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赤の空  作者:
プロローグ
1/53

1.

 死ぬのが怖くなかったわけでは、多分、ない。


 ただ、生きるのが忙しすぎて、疲れてどうでもよくなって、忘れていた。だから深く考えることなく頷いていた。甘美な誘いにも思えたから。


 そして。


「っ‥‥どうしよう」


 光の一片も入らない暗い部屋の中。つぶさは、呆然と座っていた。


 もっとも立とうとしてもできないほどの、狭さではある。つぶさがへたり込んだその高さくらいしかない。横幅にしろ縦幅にしろ、足を伸ばして座ったくらいのせまい場所だ。それは、先ほどから手探りで、頭を打ったりもしながら探った結果からも明らかだった。


「‥‥どうしよう‥‥」


 なんだか、あまりにも何もかもが突然すぎて、現実感がなかった。だから決心がつかない。


(わたしが、なんだって?)


 悪寒がして、振り切るように首を強く振った。自分の体を抱く。震えている?


 そうだ。怖い。


 この暗いせまい部屋は棺なのだから。死んだつもりでいろいろなことを考えると、死は怖い。


 でも。


 つぶさは見上げた。決して空など見えないが――死人は空を見ない――、それでも赤い空は心に浮かぶ。胸騒ぎのする、赤黒い空を。


(わたしが、ちゃんと死ねれば、みんなは助かるの)


 それは、ひどく甘美な思考だった。


 この暗い棺の中で、つぶさがきちんと死ぬことができたなら、空は元の青さを取り戻すのだ。自分はすべてを救うことが出来る。それだけの存在を有している。


(‥‥ちゃんと、死ねれば)


 くすくすと笑いがもれたが、それもすぐ消えた。


(‥‥ダメだ――)


 どうして自分なのだろう。苛立ちで、つぶさは壁を蹴った。こんなに弱い自分などではなく、もっと他の、いとも簡単に死んでしまえる人ならよかったのに。つぶさは、この体を捨てられない。みんなの心に生きるなんて、耐えられない。


(ごめん、みんな‥‥)


 きっと死にぞこなってしまう。


 涙が頬を伝う。駄目だ。つぶさは死ねない。


 思いながら泣きながら、つぶさは抱いていた剣を手に握った。手が震える。けれど、暗くて見えなくてよかった。


(ごめん。わたしは‥‥どうせ死ぬなら、みんなと一緒がいいの‥‥)


 重い。確かにこれだけの重さがあれば、死のうと思えば死ねた。それを分かりながら、これからつぶさはすべてを裏切りにいく。


 ひゅ。


 風を切る音が、暗闇に溶けた。


 流れ出る血の量は膨大だったけれど、足りないことをつぶさは知っていた。

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