1.
死ぬのが怖くなかったわけでは、多分、ない。
ただ、生きるのが忙しすぎて、疲れてどうでもよくなって、忘れていた。だから深く考えることなく頷いていた。甘美な誘いにも思えたから。
そして。
「っ‥‥どうしよう」
光の一片も入らない暗い部屋の中。つぶさは、呆然と座っていた。
もっとも立とうとしてもできないほどの、狭さではある。つぶさがへたり込んだその高さくらいしかない。横幅にしろ縦幅にしろ、足を伸ばして座ったくらいのせまい場所だ。それは、先ほどから手探りで、頭を打ったりもしながら探った結果からも明らかだった。
「‥‥どうしよう‥‥」
なんだか、あまりにも何もかもが突然すぎて、現実感がなかった。だから決心がつかない。
(わたしが、なんだって?)
悪寒がして、振り切るように首を強く振った。自分の体を抱く。震えている?
そうだ。怖い。
この暗いせまい部屋は棺なのだから。死んだつもりでいろいろなことを考えると、死は怖い。
でも。
つぶさは見上げた。決して空など見えないが――死人は空を見ない――、それでも赤い空は心に浮かぶ。胸騒ぎのする、赤黒い空を。
(わたしが、ちゃんと死ねれば、みんなは助かるの)
それは、ひどく甘美な思考だった。
この暗い棺の中で、つぶさがきちんと死ぬことができたなら、空は元の青さを取り戻すのだ。自分はすべてを救うことが出来る。それだけの存在を有している。
(‥‥ちゃんと、死ねれば)
くすくすと笑いがもれたが、それもすぐ消えた。
(‥‥ダメだ――)
どうして自分なのだろう。苛立ちで、つぶさは壁を蹴った。こんなに弱い自分などではなく、もっと他の、いとも簡単に死んでしまえる人ならよかったのに。つぶさは、この体を捨てられない。みんなの心に生きるなんて、耐えられない。
(ごめん、みんな‥‥)
きっと死にぞこなってしまう。
涙が頬を伝う。駄目だ。つぶさは死ねない。
思いながら泣きながら、つぶさは抱いていた剣を手に握った。手が震える。けれど、暗くて見えなくてよかった。
(ごめん。わたしは‥‥どうせ死ぬなら、みんなと一緒がいいの‥‥)
重い。確かにこれだけの重さがあれば、死のうと思えば死ねた。それを分かりながら、これからつぶさはすべてを裏切りにいく。
ひゅ。
風を切る音が、暗闇に溶けた。
流れ出る血の量は膨大だったけれど、足りないことをつぶさは知っていた。