・陛下と王子様はどうなさるおつもりでしょう・・・。」

「どうするも何もお兄様はお父様を既にエルサレムの王宮から追い出した。

お兄様は元々王になりたがっていた。

・・・あの憎い男を殺してその欲は一層深まったのよ。

もうどうにもならないわ。・・・お兄様かお父様どちらかが倒れるのね。」

「・・・姫様、エルサレムに戻らないのですか?

王子様は姫様のお戻りを大層・・・」

「・・・私は逃げたのよ。お兄様が狂っていく様を見たくない。」

「・・・姫様。」

紡ぎ手を失ってただ宙にぶら下がる紡錘。

糸が解けて逆回転を始めた。

「・・・ああっ、姫様!糸、糸!」

慌てて紡錘を止めるとまた紡ぎ直す。

順調にまた糸が溜まっていく。

その様を見て女主人はポツリとこぼした。

「・・・この糸のように拗れた思いをまきなおせるのならばどんなにいいかしら。

でも・・・巻き直せなくとも、糸はどんな形であれ収束するわ。」

「・・・どんな形であれ?」

「そう。どんなに不格好な結末でも終わらない運命はない・・・。

私はその結末をただ見ていようと思うの。」

気が逸れたのか彼女は糸を強く引き過ぎてしまった。

糸をなしている繊維がブツリとそこで切れる。

「・・・ああ。またやってしまったわね。

でも昔よりはマシ・・・。」

「巻いてしまいましょう。」

思わず頭を抱える女主人を見て笑うアクサ。

彼女は出来た糸をスピンドルから外してクルクル巻く。

一方女主人は羊毛を引きやすいように細長く形を変える。

「・・・つまり姫様は戻らない気なのですね。」

「私ね・・・二度とお兄様とは会わない・・・会いたくないの。」

「・・・それで宜しいのですか?」

アクサは穏やかに聞き返した。

「・・・お兄様と私は離れていた方がいいわ・・・。

お兄様に会うのがなんだか怖いの。

・・・逃げているだけなのかな?私卑怯よね・・・。」

アクサは糸を放ったらかして女主人の手を握る。

「・・・何故です!一番傷ついてらっしゃるのは姫様ご自身ではありませんか!」

「・・・いいえ。お兄様の方が私より可哀想だわ。

私は日々変わっていくのに、お兄様は変われない。

かつて私はお兄様のその肩に凭れて泣いたのに・・・。

私がしたことは?お兄様が辛い時に放ったらかして逃げただけ。」

アクサは何か言おうとしたが何も言えなかった。

ただ眉根を悲しげ寄せる。

自分が何を言ったところで主人の罪悪感が薄れることは無いのだろうと

理解する彼女は糸巻きに戻る。

場に静寂が満ちる。放っておいてやることがアクサなりの思いやりだった。

彼女たちはそれぞれの思いを胸に作業を続ける。

それは重苦しくもあるが心地よい間だった。

そんな彼女達の静寂を破ったのは小屋に近づく人々の気配だった。

「・・・なんでしょうか?」

「なんだか大勢の人が近づいて来るような・・・。」

アクサは小屋の扉を少しだけ開けた。

その目に飛び込んできたのは__

「・・・で、殿下!!」

「・・・アクサどうしたの?」

白い顔で主人を見るアクサに訝しげに女主人は問い返す。

アクサはよろけるようにして女主人の元に戻るとしがみついた。

「どう致しましょう!姫様は兄上様に会いたくないのに・・・。」

「・・・なんで今お兄様の話なんか・・・。」

パニックを起こしているのか要領を得ない自分の侍女を

まじまじと見詰める女主人。

そんな主人の表情をみてもどかしいと

言わんばかりの表情をするアクサ。

「・・・来てるんです!!姫様のお兄様が!!殿下が!!第三王子様が!!」

「・・・何言っているの?」

その時だった。

扉に長い優雅な指輪の嵌った指が差し込まれたのだ。

二人は絶句してその扉が開かれる様を見ているよりなかった。

__ギィギィギギギ・・・。

ひしゃげた音が彼ら兄妹の邂逅を不吉に祝っている・・・。

その先にいたのは_女主人の兄である・・・美しい髪が特徴的な件の貴公子だった。

両者は暫く何も言わず、ただそこにあった。

呆然とお互いの顔を眺めるのみである。

先に口火を切ったのは兄の方だった。

「・・・タマルなのか?」

感極まった様にそう言うと小屋の中に入っていき女主人の頤を持ち上げた。

「ああ・・・やっぱりタマルだ!俺のタマル!」

歓声じみた声を上げると女主人のスカーフを剥ぎ取った。

パサリと髪がこぼれ落ちる。

その色は目にも眩しい情熱的な赤だった。

「・・・そうだ。この色だ・・・。

まるで光の具合でカーネリアンのように柔らかいこの色・・・。」

そう言ってギュッと抱き潰さんばかりに彼は妹を抱きしめた。

「何故逃げた・・・俺を置いて何処に行ってたんだ・・・。

どうしてこんないらぬ苦労をするのだ・・・。

服も擦り切れているではないか・・・。」

慟哭に近い声でその腕の力を強める。

「お前は俺の傍にいればいいんだ・・・。

一生離さないからな・・・もう。

戦が終わったら俺はお前を連れて帰るんだ・・・。」

「・・・お・・・お兄様・・・。」

女主人・・・タマルは苦しそうに喘いだ。

息が絶え絶えになっている。

「・・・殿下・・・姫様の息が・・・。」

「煩い!邪魔するな!!下がれ!」

「申し訳ございません・・・。」

アクサは下がれと言われても部屋はひと部屋しか無いのに気づき

思わず辺りを見回してしまった。

仕方なく外に出ていこうとするも自分の主人が心配で仕方がなかった。

そんな様子にしびれを切らしたのか貴公子・・・アブサロム王子はイライラと怒鳴った。

「さっさと出て行け!」

「・・・申し訳ございません!!」

女主人に心配気な一瞥をやると、彼女は小屋から去る。

アブサロム王子は妹に向き直った。

「お兄様・・・。」

「私は・・・アブサロム兄様と呼べとお前に昔言ったのに。

忘れてしまったのか?」

情人を見るような切なげな目で見られてタマルは焦った。

そしてこの感情をなんとしてでも否定せねばと思うのだ。

「・・・お兄様・・・どちらでも同じことだわ。」

目をそらしながら言う妹にアブサロム王子は激した。

「違う!!俺は・・・。

そうだ!!お前・・・なぜ去ったんだ!タマル・・・。」

そのよく磨かれた刃のような視線を激させアブサロム王子は彼の妹を睨みつけた。


いきなりオリキャラです。

アクサは旧約から適当に引っ張って来ただけの女性。

・・・彼女を支える侍女が欲しかったのだ(^_^;)

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